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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章:二人の王子

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大人の事情①

「ツキノの改造計画?」


 僕は何それ? と首を傾げてしまう。行方をくらませていた二人と合流した僕達は、元々の予定通り今は四人で食事をしている。にこにこと叔父さんが語る傍らで、ツキノは黙々と目の前に並べられた食事を食べていて、少し心配になった。


「そう、ツキノ君のイメージチェンジにカイト君も付き合ってくれるよね?」


 そんな事を言いながら、叔父さんはツキノの前に運ばれてきた料理をさりげなくどんと据えて、ツキノはツキノでまたその料理を黙々と食べ続けている。


「ねぇツキノ、さっきから黙って食べてるけど、自分の話なんだから少しは会話に参加しようよ」

「うん? いや、俺はもうそれに関しては了承済みだし、とりあえず食べろって事だと思ってるから食べてるだけだけど?」

「どういう事?」

「だってツキノ君ちょっと痩せすぎだと思わない? 腕見てよ、こんなに細いんだよ? 触ったら折れちゃいそうだよ? 僕の方が太いんだよ? これ絶対おかしいからね!」


 叔父さんの言う事は間違っていない、確かに最近のツキノは痩せすぎなので太らせる事に関して否はないけれど、急にそんなに何でもかんでも食べさせるのはどうかと思うのだ。


「もしかしてアジェさんって最初からそのつもりで、俺に色々食べさせてたんですか?」


 箸を止めて問うツキノに「なくはないけど、勿論自分も食べたかったからだよ」と叔父さんは笑った。確かに叔父さん達と過すようになってからツキノは毎日惣菜のお土産を持たされて帰ってきていて、僕自身もそのご相伴に預かっていたのだけど、そういう事だったのか?


「確かに食べれば太るかもしれませんけど、そんな簡単にイメージチェンジなんてできるのかな?」

「別に太らせる事だけでイメージチェンジできるなんて思ってないよ、それはあくまでおまけ。これは僕がツキノ君の不健康な痩せ方を見ていられないだけ。だからカイト君もたくさん食べてね、2人共育ち盛りなんだからたくさん食べて大きくならなきゃ」


 僕の前にも美味しそうな料理を差し出し叔父は「食べて、食べて」と勧めながら自分も料理を取り分けて舌鼓を打っている。たぶんこの人自身も食べるのが好きなんだろうな。


「食事代なら気にするな、全部俺達の奢りだから」

「え……それは……」

「いいの、いいの。こんな事でもなきゃ使う当ても無いお金だもの、普段節約してるからこんな時にはぱーって使うって僕達決めてるんだよ、ね、エディ」

「その通りだ」


 そうは言っても豪遊しすぎではないのかと思わずにはいられないのだが、田舎貴族とはいえ『お貴族様』には違いない、こんなお金の使い方をしても生活には困らないのだろう。


「そ・れ・で、明日はツキノ君の服を見に行こうと思うんだけど、カイト君、明日は仕事?」

「いえ、明日も休みです。ツキノの服、買いに行くんですか?」

「うん、どこかいいお店とか知ってたら教えてくれる? 2人を見てるとツキノ君よりカイト君の方がセンス良さそうだしね」


 その指摘はまさに図星でツキノは気まずげに瞳を泳がせた。そもそもツキノは服など着られれば何でもいいというタイプの人間だ。与えられればそれを何も考えずに着るくらい服に頓着はない。

 逆に僕は家計の事情的にあまり服が買えないのでよく吟味して気に入った物を長く着る傾向があるのだけど、そういう所が叔父さんには分かるのだろう。


「ツキノはあんまりそういうの興味ないから。でも、それだったら僕、ツキノに着て欲しい服があるんですよ」

「え? 何? 何? どんな服?」


 ツキノは俄かに眉間に皺を寄せた。ツキノは服に頓着しない、けれど徹底的に拘るというか、いつも着るのが飾り気のないシンプルな物なのだ。

 デルクマン家の皆もそれは大体同じなのだが、その中でもツキノはより地味な色味の物を選ぶ傾向がある。


「お前の選ぶ服は派手すぎる、俺は嫌だからな」

「そんなに派手なんかじゃないよ、むしろツキノは色を抑えすぎ。僕がよく行くお店の服、家の中では勝手に着るくせに外では絶対着てくれない! 白・黒・茶の三色だけなんてツキノには地味すぎるよ!」

「お前はその髪色だから派手な色でも似合うんだよ、俺のこの黒髪でそんな赤やら青やらの服着てみろ、完全に服が浮くからな! 本体が服に負けるんだよ、分かれよ」

「そんな事ないって! 絶対似合うから大丈夫だよ」


 やいやいと言い合う僕達を見て叔父さんは「ふふ」と笑みを零しつつ「それはいい事を聞いたよ」と唇に指を当ててそう言った。


「ツキノ君は基本的にそういう色味なんだね、だったらイメージチェンジはかなり簡単。逆にその色を使わなきゃいいんだからね」

「いや、だから俺は派手なのは似合わないって……」

「別に赤や青って一口に言ったって派手な色ばかりじゃないよ。紅色、茜色、紺色、藍色、たくさんあるし、原色だって似合わない事ないと思うんだけどな」

「ですよね! ツキノは自分が地味な人間だと思ってるみたいだけど、全然そんな事ないし、少しくらい派手でも全然似合うのに、そういうの興味ないから勿体ないと思ってたんですよ」

「確かに素材がいいんだから生かさないと勿体ないよねぇ。こんなに綺麗な顔立ちしてるんだもん」


 その言葉にツキノはまたしても眉間に皺を刻む。僕とツキノはどちらかと言えば2人揃って女顔なのだ。ツキノは美人系、僕は可愛い系で2人纏めて「可愛い可愛い」と、もて囃されてきたのだが、ツキノはそれがあまり嬉しくないようでいつでもこんな顔をしていた。


「それは男にとって褒め言葉じゃないですよ」

「そう? 僕は羨ましいけどな。それじゃ明日はカイト君のお勧めのお店に行こう。服は僕が見繕うよ」

「本気ですか!?」

「当たり前、ツキノ君のイメージを変えるためなんだから、同じようなのじゃ意味ないだろう? ふふふ、楽しみだな」


 叔父さんがとても楽しそうに笑う傍ら、ツキノは憮然としながらも仕方がないという様子でまた食事を再開した。


「ツキノ大丈夫? あんまり食べ過ぎもよくないから、適度に食べなよ?」

「分かってる」


 そう言いながらもツキノは箸を休める事なく食べ続けていて、ここしばらくのツキノの拒食を知っている僕は少しだけ不安になった。



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