1-4 魔法
「魔法をですか? 分かりました。では、外で教えましょう」
あの日の夜、私に聞いて、この世の不思議なものが魔法だと知った。
それだけでいいのに、私には魔法を知らない方が珍しいと半笑いで言われた。
ステータスについてはよく分からないらしい。どうやら、ステータス自体は知っているけど、私が知っているのはなんかもっと数字が出てくるものみたい。
ただ、スキルに関しては別だった。私が言うには、魔法の仲間みたいなものであり、触れたら効果とか出るのでは? っと言われ、馬鹿馬鹿しくも空中に浮かぶ文字に手を伸ばしたら、本当に効果が出てきた。ただ、使い方は分からない。
もし聞けるなら、このタイミングでステノーに聞いてみよう。
外に出ると、思わず目を見開いてしまう。
広がる芝生、奥にはこの屋敷の敷地を囲うように森がある。
陽が差す明るい景色は、モザイクがかった世界と違い、もの凄く綺麗に映る。
屋敷内でも自分の目が良くなっていた事を自覚していたが、見るものが外の景色となると、よりそれを実感する。
「そういえば、お嬢様は外に出るのは初めてでしたね。どうですか?」
地面に降ろされ、心なしか草や土の匂いがする。
こんな匂いだったんだと思う。風が吹くとまた少し匂いが変わった気がする。
「においがすう」
「匂いですか? ……そうですね、外の匂いですね」
これが、外の匂い。前世も、こんな匂いだったのだろうか?
「お嬢様、そろそら始めますか?」
「ん」
「では、手を出していただけますか?」
「こう?」
「はい。では、失礼します」
ステノーはあたしの手を握る。すると、手から全身にかけ、血液とは違う何かが巡っているのが感じられる。
「これが魔法の源、魔力です。これに属性を持たせたものを魔術といいます。魔術には炎、水、氷、雷、風、地、岩、闇、光があります。よく見ていてください」
ステノーは手のひらを上にし、あたしの前に差し出した。
「この手に触れてみてください」
あたしは恐る恐る指先を近づける。ちょうど手のひらの上に差し掛かったあたりで、なんとなく変な感覚がした。まるで、無重力のような、見えない水に触れたみたいだ。
「これが魔力の塊です。そして、これに属性を混ぜますと」
見えない塊は水に変化した。
「このように、物質に変化します。この水に、氷属性を入れますと、このように固まり、氷となります」
本当に、瞬きもしない内に一瞬で変化した。
「そして、炎属性を新たに加えますと、このように氷は溶け、さらに加え続けますと、温水へと変化します」
温水……というより、沸騰している気がする。でも、そんなことよりも、目の前の不思議な現象に目が離せないでいる。
「それでは、やってみましょうか。水属性が一番手に入りやすいので、水を出してみましょう。やり方は簡単です、まずは体内にある魔力を感じてください。それができましたら、片手を前に出し、魔力を手に集めるのです。そして、外に押し出します。それと同時に、水属性を加えるのです。水属性は、魔力が流れている感覚と同じですから、その流れを損なわないように出すのです。理解できましたか?」
「やってみう」
あたしは右手を前に出し、さっき感じた魔力の巡りを意識する。さっきと同じ流れが体で変わった動きをしているのが分かる。
それを、意識的に体を動かすのと同じように、手に集める。
集めたら、流れのままに放てば水として外に出ると言ってた。だからあたしは、手に溜まっている魔力を一気に押し出した。
そして、自分自身も後ろに吹っ飛んだ。
「お嬢様! 頭から血が……。今治します、少しの間我慢していてください」
昨日の今日で……。とことんついていない頭だこと。
(あたし、あたし)
"私"だ。何か嫌味でも言うつもりなんだろうか?
(流れを感じるだけじゃなくて、水の冷たさも再現してみろ。そうしたら、たぶんうまくいくと思う)
魔法なんて使ったことのないのだから、おそらく参考にならない事だろうけど、こういうものに対してはあたしよりは詳しい。素直に受け取っておこう。
「お嬢様、治りました。……お嬢様?」
さっきと同じことをやり直す。今度はもっと細かく、鮮明に水をイメージする。そして、その感覚を魔力に伝えて押し出す。
バシャッ。
「おお……」
上手くいった。後ろに飛ぶこともなく、あたしの手からは水が落ちていった。
あたしは足元にできた水溜りを覗き込む。
──あたしって、こんな顔だったんだ。
前世とは違う、日本人離れした顔つき、金髪の髪に緑色の瞳。なんだか、変。だけど、これがあたしなんだと受け入れてしまう。
「おめでとうございます、お嬢様」
「あーと」