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ん? 悪魔の子ですけど、何か文句でも?  作者: 輝 静
一章 悪魔との生活
3/56

1-3 親

 この世界に来てから、大体半年が経過した。

魔族というのは、成長速度が人間と違って早いらしく、もう数歩程度ならつかまり立ちしなくても歩けるようになった。

言葉はまだ声帯が発達していないので、しっかりと話す事はできないが、理解はできるようになった。


「こ、こえ」


 あの時あたしを拾った仮面の女性、ベールの部屋にある本棚から、あたしと同じくらいの大きさのある本を引きずって、ベッドの上にいる本人の前に差しだす。


文字はまだ読めないし書けないので、いつもこうしてベールかステノーにお願いしている。


「イナンナは本当に本が好きですね。いいですよ、本は私も好きですから」


 この世界について知るには本が一番だ。というより、それ以外の情報源がない。

でも、前世は唯一持っているネットが、電話のみできる格安スマホだったから、この状況で特に不便とかはない。


むしろ、前世は歩いている時に聞こえてくるコマーシャル、ニュース、お客さんの会話、学校で繰り広げられる会話からでしか情報が入らなかったから、どっちかというと今の方が情報源に関しては良かったりする。


「遥か昔、魔族と人族は共に暮らしていました。特に争いもない、平和な世界でした。しかしある時、悪魔と天使はお互い激しい戦闘を繰り広げました。その結果、世界は魔界、人界、精霊界の三つに分かれました。そして、異界の者を引き寄せる、時空の裂け目が現れたのです」


戦闘の原因とか、精霊界はどこから出てきたのかとか、色々と抜けててよく分からないが、一番分からないのは時空の裂け目だ。

聞いたら答えてくれるとは思う。だけど、理解できるかは別だ。


「こえ、ほんと?」

「そうですよ。今は魔界は七代悪魔、人界は貴族という者達が治めています。七代天使は上からのうのうと見ているだけです」

「せーかいは?」

「特にいませんね。精霊界は各種族の集落を、それぞれの長が治め、他の種族との関わりはほとんどありませんから」

「じゃ、じくーのは?」


あたしがそう質問をすると、ベールはぎこちなく、おそるおそるあたしの頭を撫でる。


「イナンナがもう少し大きくなったら話しましょう。今は私以外の七代悪魔について学ぶ方が、イナンナの今後のためになりますよ」


ベールは七代悪魔の一人、怠惰を司るベルフェゴールの器らしい。器という部分がよく分からないが、簡単に言うと、本来の力が無い状態らしい。だから、ベールはベルフェゴールとは同一人物らしいが、違うらしい。なんともややこしい。


「ご主人様、今よろしいでしょうか?」


 ドアのノック音の後に、そんな声が聞こえてきた。


「どうぞ」


ドアが開き、ステノーが手紙を持って近寄ってくる。


「先程ご主人様宛てに届きました」


ベールは手紙を開いて読み終えると、あたしを持ち上げた。


「では、イナンナをお願いします」

「かしこまりました」


ステノーはあたしを抱き抱え(だきかかえ)、部屋を後にしようとする。

あたしはその時に本が目に入り、片付けなければと、手を伸ばした。


自分の身長を未だによく把握しておらず、あたしはそのまま落ちてしまった。


そして、頭を床に思いっきりぶつけた。結構痛い。


「お嬢様! 大変申し訳ありません、私目(わたくしめ)の注意不足のせいでお嬢様をこんな目に……。どこか痛むところはございますか?」


顔が歪み、普段よりも声が大きく、早口になっていることから、かなり焦っているのが分かる。

ステノーのせいじゃないから、申し訳なくなる。触れるたびにあたしが身構えてしまうため、しっかりと抱くことができない。こうなったのも自業自得である。

だから、そんな風に自分のせいにしないでほしい。

正直、前世のように、迷惑そうに放っておいてくれた方が、慣れているから助かる。


「イナンナ、大丈夫ですか?」


こうしてベールにも気を使わせてしまう。


あたしはじっとこちらを見る二人に対して頷くと、二人は小さく息を吐いた。


「それは良かったです。念のため、治癒魔法をかけさせていただきます」


ステノーはあたしの頭に手をかざした。


手からは温かい何かが出てきて、先程まであった痛みが徐々に引いていった。

これはあたしにとって良いこと。だけど、この奇妙な現象を少し怖く思ってしまう。


「これで大丈夫だと思いますが、何か異変を感じたら教えてください」

「わあった。……あーがと」


あの現象を怖がりたくない。同じものを手に入れれば、怖がらなくて済むのだろうか? 私と相談してみよう。


「いえ、お嬢様がご無事で何よりです。それでは、私目と一緒に部屋を出ましょう」

「ん」


あたしはベッドから本を取る。


「こえ、もおす」

「お嬢様は偉いですね」


当たり前の事をしたのにそんな言葉をかけてもらって、なんだか変な気持ちになった。

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