1-6 誘拐
(──し、……たし、あたし!)
大きな声が頭に響いた。すごいガンガンする。
「痛っ」
目を開けると、暗く、薄汚れた部屋に入れられているみたいだ。手と足が拘束され、起き上がりたくてもできない。
頭がガンガンするのも、私が叫んだからではなく、頭を強打したせいみたいだ。
(あたし、今のうちにここを出ろ)
「出るもなにも、拘束されてたら無理だよ」
(何のための魔法だ)
ああ、そっか。
あたしは氷魔法で縄を解く。頭を触った感じ、血は出ていない。ローブとナイフは無くなっている。
「ねえ私、ドア鍵かかってるよね?」
(誘拐犯が馬鹿じゃなければな)
「かかってたらどうする?」
(壊せ。どうせ逃げ出す時にバレる)
なんともまあ強引な考え方だ。でも、たしかにそうではある。
あたしは一応、鍵がかかっているか確認する為にドアに触れる。
カチッ
「カチッ?」
ドアを押すと、キーっと音を鳴らしながら開いた。どうやら馬鹿だったようだ。
しばらく歩くと、褐色の男があたしに槍を向けた。
「ガキが、どうやって抜け出した!」
あたしに向かってくる槍。それを【空気化】で回避する。
「な、何だお前、ゴーストか?」
気体状態のあたしに向かってそう叫ぶ。どうでもいいけど、早く槍を退けてほしい。存在感を消すのではなく、気体になる方の【空気化】は動けないのだから。
(あたし、魔力を少しずつ外に出せ。空気中で魔法を発動させるんだ)
教わっていない事。やれるか心配だが、今はそうするしかない。
あたしは氷属性を含めた魔力をほんの少しずつ全身から放出する。ゆっくりと、じわじわと氷弾が形成されていく。
(今だ!)
「な、なんだ⁉︎」
一斉に放つと、男は持っている槍で防いでいく。
その隙に、【空気化】を解除して走って逃げる。
「これでいいの?」
(上出来上出来。あとは出口を見つければなんとかなるでしょ。大抵こういうところは地下だから、階段を見つければいいよ)
「分かった」
誘拐犯に気をつけつつ、あたしは建物内を進んでいく。
辺りは段々暗くなっていき、なんとなく道を間違えている気がする。
「引き返した方がいいかな?」
(うん。でもちょっと待て。耳を澄ませてみろ)
どうしてかは分からないが、言われた通りしてみる。
「──て。──けて!」
微かだが、奥からそんな声が聞こえた。おそらく、あたし以外にも捕まった者がいるのだろう。
(どうするあたし)
「私が仕向けたくせに」
(選んだのはあたしだよ)
あたしは雷魔法で辺りを照らし、さらに暗い奥へと進む。
「おねがい! だれかたすけて!」
目の前のドアから、舌足らずの声で必死に助けを呼ぶ声がする。
ドアを叩いている事から、鍵は閉まっているようだ。かと言って、ドアを壊せばドア越しの者に怪我を負わせるかもしれない。
「とりあえずやってみよう」
あたしはドアに手を掛ける。
カチッ
またカチッと鳴った。何故だろうか?
(あたし、引いてみろ)
「え? あ、うん」
ドアはすんなり開いた。そして、女の子が倒れ込んできた。
「いったた。あ、ごめんね、だいじょうぶ?」
「え、あ、は、はい」
再び雷魔法を発動させ、辺りを照らす。
癖っ毛な橙色の髪に青色の瞳の同じ年くらいの女の子と、奥で倒れ込んでいる子どもが一人。いつからいたのだろうか、見た感じ血は通っておらず、痩せ細って皮と骨のようだ。
「きのうからおきないの。ずっとせきしてたからね、びょうきだとおもうの。だから、おいしゃさんのところにつれていかないとって」
こんな環境にいたんだ、おそらく感染症とかだろう。でも、そうなるとこの子も……。
「おねがい、たすけて」
あの子の事が分かっているのかいないのか、女の子は震えた声で訴える。
「わ、分かった。その、ついて、きて」
あたしは奥の子を背負い、この場を女の子と後にした。
【】内はスキル名になります。
空気化
①周りから見えない者(もしくはいて当然)として扱われる。
②気体に変化する。(ただし動く事はできない)