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助け合おう

 アルマが林を除くとシェムナがいた。額から汗を流しながら手の平に魔力を集中させている。

 水の玉が形成されるが膨れ上がった瞬間、破裂してシェムナの全身を濡らした。

 次は木の葉を揺らして風の魔法を試みる。しかし木の葉が一瞬で散って木の枝が切れてしまった。

 シェムナは落胆しつつも、息を切らして次の魔法を放とうとしている。

 シェムナの表情は真剣そのものでアルマはしばらくの間、魅入ってしまった。

 何度やろうと魔法は一瞬で弾けたり消えてしまう。シェムナは諦めたようにして地面にあぐらを座ってしまった。


「はぁ……。やっぱりマジ無理だし……アタシなんかが……」


 そんな呟きを聞いたアルマはおおよそを察した。

 シェムナの授業態度は至って真面目だ。むしろ自分と同じくらい真剣であり、魔法と向き合っている。

 隠れて練習していた意味もなんとなく理解したが、アルマはどうしようかと考えた。

 ここで声をかけていいものかと考えて、そっと場を離れようとする。しかし枝を踏んで音が鳴ってしまった。


(あっ……!)


 こんなベタなことが現実で起こるのかとアルマは恥ずかしくなる。

 当然、シェムナは音がした方向を向いてアルマに気づいた。


「あ、こ、こんばんは」

「あんた、確かアルマ……。こんなところで何をしてるのさ」

「いや、たまたま姿が見えたから……」

「あんたまでアタシが男と付き合ってるんじゃないかとか思ってるんだろ?」


 シェムナはアルマを軽蔑するように見据えた。アルマは全力で頭を左右に振って否定する。

 しかし尾行していたのは事実であり、それは誤魔化しようがない。

 下手なことを言えばシェムナを傷つける。アルマは言葉を慎重に選んだ。


「ごめんなさい。あなたが気になったからつい追ってみた。だって誰よりも真面目なのに、皆からあんな風に言われてるからさ……」

「アタシが真面目だって?」

「真面目じゃなかったら実習の時にあんなに悔しがらないでしょ。私も色々言われてるからね」

「……あんたは平気なの?」

「何が?」


 シェムナは目を伏せてから木陰に移動して座り込む。アルマが彼女の腕を見ると、小さい傷がたくさんついていた。


「皆からバカにされながら頑張るってさ……きついじゃん。アタシの家族だって、クラスメイトだって……」

「それでここで練習をしていたの?」

「家でも落ちこぼれ扱いされて、姉さん達からもバカにされてさ。アタシがいくら努力しても、そんなもの無駄だとか頑張った振りをするななんて言われる」

「それは……」


 シェムナは腕の傷を撫でる。昼間、教室にいた時は長袖を着ていたからアルマも気づかなかった。

 傷以外にも火傷の跡もあり、確実に魔法の練習によるものだと考える。

 シェムナは握り拳を作って地面を叩いた。


「あんたは頑張ってるよね……。教師達から変な目で見られようが、クラスの連中から噂されようがさ。アタシは嫌だよ。だから誰も見てないとこに行きたくなる」

「なるほど……」


 昼間、クラリスが言っていたことをアルマは思い出した。

 他人の努力を笑うのはやめなさい。人として恥ずべき行為だ、と。

 世の中には他人がやっていることや努力を笑う者がいる。その対象がやっている努力とは不釣り合いであるほど笑われる。

 ヤンキーが有名大学を目指して受験勉強をするようなものだ。お前なんかが頑張っても無駄だと笑われる。

 シェムナは見た目がやや派手で軽薄そうなイメージが定着するとアルマは考察した。

 男と付き合っているという噂もそれが影響で出たものであり、まさに根も葉もない。

 しかしシェムナはめげずにこうして陰で努力をしている。アルマもやがて拳を作った。


「いいよ、素敵」

「……はぁ?」

「シェムナがやってることは誰にでもできることじゃないんだよ」

「そんな気休めいらないし」

「そういう時はね、前に出るの」


 アルマがシェムナの手を取る。強制的に立ち上がらせられたシェムナは困惑した。アルマがニッと笑う。


「いっそ堂々としてバカにされながら頑張るんだよ」

「だからそれが嫌だって言ってるんだけど?」

「最初は嫌だろうけどね。そのうち平気になってくるよ。なんていうか……嫌だなって一瞬だけ思うけどすぐに癖になる」

「最初から何を言ってんの!?」


 アルマがシェムナと強引に握手をした。

 完全にアルマのペースであり、シェムナはこの場から逃げ出したいとさえ思っている。

 しかしアルマはシェムナの手を離さない。シェムナにはアルマの瞳が怪しく光った気がした。

 前々から変なクラスメイトだとは思っていたが、ここにきて本性を知ってしまった。シェムナはアルマから逃げ腰だ。


「困難な状況で前に進むってね。気持ちいいんだよ? クラスの皆は恵まれたものを持っているからこんなの味わえない」

「いや味わいたくないんだって!」

「だからさ、私と一緒に気持ちよくなろ?」

「はぁぁーーーー!?」


 アルマはシェムナから手を離して、手の平に水球を作った。

 それが細かく拡散してより小さな水球がいくつも空中に浮かぶ。

 シェムナは思わず目を見張った。それは自分にはできない芸当であり、確実に身につけなければいけないものだと気づく。


「私、魔力はひどいけどコントロールには自信があるからさ。特訓に付き合うよ」

「あんたが? でも……」

「ここまでやっても信用できない?」

「いやいや、そんなことないし!」

「そうかなぁ?」


 アルマはシェムナの顔を覗き込む。シェムナの本音はYESだ。


「顔がそうは言ってないんだよねぇ。いいなぁ、それそれ」

「はぁ? あんた、本当に何を言ってんの?」

「いやぁ、信用されて当然の環境にいたからさ。こういう時ってすっごくゾクゾクするんだよねぇ」

「え、ちょっと、あんたやばいんじゃないの?」


 アルマの両手の指がわきわきと動いている。シェムナは只ならぬ雰囲気を察して今度こそ逃げようとした。

 しかし肩をガッチリと掴まれてしまう。


「よぉし! 信用してもらうぞぉぉー! 一緒に気持ちよくなろっ!」

「ひぃぃーーー!」


 アルマに捕まったシェムナは四つん這いになって逃げようとするものの、すでに特訓は始まっていた。

 アルマのマシンガントークを浴びたシェムナは最初こそ訝しがっていたが、次第に聞き入るようになる。

 その内容は実にわかりやすく、授業よりもわかりやすいと感じてしまうほどだ。

 アルマは少ない魔力で火を操り、水から氷を作った。コントロールのコツを教えると、シェムナは軽くショックを受ける。


「シェムナの場合、魔力がすっごく高いんだと思う。そういうのってよりコツがいるだろうから慎重にやろう」

「なんか漲ってきたし!」


 シェムナはアルマから魔力を抑えるコツを教えてもらった。

 なかなかうまくいかないものの、先ほどのシェムナとは違う。失敗しても今は励ましてくれるクラスメイトがいた。


「惜しい! でもいい調子だよ!」

「よ、よーし! 次こそは……」


 アルマから見ても、シェムナは落ちこぼれではないとわかる。

 大きすぎる魔力を制御する術を誰からも教わらなかっただけだ。

 落ちこぼれ扱いされて、誰も何も教えてくれなかったのだろうとアルマは予想する。


「へぇぇ! 魔力って呼吸なんかも大切なんだね!」

「そうそう、魔力のことばかりに気を取られている魔道士が多いってお父さんが言ってた」

「こんなの授業じゃあまり教えてくれないし! ちょーラッキー!」

「学園の授業はレベルが高いよねぇ。なんていうか『これはもちろん知ってるよね?』みたいなノリで進むからね」

「そーそー! ノートを取るのも大仕事だし!」

 

 シェムナは入学式の前日から一人で夜遅くまで訓練をして門限を破ってしまっていた。

 学年代表のリリーシャにこっぴどく怒られたことを笑いながら話す。自己紹介の時に眠っていたのは訓練疲れだと判明した。


「アタシ、クラリスに謝らないと……。それに助けてもらったのに何も言えてない」

「そうだね。あの子とも仲良く……あ! 門限!」

「やっばいし!」


 気がつけば寮の門限が迫っていた。

 全力疾走して寮まで戻ったものの、待ち構えていたのは学年代表のリリーシャだ。

 仁王立ちで寮の入口に立っており、静かに説教タイムが始まってしまった。

 決して怒鳴ったりするわけでもなく、淡々と正論を突きつけられる。

 シェムナは辟易していたが、アルマは説教される経験など初めてだ。


「こ、これが自分の不出来を指摘されているってこと……へへ、えへへ……」

「ちょっとアルマさん? 聞いてるのかしら?」

「はい! ご指導、ご鞭撻のほどありがとうございます! 遠慮せずに続けてください!」

「……そう。それじゃ遠慮しないわね」


 こうして説教時間が無事、延長されてしまう。

 シェムナは後悔していた。ひょっとしたら友達付き合いを間違えたのではないか、と。

 怒られている最中、アルマは口を半開きにして実に満ち足りた表情をしていた。

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