第三話「誕生ー鍛錬 其の三」
メリークリぼっち
「ブック」
”ボンッ”と白い煙と共に、技術本が現れる。
ブックって言えば出てくるんだよな。最初は、女神様から貰ったスキルブックを出せなくて、めちゃくちゃ焦った。
この『薬術の技術本』の内容はざっくり次のような感じだ。
===この世界で作り出せる全ての薬の記載===
これに関しては、正直読んでいるだけでも全く飽きない。最初のページの薬は、なんと胃薬。
腹痛に処方される薬から、胃腸を整える薬なんかが記載されている。そしてページを捲るごとに、様々な薬が紹介されている。薬の名前、効能、材料、製薬方法、調薬、NGな飲み合わせに至るまでが詳細に記載されていた。
それに、薬辞典の最後のページには、”死への冒涜”なる薬があった。効能は、死者復活!!その人間が死んだ瞬間の状態まで修復して、生き返らせることが出来るという!つまり、老衰で死んだ人間にはあんまり意味がない。復活した側から死ぬって事だからね。この薬で、寿命を伸ばす事はできないってことだ。
それにしたって中々ワクワクするもんだよな。エリクサーを作る材料の一つに、世界樹の葉があったからたくさんとっておこうと思う。
不老不死の薬は残念ながら、存在しなかった。こればっかりは仕方ないし、長生きしたいとも思わないからたいして気にならなかった。
それより気になった薬があった。媚薬だ。この薬を飲まされた相手は、薬に含まれた相手の体の一部を所有者した者に、執着せずにはいられなくなるらしい。エロ漫画的な展開ではないにしろ、好きな相手を振り向かせることができるとは素晴らしい。必ず作ろうと思う。
===本の所有者が製薬した薬の効能上昇===
二つ目がこれなんだが、まぁ書いてある通りで俺が作った薬は、他人が作った薬よりよく効くようになる。
===材料の鑑定===
三つ目は地味に役立つ。薬の材料となるものだったなら、スキルブックに備わっているアイテムBOXに入れるだけで、その材料の名称からなんの薬に使われるものなのか。材料の状態全てを教えてくれる。
===緑の育て手===
これは実に凄いと思った。端的に言うと、俺が愛情込めて育てるとみるみるうちに育つ上に、実り豊かになる。一度ママと一緒にプチトマトを育てたのだが、種を植えた次の日にはトマトの茎が支えきれずに、トマトが地面につくほど実を成らしていた。それにトマトが、血のように真っ赤でパンパンでとっても甘かった。それをみてママは、俺が緑の育て手だってことを見抜いて、めちゃくちゃ喜んでいた。
「流石は私の子ね!!」って言って褒めてくれた。
前世で褒められたことなんて無かったから、ママに褒められるたびに泣きそうになってしまう。
===アイテムBOX===
ファンタジーの定番中の定番。ほんとにこれがあって助かっている。物理的にものを持たなくて良いって言うのは、本当に精神衛生上助かっている。
まだこいつの、許容量なんかはわかってないし、謎は多いが今は放置でいいだろう。
===森の通行証===
正直言って、一番驚いた力だった。端的にいうと、森であれば自由自在に移動ができるのだ。一度行ったことのある森であれば、ワープできる。そう瞬間移動できるのだ。まだ試した事はないから、成人して家出したら早速試したいものだ。
そして最後に、自分のステータスを確認できる
===自己ステータス===
個体名:エディル・クロムハート
年齢 :3歳
レベル:1
体力 :10
魔力 :10
攻撃力:1
防御力:1
俊敏性:1
器用さ:10
スキル:『薬術の技術本』
俺は器用さだけはずば抜けてるな。医者と薬師の息子だからだろうか。まぁでも、スローライフをするにあたって、手元が器用な事は悪い事じゃない。
ただ、戦闘の才能は無さそうだから、身を守るために訓練以外の他の手を考える必要があるな。
「ブック」
スキルブックを収納したければ、出した時と同じようにしてしまうことができる。
よし、家に戻ってママに薬の作り方でもねだってみるか。とりあえず今は、手に職つけないとな。
「薬の作り方を教えて欲しい??」
ママは突然俺が薬作りたいって言ったものだから、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしていた。そりゃそうだよな、三歳児が急に薬作りたいとか言ったら。ここは誤魔化そう。
「うん!ママが作ってるの作りたい!」
俺は母親が熱しているフラスコ瓶を指さした。
「あぁ、エディもママが作ってるの作りたいのね。」
「うん!」
ここはキラキラ光線攻撃。ちっちゃな拳を二つ作って、顎の下で並べる。そしてキュルキュルなお目々!
「な、なんて可愛いの!私のエディ!」
抱き上げられて、ほっぺをスリスリされた。
「でもだめよエディ、これは火を使うから危ないの。そうね〜」
「どうしたんだ?」
貴公子パパが現れた。
「あら、エミールお帰りなさい。お仕事はもういいの?」
「あぁただいま。今日はサンドラに会いたくなってね。仕事を早く切り上げてきたんだ。ちゅ」
「まぁ、エミールったら。ちゅ」
けっ。目の前でいちゃつきやがって、両親が美男美女だから薔薇が見えるよ。
「もちろんエディにも会いたかったんだぞ〜!」
「パパ〜」
パパは俺を肩車してくれた。パパは、身長が190センチあるからめちゃくちょ怖いし、天井スレスレだ。
「エディが薬作りたいって言うのよ。」
「薬?」
「そうなの、私が今作ってる”瘉液”をみてそう思ったみたいね。」
「そうかエディ、ママを手伝うか??」
「うん、ママ手伝う!」
「そうか、ははははっえらいぞ〜!よし、パパが薬の作り方教えてやろう。」
「ほんとに??!」
「あぁ、本当だとも!よしあっちでやるか!」
「うん!!」
幸せだ。母と父は愛し合ってて、俺を愛している。気を抜くと泣きそうだ。