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プロローグ「清澄雨読を目指して」

念願のスローライフです。


拙作ですが、よろしくお願いします。

人里離れた森の中、巨大な大木を家屋に変えてしまう民族がいた。彼らは外界との関わりを、極力断ち生活している。何故なら彼らの歴史の中で、人々から迫害を受けた事があるからだ。


ーーそう”魔女狩り”である。


彼らの技術は恐ろしく役に立った。しかし、それが問題だった。無力な人間では決して届かない高み。

それに対する羨望は天よりも高く、また妬みや恐れは大陸中に広がった。

無力で権力を持った人間は、自らの立場を守るために彼らを異教徒として、剣で狩り立てた。


そう技術を恐ろしい”魔術”とすり替えて


彼らはその数も少なく、無力な人間の多さを前に呆気なく粛清されていった。


それ以来彼らは、エルフよりも奥深い森に住まい、今も何処かでひっそりと暮らしているという。



そんなある大木の家の中で、小さな親子喧嘩が起きていた。


「母さん!!何で俺の”瘉液”(ポーション)より、母さんの”瘉液(ポーション)”の方が色が濃いんだよ!!」


「いつも言ってるでしょ〜。あなたの”瘉液(ポーション)”は、魔力水の魔力が十分に浸透していない上に、親和力も弱いから魔力水として不十分なの。魔力水は決まった水の量に対して、しっかり魔力を限界まで飽和させないといけない。薄い魔力水には、薬草に含まれた”薬効成分”は溶け出さない。もう何度言ったら覚えるの、エディ?」


美しい萌葱(もえぎ)色の豊かな長髪を、三つ編みにして腰まで流している女性が、銅製の壺を使って煮炊きしながら、そばに居る小さな少年を諭していた。女性の腰元程の少年は、大きな瞳と猫のように悪戯っぽい目元をしていて、女性の髪色を受け継ぎ、少しばかり明るく深い色をした、常盤(ときわ)色の髪の毛を短く切り揃えていた。


女性の腰ほどの背丈をした少年が、窓辺のさまざまな道具が置かれている長机から顔を出して、両手で机の縁を掴みながら拗ねている。窓辺には、陽に当たるように様々なものが吊り下げられ、窓のそばには正方形の引き出しがたくさんある棚が壁に埋め込まれている。ここが作業場である事は確かだった。


「ちぇ〜。でも俺、魔力水の修行嫌い〜。地味だし、気怠くなるし。もっと派手な修行したいよ!例えば、魔法とかさ!こう、どかーんって魔獣が吹っ飛ぶような奴!」


”コツン”と女性が混ぜ棒を持たない右手で、子供を小突いて諭した。

”いてっ”


「魔力水も碌に精製できないのに、大口を叩かないの!それに、魔法を使いたかったら魔力水の修行が一番大事だって教えたでしょ?」


「む〜〜!すぐに魔力水、魔力水って!!この魔力水オバケ!!」

「な、なんですって?!」

「べ〜〜だ。」


”こら、エディ!まちなさ〜い”

”へへ、へ〜ここまでおいで〜”


女性は、子供を捕まえようとしたが小柄な体を生かして、女性の手から逃れると笑いながら階段を駆け上がって自分の部屋に閉じこもってしまった。


「全くもう、短気なんだから。一体誰に似ちゃったのかしら?・・しっかり修行しないと、夕飯抜きですからねぇ〜!」


少年は、母の呼び掛けを自室のドアにもたれながら聞き留めた。




「はぁ、あったかい・・。」


俺は、エディル・クロムハート5歳だ。でも、本当の年齢は前世と合わせて30歳になる。

生まれ変わって全てが変わった。こんな強気な言葉遣いもそうだし、何よりここには普通の家族が居るんだ。



これは前世の話なんだが、俺は”もやし”、”オタメガネ”、”鼠男”などと呼ばれていた。


僕は、居酒屋系飲食チェーンで働いていた。一応そこの社員でキッチンに立っていた。その店舗は都市部に立地していたため、平日週末を問わずに結構忙しかった。休みは週一で、月に一回週二で休める筈、らしい。


僕の生い立ちは、父親は僕が生まれる前に蒸発して、母は2歳の時に交通事故で死んだ。結局、母方の祖母に育てられた。母の実家は、都市部でそれなりの資産を持っていて、祖母は地主だった。企業に会社が建っている土地を貸していた。祖母はとても厳しい人で、どれくらい厳しかったかと言うと、例えば食事の際に箸先を一寸以上濡らして食べることを許してくれなかった。


もし、祖母の求める作法を守れなければ、杖で強く叩かれた。今なら虐待で施設に入れたこと間違いなしだ。

一度も褒められた事なんてなかったし、祖母の口癖があった。


「一体あんたは誰に似たんだい!?こんな出来損ないが生まれるのは、、放蕩娘が引っかけた男のせいに違いないよ!!そんなお前を面倒見てやるんだ。感謝しな。」


事あるごとに、父のせいにされ同時にそんな男と過ちを犯した母を貶した。


自己肯定感なんて、一度だって味わった事がなかった。


学生生活も散々で、後ろ盾の無い金持ちのボンボンはいい標的だった。当時からあまり食は太くなく、身長は162センチで、体重は43キロだった。成人になっても、身長体重は変わらなかった。

健康診断で毎回”もっと食べましょう”と言われる。それ以外は健康なのに・・。


居酒屋チェーン店のキッチンは、品数が豊富な分システマチックに出来てるけど、普通に中華鍋を同時に3つ管理しながら、串焼きを焼く焼き場を管理したりする重労働だ。どんなに忙しくても楽な刺し場から動かず、むしゃくしゃしてると僕に皿を投げつてくる店長からは、


「もやしシャキッとせぇや!!」


とか、バイトの学生からは


「もやしさん、卵焼き少し焦げついてるってクレーム入りました〜しっかりして下さいよ。クレーム処理すんの俺らなんすよ?社員さんですよね??給料俺らより高いんすから、きっちり仕事してもらっていいすか〜」


とか


一度も名前を呼んでもらった事はない。最後に過労死で死ぬまで誰かに、俺の名前を呼んで貰ったことを走馬灯のように思い出さないといけないレベルだった。


「あぁ、ご飯の美味しい、田舎で、のんびり暮らしたい。」


それが救急車での最後の言葉だった。ご飯が美味しければ、体重も増えてもやしがゴボウくらいにはなれるだろうし、何よりのんびり生きれそう。


そう思って、意識が遠のいた。




目が覚めた。あれ・・


「お疲れ様でした。高木誠二さん。」


目を開けると、綺麗な女の人がいた。


「・・綺麗」


「有難うございます。誠二さんもかっこいいですよ?」


女神の顔が僕の目の前にあることに気づいた。


「ひゃっ///!!??ごごご、御免なさい。」


童貞で彼女いない歴=年齢だった僕には、厳しすぎる距離だった。


「えっと、あなたは一体?それにここは・・どこですか・・。」


水面の上だった。あたり一面が宇宙空間で、星々がやけに大きく見えるほど浮かんでいた。息が白くなっている。

目の前の女神様は、和服の着物を着ていた。赤と黒の下地に、龍の刺繍が金糸で入っている。銀色の豪華な簪で長い髪を結っている。おっとりしてる垂れ一重で、京都で見た舞妓さんみたいな化粧だ。そして、赤と黒の和傘を携えている。履物は花魁が履くような下駄だ。


「あら、私としたことが自己紹介がまだでしたね。失礼いたしました。輪廻転生を司る女神”花魁”と呼ばれております。以後よしなに。」


女神は、和傘をパッと開き廻しながら肩に添えて、左裾で口元を隠しながら、少し膝を折って挨拶してくれた。


「・・あ、た、高木誠二25歳、独身、職業は居酒屋キッチン、趣味は煙草です!!・・」


「・・ふっ、ふふふふっ。元気で詳しい自己紹介ですね。有難うございます。」


「カァァァア////」


は、恥ずかしい。女性と話せる機会なんて、幼稚園以来だ。いつもはビジネストークだったから、女性を意識出来た試しがなかった。こう言う時どう言う話をすればいいんだ!!?こんなことなら、電子書籍でもいいから女性との対話を学んでおくべきだった・・。


「・・二さん、誠二さん!」


「はっ!?はい!!」


「もう、本当に可愛らしい人なんだから。」


女神は、しゃがみ込みながら仰向けでへたっている俺に微笑みかけてくれた。


「いえっ、そんなこと・・。」


すると、突然”ちりんちりん”と日本で聞き覚えがあるような鈴の音がした。


「あら、いけない。もう時間です。誠二さんよく聞いて下さいね。」


「はい。」


「今からあなたを転生、つまり来世へと送り出します。」


「・・はぁ・・僕は死んだんですね。」


「えぇ、立派に今生をお勤め果たしておりましたよ。」


そうだよな。最後の記憶よく覚えてる。過労死・・か。まぁいいや。未練ないしな。


「誠二さんには、これからボーナスゲームをして頂きます。」


「ボーナスゲーム・・と言いますと。」


女神が袖を振ると、和風なスロットが現れた。横一列縦三列のスロットが回り始めていた。


「こちらは、”技術本辞典(スキルブックスロット)”です。レバーを引いていただくと、3種の技術本(スキルブック)が現れます。その中から生涯のお伴として、一冊だけお選びください。来世誕生後における、ある種の天性の才能だとでもお思い下さい。」


なるほど、生まれつきの才能をあらかじめ選ばせてくれるわけだ。


「一つ質問よろしいでしょうか?」


「はい。」


「三冊とも気に入らない場合は、選ばなくても良いのでしょうか?」


「もちろんです!」


女神はにっこりと笑ってくれた。


なら、怖いもの無し。要は運試しだ!


「わかりました。引かせていただきます!!」


僕はレバーに向かい細い腕を伸ばして、細い指と小さい手のひらいっぱいでレバーを握りしめ、願いを込めて引いた。


”田舎で清澄雨読なスローライフを”


スロットは一列ずつ”カシャコンッ”と止まった。

そして目の前に現れた”技術本”は、それぞれ”白銀、緑、紫”色に輝いていた。


「まぁ、誠二さんすごいですわ。とても貴重度の高い技術本が二冊も。今生の行いが良かったのですね。」


「・・僕は何もしてないですよ。ボランティアだってしたことありませんから。」


「・・誠二さん。前世の行いの良し悪しはそれだけでは決まりませんわ」


「そう・・ですか。」


微妙な空気が流れてしまったが、僕はそれぞれ手に取って読んでみた。


一冊目は・・

『剣術の本』

{・すべての剣術の記載・経験値1.25倍・武器の鑑定・武術に関わる奇縁・経験値に応じて剣術の習得}


二冊目は・・

『薬術の本』

{・すべての薬の記載・薬効1.25倍・材料の鑑定・緑の育て手・アイテムBOX・森の通行証}


三冊目は・・

『魔術の本』

{・すべての魔術の記載・魔力1.25倍・魔物の鑑定・寿命千年・経験値に応じて魔術の習得}


きっとレア度が高い技術本は、白銀に輝く『剣術の本』と紫色の『魔術の本』に違いない。どれもファンタジー世界の主人公格だからね。でも僕が選ぶのはーー



「それでは誠二さん、いってらっしゃい。あなたが幸せな生を全うし、また会えるその日まで。」



そして俺は、エディル・クロムハートして生まれ変わった。














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