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わたしが悪役令嬢にならずにすんだのは、あなたの優しさのおかげです

作者: 羽田遼亮

私は悪役令嬢になる予定だった。


死の間際、神様に言われた言葉だ。


ちょっとだけ心当たりがある。


幼い頃、私は気が強く、意地悪だった。


王立学院の目立つ子に目を付けては意地悪をしていたのだ。


その中にカレンという娘がいた。


神様いわく、彼女は転生者で、不思議な力を持っているらしいのだが、とにかく目立った。


クラスのものから愛され、素敵な男の子たちにも好かれ、まばゆい人生を送っていた。


だから私は彼女が嫌いだった。


彼女の天真爛漫な笑顔が憎たらしかった。


あるいは彼女とその取り巻きが発する幸せそうなオーラが苦手だったのかも知れない。



一方、私の取り巻きは意地悪で、小ずるくて、性格が悪いものばかりだった。


皆、うんざりするくらい自分に似ていた。


しかし、私はその中のひとりによって運命を変えられる。



あれは12歳の誕生パーティーのときだった。


お父様に新しいドレスを買って貰った私は喜び勇みながら、王立学院のクラスメイトに招待状を書く。


もちろん、〝カレン〟を除いて。


あの小憎たらしいカレンは誘ってやらない。もしも私の前にひざまずけば話は別であるが、私に反抗的なうちは徹底的に無視してやるつもりだった。


昨年はそれが見事に成功し、カレン以外のクラスメイトたちと楽しい時間を過ごせた。


今年も同じような時間を過ごす予定だ。


メイドたちにチキンの丸焼きとタルトを用意させる。それと甘い甘いレモネードも。


当日、私はわくわくしながら彼ら彼女たちを待った。


クラスメイトたちは次々とやってくる。


名門アナハイム家の御令嬢の誕生パーティーに来たくないものなどいないのだ。


豪華なご馳走、移動式回転木馬、ピエロもいる。


最高の御令嬢には最高の誕生パーティー、そして最高の級友。


ふふん、と私はほくそ笑む。


私に誕生日プレゼントを渡す級友たちの列を見る。


皆、私にこびを売ろうと良い物を買ってきたが、その中でひとりだけ粗末なプレゼントを持ってきた娘がいた。


級友のひとりであるが、末席なので名前は覚えていない。


たしか家が没落し掛けていて、奨学金で学院に通っているという噂は聞いていた。


だから彼女のプレゼントだけ手作りだった。


小綺麗に編んだミサンガ(幸運のお守り)であった。


彼女は恥ずかしそうにそれを渡す。


「ふん、まあ貰ってあげる」


と受け取ったのは気まぐれだった。翌日、手首に巻いたのも気まぐれであったが、その女生徒は酷く喜んだのを覚えている。



翌年も誕生日が訪れる。


当然のようにクラスメイトに招待状を送るが、今年は去年の半分しか集まらなかった。


豪華な誕生日が始まっても私は終始、不機嫌だった。


取り巻きのひとりに尋ねる。


「今年はなんで半分しか集まらないの?」


「な、なんででしょうか、こんなに素敵な会なのに……」


口を濁す取り巻きだが、答えは知っているようだ。


あのカレンの仕業である。


彼女はあの天真爛漫な笑顔でクラスを支配しつつあるのだ。


クラスメイトを虜にし、クラスの中心的な人物になりつつあった。


「……ふん、まあいいわ。それでもクラスメイト半分はわたしのものなのだから」


そのように余裕をかますが、顔を引きつらせることになる。



翌年、誕生日会に出席するものが半分に減ったのだ。



その翌年はさらに半分に。



15歳のときにはたったの三人になった。



一方、カレンの誕生日会は大盛況らしい。



歯ぎしりする私。ちなみにカレンは毎年、私に招待状を送ってくる。



「ふん、いってやるものですか」



強がる私だが、16歳の誕生日会で心が折れる。


いつも仲良くカレンをいびっていた最後の取り巻き三人も誕生日会に顔を出さなくなったのだ。



16歳の誕生日当日、16本の蝋燭を呆然と見つめる私。


執事に使いを出させるが、取り巻きたちは、「今日は親と出かける」「親戚の法事が」「習い事の先生に呼び出されている」という返事しか寄越さなかった。


やがてあたりは雨雲に包まれる。


土砂降りの雨が降ってきた。まるで私の心を表現しているかのような雨だ。


惨めになった。


メイドのひとりが「お嬢様、せっかくのご馳走なので皆で食べましょうか?」と尋ねてきた。


私は、


「いらない」


と言う。


胸が締め付けられて食欲など湧かない。


ケーキをぶちまけたい気分にかられたが、それを止めるものが現れた。


その子は息を切らせながらやってきた。


ずぶ濡れになりながら私の家に現れたのだ。


その子の名前はエミリアだった。取り巻きの中でも一番、影の薄い娘だ。家が没落し掛けている苦労人の令嬢だった。


「……あなた、親戚の法事があるんじゃなかったの?」


「はい、ありました。でも、終わったので急いできたんです」


彼女は申し訳なさそうに頭を下げると、


「遅れてしまってごめんなさい。……ケーキ、まだ残ってますか?」


と言った。


「……残ってるわよ。たっぷりと」


そう言うと一緒にケーキを食べる。私のケーキはとてもしょっぱかった。涙を流しながら食べたからだ。


エミリアの顔も濡れていたから、もしかして一緒に泣いていてくれたのかもしれないが、真偽は不明だった。


彼女とは親友になるのだが、生涯、教えてくれなかったのだ。



ただ、後年、なぜ、私のような性悪と友達になってくれたのかは教えてくれた。


彼女の結婚披露宴で尋ねたのだ。


すると彼女はにこりと言い放った。


「わたしのあげたみすぼらしい誕生日プレゼントを受け取ってくれたからです」


と言った。


「……馬鹿じゃないの。そんなことで私のような嫌われものの友達になるなんて」


私は涙を流しながらそう言ったが、今度こそ彼女も泣いてくれた。



エミリアのお陰で悪役令嬢として最後の一線は越えずにすんだ。追放エンドも断罪エンドも免れた私。


彼女の優しさに触れたおかげだった。



「ありがとう、エミリア」


「あなたのおかげで素敵な人生を送れた」


「あなたのおかげで人間らしく生きることが出来た」



老人となった私。死の間際、思い出すのは親友の顔。


あのとき涙に濡れながらケーキを食べてくれた大切な人の顔だった。

ポイントをくださると執筆の励みになります。


それと下記のリンクの短編も面白いので是非。

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― 新着の感想 ―
[一言] このお話が大好きです 何度も何度も読んでいます 主人公の気まぐれだったとしてもプレゼントを使ってくれた優しさをエミリアが受け取った。それをずっと友情と親愛という形でふたりはつながっていた。 …
[一言] うるっときました。
[一言] 凄く好きです! この話を読む事が出来て良かった…ありがとうございました
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