Episode5:俺はラッキー?アンラッキー?
さて、現在の状況をどう説明しようか。
簡単に言えば自己紹介だ。難しく言ってもおそらく自己紹介だ。
つまり、俺は今自己紹介の真最中というわけで・・・。
何度も述べていると思うが俺は人見知りなので、今この瞬間がとてつもなく辛い。俺一人を約40人の80もの目が一斉に見ているのだ。
「今日からお世話になります常盤 莉人です。よろしくお願いします」
とりあえず、定番とも言える挨拶は終わった。しかし、この後何て続ければいいんだ?そもそも転校なんて今回が初めてだからこれ以上何て言っていいか分からない。というよりも、これに続く挨拶なんてあるのか?
少し検討してみるとする・・・。
趣味を述べてみる。別に俺の趣味なんて知りたいと思っている人はいないと思う。故に却下。同じ理由で特技も却下。というよりも、初めての挨拶の場で自分について語るのはどうかと思うし。だったら、これからの抱負とかだったらどうだろう?まぁ、正直なところ皆頑張れ程度にしか思わないだろう。
うん、駄目だ。俺の駄目な脳ではこれ以上考えられない。
「もういいのかな?それじゃ皆さん、莉人君と仲良くしてあげてください。莉人君の席は、唯さんの隣が空いているわね。唯さん莉人君に色々教えてあげてね」
「分かりました」
よりによって俺の席は唯さんの隣になってしまった。何の因果かそれとも神様のお茶目な悪戯か?どちらにしても喜ばしいとは言えない状況だ。間違っても主従の関係をばらしたら屋敷で何されるか分かんないし・・・。
「よろしくね、常盤君」
「こちらこそ、えっと・・・」
「竜崎 唯よ」
「よろしく竜崎さん」
俺がそう言うと唯さんはにっこりほほ笑んだ。いつもの俺に対する態度とは完璧に真逆だ。人間こうも変われるとはびっくりだ。そして偉大な気もする。
時が少し流れて昼休み。朝の自己紹介の後にこの席に座ってから俺は一度も動いていない。知り合いは唯さんしかいないし何をしていいかも分からない。誰か1人ぐらい転校生に興味を抱いて話しかけてくれると思ったが今のところそんな気配はない。俺が嫌われているのではないかと疑いたくなるほどだ。
「よぉ、常盤君でいいのかな?」
「あ、別に君付けしなくてもいいけど」
まるで図ったかのように俺に話しかけてくれたのは今風な悪く言えば少しチャラい男だった。髪の毛は長く茶色に染まっていて世間的にイケ面の部類に入ると思われる。
「じゃあ常盤で。俺は海堂 亮太、よろしく。まぁ、亮太とでも呼んでくれ」
「じゃあ、亮太って呼ばせてもらうよ」
「おぅ。じゃあ、こっちも下の名前で呼んでいいか?」
「構わないけど」
「オッケー。それにしても、莉人お前はラッキーな奴だ」
いきなり話が変わりすぎているし、もうちょっと具体的に話してくれないと何なのかまったく見当がつかない。そもそも、今日一日を通してラッキーなことなどなかった気がする。あるとすればアンラッキーのみ・・・。
「えっと、何が?」
「だっていきなり竜崎さんの隣の席じゃないか。席替えの時は飢えてる男やファンクラブの人間が隣を狙って大変なんだ。まぁ、くじで決めてるわけだから特に何かが起きるわけでもないけど」
「へぇ、ファンクラブまであるんだ」
「まぁな。美女が多いと名高いこの高校で一年の時にミスコンで優勝してるからな。それも準ミスに大差をつけたらしいし。準ミスの人もその前の歳は優勝したんだけど竜崎さんには到底及ばなかったみたいだ」
正直、どうでもいい話だけど聞いておくべきだと思う。ここで興味ないなんて言ったら友達を作る前に失う事になってしまう。人間、何事も興味を持っているようにしなければ。
「その隣の席に座れたんだ。お前はラッキーなんだぜ」
「へぇ、そうなんだ」
「なんかどうでもいいみたいだな。嬉しくないのか?」
「っていうより彼女のこと何も知らないから何て言っていいか分からない」
「まぁ、それもそうだな。でもその内、分かると思うぜ。竜崎さんは性格も良いからな。男女両方に好かれるし、いわゆる完璧人間って言ったところか」
やっぱり予想通り、学校ではいい人で通っているみたいだ。俺と2人きりの時の唯さんを見せたら皆はどう思うのだろう。多分、信じない気がする。どこかでそっくりさんを見つけてきたんだとかいう話で終わってしまいそうだ。
「敵は強大か・・・」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもないよ」
「そっか。それよりよ、今週末って暇か?せっかくだし遊びに行こうぜ」
亮太の誘いは嬉しかったけど返事は保留にしておいた。
執事に休みはあるのだろうか?
作者の月飼いです。
やっと5話目を投稿できました。
本当は毎日、更新したいんですが遅れてすいません。
読者の皆様、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは。