表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

私の運命は私が決める

 頂上にあるという魔女の庵は、池の真ん中に浮かぶ小島にあった。

 舟も橋もない。泳いでいくしかないか、と覚悟を決めていると、前から声をかけられた。

 

「しっかり掴まって」

「え?」

「掴まって」

 

 もしかして背負ったまま泳いでくれるとか?

 肩を掴んでいた手を首に回す。

 

「行くぞ」

 

 うん、と答えるより前に身体が浮かんだ。

 次に胸のあたりがふわってした。ちょっとなんて表現していいか分からないんだけど、ふわって。

 気持ち悪いふわっと感!

 

 信じられないことに私を背負ったまま小島に飛び移ったのだ!

 

「竜人ってどうなってるの?!」

「それより魔女に会わなくていいのか?」

「そうだった!」

 

 それについてはまた詳しく聞くとして、魔女に会わなくちゃ!

 

 深呼吸を三度して、ドアをノックしようとしたら中から声をかけられた。

 

「開いてるよ、お入り」

 

 なんで分かったの?!

 驚いていたら「あれだけ大きい声を出せば」と言われてしまった。それもそうか……。

 

 ドアを開けると、部屋の真ん中にローブをかぶった人が立ってた。この人が魔女だろうか?

 

「人と竜人が何の用だい? 番にでもしてくれと言うつもりかね?」

「違うわ」

 

 とっくに番、って言い方もおかしいけど、私はこの人の番らしいし。


「じゃあ、運命の鎖を断ち切ってくれとでも言うのかえ?」

 

 運命の鎖? 何それ?

 分からないでいる私に、彼が俯きがちに言った。

 

「……番だから、俺と君の魂は運命の鎖でつながってるんだ」

 

 それを切ってくれってこと?

 慌てて私は否定する。

 

「違います!」

「おや、違うのかい? じゃあ何しに来たんだね」

「私は人だからこの人が番だって分からないの。その所為でこの人は不安みたいだから、私も番だって分かるようになりたいの!」

「…………は?」

 

 隣から間抜けな声がする。

 ぽかんとした顔で私を見る。

 

「おやおや、わざわざ魔女の庵に来たから何かと思えば」

「だって! 私を番だって言う癖に、嫌だなんて言ってないのにこの人、私を置いて村を出るって言うんだもの!」

 

 私は好きな人なんていないし、むしろこの人の優しさとかに触れて好きになってきてるのに、番の私を置いて村を出て行くとか、早く死にたいなんて言うから!

 

「私があなたのことが番だって分かるようになったら、絶対逃がさないけど、いいよね?!」

「あ、あぁ……もちろん」

 

 よし!

 

「お願いします! 命とか危ないこと以外でなら、時間がかかっても必ずお礼をするので! 願いを叶えてもらえないでしょうか!」

「どうしようかねぇ……」

 

 魔女はちらりと彼のほうを見る。つられて私も彼を見ると、真っ赤な顔をして私を見てる。

 

「真っ赤だよ?!」

「君が!」

「えっ? 私?」

「君がそんなことを言うから……!」

 

 え? そんなに変なこと言ってないと思うけど?

 

 大きく息を吐くと、魔女を見て彼は言った。

 

「願いは不要です」

「え! なんで!」

 

 せっかくここまで来たのに!

 

「なんでって……」

 

 困った顔で私を見る。

 言いたいことがあるなら言えばいいのに。


 あっはっは、と魔女が豪快に笑う。

 

「この魔女の庵に来る者たちの願いはいつも醜悪でね、叶える代わりに対価として難しいものをもらってきたものさ」

 

 魔女は手に持っていた杖でコツコツ、と床を叩いた。

 杖から出てきた光が私たちを包んだ。彼が慌てて私の周りを回る光を払おうとする。

 

「この先何度生まれ変わろうと、何に生まれ変わろうと、おまえさんたちは番が分かるだろう」

 

 魔女の言葉を聞いて彼の動きが止まる。

 

「どちらが人に生まれてもね」

 

 光は最後に私と彼の胸の中に吸い込まれていった。

 それから、指に違和感がした。


「あ!」

「ど、どうした?!」

「見えた!」

 

 私の左手の薬指から赤い糸みたいなものが出ていて、それは彼の左手の薬指につながっていた。

 これが番ってことだよね?!

 

「……これは……」 

「やったー!」

 

 戸惑う彼の手を掴む。

 

「見えるようになっただけだからね、番だからって簡単に気持ちを得られるとは思わんことだね」


 魔女は意地悪そうに笑う。

 

「あんたのためにここまで来ようとした番の気持ちを無駄にする気かい?」

「しない!」

 

 大袈裟なぐらいに否定する彼の胸のあたりを、魔女は杖で突く。

 

「おまえたち竜人や獣人は番だからと色んなものを省きすぎだよ。信用や愛情を得る努力を惜しむんじゃない。分かったかい?」

「分かった」

 

 満足気に魔女は頷く。

 

「お礼は何を渡せばいいの?」

「大したことはしてないのにもらうのもねぇ」

 

 あ、そうだ。

 カバンから持ってきた果物を取り出して全部渡す。

 

「これ! 焼いて食べたらとっても美味しかったの! 良かったらこれ食べて!」

「おやおや、マスカの実じゃないか。久しぶりに食べるよ。ありがたくもらっておくよ」

 

 魔女もこの実の美味しさを知ってるみたい。

 

「久しぶりに良い気分にさせてもらって楽しかったよ。おまえさんたち、麓の村に帰るんだろう? あまり長居をすると日が暮れるよ。

ここは外と時間の流れが違うからね」


 え、そうなの?

 驚いていると、彼が頷いた。

 

「じゃあ、私たち帰るね」

 

 手を伸ばして魔女の手を握る。

 

「ありがとう! 私の願いを叶えてくれて!」

「どういたしまして」

 

 にこにこと魔女が微笑んだ。

 

「じゃあ!」

 

 彼の腕を引っ張って庵を出る。

 行きと違ってお姫様抱っこしてもらって池を渡った。格好は変わったけどやっぱりふわってして気持ち悪くなった……。

 

 結局また背負ってもらって下山する。

 

「……後悔、しても知らないぞ?」

 

 後悔?

 

「何を?」

「俺はきっと、君を離せなくなる」

「私が離れたくなくなるようにしてくれるんでしょ?」

 

 魔女が言ってた。

 愛情を得る努力をしろって。

 

「それは勿論」

「じゃあいいんじゃない?」

「嫉妬深いんだぞ」

「らしいね。でも私も嫉妬深くなるかも知れないじゃない?」

「そんな言葉をもらったら、たまらなくなる」

「私に夢中になってくれたってこと?」

「そんなの、初めて会った時からだ……」

「え! でも無表情だったよ?!」

「それは年の功っていうか……これでも必死に隠してたんだ」

「え、じゃあもう隠さなくっていいよ」

「君って人は……」

 

 振り返る彼の顔は困っていたけど、嫌そうじゃなかった。

 

「ルイーゼだよ。

ね、名前教えて」


 実はまだ名前を教えてもらっていない。

 彼は番に会いに来て、私が人間だったから、早々に村を出るつもりだった。だから私に名前を教えなかったんだと思う。


「……ヨアヒム」

「ヨアヒム! 良い名前ね!」

 

 返事をしないまま、ヨアヒムは私を背負ったまま山を下る。

 だいぶ日が傾いてきて、空が茜色に染まってく。

 

「……ルイーゼ」

「なぁに?」

「君が俺の番で良かった」

「そうでしょ? 過去の私の分も、あなたを大切にするね!」


 もう二度と、早く死にたいなんて思うことがないように。

 あ、そうだ、ちゃんと伝えておかないと。

 

「私、あなたより先に死んじゃうけど、次の私も、その次の私もヨアヒムが番だって分かるから、安心してね」

 

 立ち止まって振り返る。

 なんとも言えない顔をしてる。


「竜人のあなたの寿命が尽きて、今度は私が竜人になってあなたが人間だったとしても、あなたがしてくれたように私もあなたを探すし、あなたに好かれるように努力するから」

 

 彼に笑顔を向けたら、顔を背けられた。

 なんで?

 

「ヨアヒム?」

「駄目だ。顔を見ないでくれ」

「夫婦になるんだよ? 良いところも悪いところも、弱いところも見せ合おうよー」

「まだ君に好かれてないから弱いところは見せたくない」

「え、今更じゃ?」

 

 驚いた顔で私を見る。

 

 終わらせたいなんて泣き言言って、魔女のところでも赤面して、今更じゃ? と指摘したら撃沈していた。

 そういうところも嫌いじゃないんだけどね。

 

「君を何度でも好きになる。好きになってもらえるよう努力する。番だからじゃなく、俺だから好きになってもらえるように」

「うん、私も約束するよ」


 いっぱい話をしようね。

 次の私が覚えてなかったら教えて。

 やきもち焼くと思うけど。


 私の好きな食べ物を覚えてね。

 生まれ変わるたびに新しい好みになると思うんだ。

 でも覚えてね。

 私も覚えるよ、あなたの好きなものを。


 姿形が変わっても、好きなものが変わっても、

 これからの私はあなたを好きになるって、約束するよ。


「ヨアヒム、これからよろしくね」

「……あぁ、こちらこそ」


 泣きそうなのを我慢して微笑むヨアヒムの顔、好きだと思った。

 番だから私たちが出会ったのは間違いない。

 でもさ、番だけど、恋をしようよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ルイーゼが元気で潔くて格好良くて素敵でした。 特に最後の一言が最高ですね!
[一言] なろうの番の話、あまり好きじゃないのが多かったのですが、 このお話は好きです。 最後の、「番いだけど、恋をしようよ。」が特に良かったです。
[一言] ルイーゼ、凛々しいですね。 縁に関する想い、ジンときました。確かに縁を結ぶのも、手繰りよせるのも、その糸を断ち切るのも当人次第。 今の自分が相手を求める、ということを心から信じ、番にあぐらを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ