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努力を笑うのはやめなさい

 翌日からエルティリア学園での授業が始まった。術戦科は術戦魔道士育成が目的なので内容は実戦に特化している。

 魔術式学や魔法力学などの科目における教科書も、すべて実戦ありきの内容だ。

 接近された際にもっとも早く構築できる魔術式や魔術式キャンセルなど、高度な内容が目白押しだった。

 そんな授業でアルマは生まれて初めてノートを取るという行為に及ぶ。


(やばっ! 新しいこと知識がどんどん出てくる! やばっ! これが、これが勉強!)


 鼻息を荒くして授業を受けているアルマはすでに各科目の担当教師に奇異な目で見られている。

 職員室でも職員達の間で話の種となっていた。あまりに授業が難しくておかしくなったのではないか、と。

 授業なんてきちんと話を聞いていれば試験の点数は取れる。そんな前世におけるアルマの余裕など、今はどこにもない。

 授業が終わった後の休み時間、アルマが背伸びをして一息つくと視界に教室から出ていくシェムナが入った。自己紹介の時に、アルマがギャル風といった印象を持った少女だ。

 最初はトイレかと思ったが、授業が終わるたびに出ていく。

 クラス内では授業の復習に勤しむクラスメイトが目立つ中、余裕があるように見えた。

 それから休み時間、彼女の姿は食堂にも見当たらない。

 そんなシェムナについて、学園内で付き合っている男がいるのではないかという噂が流れ始めた。

 アルマから見ればシェムナの授業態度は意外にも真面目で、とてもそうは思えない。


(そんな噂を勝手にばらまいたら名誉棄損で訴えられるんだぞ、なんてね)


 などと前世の法基準でぼんやりと考えていたが、アルマにシェムナのことを気にかけている余裕などない。

 授業は座学だけでなく実習もある。一年生の実習では自分の適正を見つけることが優先する。入学試験の時はそれもわからない生徒が山ほどいた。

 魔道士といっても得意な魔法は個人によって異なる。どの属性に適正があるのか、実習を通して見極めていく。

 基本属性は炎、水、地、雷、風の五つ。ほとんどの魔道士はこのどれかの属性魔法を使う。

 他には光や闇などがあるが、適正を持つ者は滅多にいない。

 更に中には固有属性オリジナルという独自の属性に目覚める魔道士もいるとアルマ達は学んだ。


「新緑魔道士と呼ばれた四賢者の一人、ドラルドは木属性という唯一無二の属性魔法を使います」

「メレヤ先生。木属性ってどんな魔法なんですか?」

「木を操ったり生やしたり……。大森林を形成するほどの力を持つと言われてます」

「大森林!? 具体的にはどういった魔術式なんですか!?」

「そ、それがわかったら私はここで教師をやってませんねぇ……」


 メレヤに質問攻めをしたアルマは反省した。クラスメイトからも引かれているのも感じている。

 実習では各属性の基礎を学んだ後、魔力反応を見ることになった。使用するのは入学試験の実技でも使った魔力を計測するオーブだ。

 この場合、各属性の基礎魔法を放つ必要はない。例えば火属性魔法といっても熱を放つ程度でいいからだ。

 水属性なら空気中のかすかな水分変化と冷気など、基礎魔法以前の変化さえ起こせればいい。

 熱を発生させる程度なら誰でも出来る。クラスメイトは順番にオーブに手を当てて、その反応を楽しんでいた。


「俺の熱にかなり反応してる! 黒い点が動きまくってるぞ!」

「私はあまり……。炎には適正がないってことか」


 各々、自分の適正に一喜一憂していた。そんな中、アルマはすべての属性に微弱な反応がある程度だ。

 良く言えばすべての属性に適正があり、悪く言えばすべての属性における必要な魔力が足りてない。いわゆる器用貧乏の劣化だ。

 自分の魔力の低さはわかっていたので、アルマにとって目新しい結果ではない。

 アルマが知りたいのは低魔力の中での応用力だ。例えばコップの中に水を満たすことができない魔力量でも、少量の水さえあれば生物を殺せると知っている。

 今のアルマは魔力が低いことは大きな問題ではないとすら考えていた。


「おい、アルマの奴を見ろよ。ありゃひどいぞ」

「え? 何も反応してなくね?」

「してるんだよ、あれで!」

「あれで術戦魔道士になろうとしてるのかよ。さすがに舐めすぎだろ……」


 一部ではアルマの低い魔力をからかう者もいる。後ろ指を指される感覚だが、アルマは雑音としか思ってない。

 前世では考えられないような体験にすらアルマは感謝している。


(むしろすべての属性の適正があるんだから、やれることの幅は広がるんだよねぇ)


 そう思って指先から少量の水を出して、くねくねと躍らせる。

 この水をバカにしている連中の体内の器官に潜り込ませるだけで殺せるとほくそ笑んでいた。

 そんなアルマを決して軽んじない人物が一人いる。担任のメレヤだ。


(す、少ない魔力とはいえ……。ぜ、ぜ、全部の属性に満遍なく適正があるなんてほとんど聞いたことがない……)


 メレヤの感想は正しい。すべての属性を操れるなど賢者と呼ばれる人物になってようやく、だ。

 国内で名が知れている魔道士達も、ほとんどが一つの属性に特化して活躍している。適正がない属性を伸ばすだけ時間の無駄だからだ。

 メレヤがアルマに驚いていると、視界に一人の生徒が映る。


「あぁ……もう、なんでうまくいかねーのさ……あっつっ!」


 シェムナがオーブに手を当てては自分が放った熱で熱がっている。水属性となればなぜか自分がびしょ濡れになる。

 あまりに一瞬なので黒い点の揺れがわからず、適正以前の問題だった。

 メレヤは彼女の入学試験を思い出す。実技試験ではヤケクソになって試験官に接近した彼女は魔法を使った。

 一瞬の爆発でシェムナは試験官ごと巻き込んだ。メレヤはシェムナが不合格かと思ったが、合格している。


「おいおい、シェムナのやつも見ろよ。あれってギャグなのか?」

「普段から遊び歩いてるから、あんなことになるんだよ」

「でもどうせ彼氏にでも慰めてもらうんだろ?」


 クラスメイトの陰口にシェムナは目に涙を浮かべている。ふるふると震えていたが――

 

「あなた達! 口を慎みなさい!」


 大声を出したのはクラリスだ。自己紹介の時、シェムナに注意をした少女の行動にアルマは驚く。

 クラリスに咎められたクラスメイト達は口をぽかんと開けて何も言い返せない。

 クラリスはクラスメイト達に威圧するように近づいた。


「他人の努力を笑うのはやめなさい。人として恥ずべき行為です。それと悪戯に他人の名誉を傷つける発言も最低ですよ」

「う……な、なんだよ。偉そうに……」


 かろうじて言い返したクラスメイトの一人だが、すごすごとクラリスから離れていく。

 シェムナが目を瞬かせている。予想外の人物が自分を庇ったことで状況を呑み込めていなかった。


「さぁメレヤ先生。実習を続けましょう」

「は、はい、そうですね……」


 担任にも物怖じしないクラリスの態度を見て、これではどちらが教師かわからないとアルマは思った。

 メレヤもそれは自覚しており、本来は自分が言うべきことだったと反省している。

 この日、クラリスの一喝があったおかげで実習中の私語はほとんどなかった。


                * * *


 授業が終わってアルマは寮へと足を運ぶが、これでいいのかと考えている。

 エルティリア学園には放課後のクラブ活動もあり、やれることは多い。

 上を目指すなら何かしら活動をすべきではないか。それ以前に自分には必要なものがあるのではないか。

 そう思った時、一つの案が浮かんだ。


(そうだ! バイトをしよう! いつまでも実家からの仕送りに頼るのは申し訳ないからね!)


 将来のことを考えれば貯金は必須だ。魔道士免許の試験にしても無料ではない。

 親を頼れば快く協力してくれるとアルマは思っているが、そのつもりなどなかった。

 エルティリア学園があるこの王都では様々な仕事の募集がある。アルマはさっそくバイトを見つける算段を立て始めた。

 部屋に戻って食事と入浴、予習と復習を済ませた時には日が落ちる。


(こんな時間だけど、少し仕事の募集をしていないか探してみよう)


 アルマが席から立って窓の外が視界に入った時、人影が見えた。一瞬だがその姿には見覚えがある。


(あれは確かシェムナ……?)


 ふとアルマは昼間の出来事を思い出す。

 根も葉もない噂を信じているわけではないが、シェムナのことは少し気になっていた。気がついた時には寮の部屋を出てシェムナを追っている。

 尾行のようで少し気が引けたが、アルマは彼女が実習中に見せていた涙が忘れらない。そして寮の裏手にある林に到着した。

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