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運命は私に背を向ける

 初めまして。


 そう言った男の人は私を知っているみたいだった。初めましてって言ってるのに。

 それと私を見てがっかりしてたのに気づいてしまった。失礼な。

 私にとっては初めましてだけれど、実は会話をしたことがないだけで私を知っていたのだろうかと思った。

 気になることだらけだったから、一番気になることから聞いてみた。

 

「あの……どこかでお会いしたことありますか?」


 質問をすると、男の人は目を細めて首を振った。

 少しだけ悲しそうに微笑んで。

 男の人と両親は何かを話していた。







 つがい

 話には聞いたことがあるけど、私の周囲にはいない。だからそんなものが突然自分の身に降って来たことに驚いてる。

 竜人や獣人は自分の魂の半身が分かるのだという。獣人は匂いで分かるらしい。竜人は気配で分かるのだそうな。気配ってなによ?


 ただちょっと、聞いてたのと違う。

 獣人も竜人も番を見つけたらものすごい勢いで求愛してくるって教えられていたのに。

 目の前のヒトは落ち着いていて、私が思っていたのと違う。嘘を教えられてたの? それとも人によって違うのかな?


 私の視線に気づいたのか、彼はにっこりと微笑んだ。


「俺が君に求愛をしないのが不思議?」


 考えてることが顔に出てしまっていただろうか?

 思っていたことを言い当てられてしまった。

 頷いた私を見て彼は目を細めた。


「前はそうじゃなかったよ」


 ……前は?


 少し長くなるけれど、と前置きをして、彼は話し始めた。


「信じられないだろうが、前世の君も僕に会っている。その前も、その前の君も」


 全ての生で女性として生まれたらしい私は、彼と出会った時に子供であったり、老婆だったりしたようだ。別の人と婚姻を結んだ後だったこともあるという。もちろん適齢期に出会ったりもしていたようだけど。

 その言葉を信じるなら、この人は何歳なんだろう。

 私の十歳ぐらい上に見えるけど。


「どんなに姿を変えても君は俺を拒絶してね。それなのに俺は君しか愛せない」


 障害の有無に限らず、過去の私は彼を受け入れなかったようだ。ただの一度も。

 老婆や人妻は確かに難しそうだとは思うから、それは仕方ない、と思う。


「また君に拒絶されるのは分かっているのに、君を探さずにはいられない。竜の本能には嫌になる」

「その、番以外を愛したり、そこまではいかなくとも良い雰囲気になる相手はいなかったんですか?」

「無理なんだ」


 それから、番というもののことを教えてもらった。ぼんやりとしか知らなかったから。興味本位で質問をした。


 知れば知るほど厄介なものだと分かった。

 相手が人でなければ何の問題もない。

 同じ竜人ならば当然惹かれ合うし、獣人も番が分かるから。

 何も分からない人だった場合は、本当に辛いのだそうだ。


 獣人は人よりは長く生きるけど、それでも十年ぐらいだから、番を見送って数年後に寿命を迎えるらしい。

 けれど竜人はとてつもなく長寿だ。

 千年は最低でも生きると言う。私を番だと言う彼は八百才を過ぎたぐらいだとか何とか。

 あまりに人とは違い過ぎて目眩がする。

 彼の番である私は、毎回人として生を受けるらしい。その度に私に求愛をし、拒絶されてきたと言う。

 なんだか良く分からないけど、少しだけ申し訳ない気持ちになる。だって目の前の彼はとても良い人に見える。私を強引に自分の物にしようとしない。

 私に触れようともしない。


「早く……終わればいいのにと思うよ」


 なんで私は人間なんだろう。

 私がこの人の番なのは間違いないらしい。だから私が受け入れれば解決するのに。


「私はあなたのこと、嫌じゃないよ」

「……ありがとう」


 慰めると言うのも変だけれど、元気になって欲しくて言った言葉は、逆に彼を傷つけたみたいだった。

 悲しそうに微笑まれてしまった。


「無理をしないでいいんだよ。君は君の心が望む相手と結ばれるべきだ」


 え、でもそれ、あなたなんでしょ?

 それなのになんで諦めてるの? ……って私の前世の所為か。え、でも今の私は嫌がってないのに、なんで?!




 ひと月後には彼はこの村を出て行くらしい。

 だからなんで?!


「拒絶されたくないんじゃない?」

「だから、私は拒絶してない」


 幼馴染のハンナが言う。


「そうだけどさ、前のルイーゼたちが何度も拒絶してたんでしょ?」

「私の記憶にないこと言われても困るんだけど」

「今は平気でも、いつかあんたが別の人を好きになるのを見たくないんじゃない?」


 何故ハンナがまるで見てきたかのように説明してるのかちんぷんかんぷんだ。


「これまで拒絶されていたのに番を探しちゃうってことは、本当は求めてるんだよ。愛したいし、愛されたいの。求められたいのよ、きっと!」

「なにか変なものでも食べた?」


 冷静に聞いたら背中を叩かれた。痛い。


「……つまり、私があの人を好きになればいいのよね?」

「まぁ、そうだけど、あんた分からないんでしょ? 番だって」

「さっぱり分からない」

「山奥にでもいる魔女にほれ薬でも作ってもらったら?」

「それだ!」


 立ち上がりハンナに礼を言う。


「あの人が村を出る前に行って帰ってこないといけないから、今すぐ準備して行ってくるね!」

「は?! ちょ、ルイーゼ?!」


 ハンナが私を呼び止める声が背後で聞こえるけど、私には時間がない。

 もっと早くに相談しておけばよかった! 後悔先に立たずとか本当だ!


 家族に相談したら絶対怒られるし止められるから、言わずに村を出るしかない!

 家に戻った私は大急ぎで山登りの準備をする。

 動きやすい格好に、靴に、非常食。水筒と、念のためにお金と、魔女がなにを欲しがるか分からないから、おばあちゃんからもらった宝石も入れておこう。

 あと傷薬と、そのまま食べられるものを袋に詰めて、っと。ナイフと、暗くなった時用のランタンとか、火を起こす道具、と。


 思ったより大荷物になっちゃったけど、やむなし! 吟味してる間にみんなが帰ってきちゃうからもう出なくちゃ!


 荷物を背負って村の出入り口に向かう。

 今の時間は見張りが交代する時間なんだよね。

 この隙に村を出て、暗くなる前に山をできるだけ登りたい。

 魔女はすぐそこの山の頂上にいるっていうし!


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