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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章:二人の王子

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君と僕⑤

 僕とツキノのごっこ遊びは一週間を過ぎても続いていた。

 僕はツキノの事をツキノも僕のことを嫌というほど分かっていたので、お互いがお互いのふりをするのに何の支障も違和感もなかった。

 僕はツキノの髪を金色に染めた。そして自分の髪はツキノと同じ黒髪に染めようとしてツキノに止められた。

 「黒は嫌だ」と、そう言ったツキノの言葉を受け入れて、僕はそのままの髪色で、僕達2人が並ぶとまるで双子のようになっていた。

 元々体型が似ている上、服の貸し借りも日常茶飯事、2人が2人共、お互いに自分を似せようと努めているうちに、まるでそっくりになってしまっていたのだ。

 2人共がカイトに見えたし、また逆に2人共がツキノにも見えた。容姿が似ている訳でもない2人なのに、それはとても不思議な事だ。

 僕は自称父親エリオットが戻って来て文句のひとつでも言うかと思っていたのだが、エリオットはその後何日経っても戻っては来なかった。彼にはさしたる興味もなかったので、帰って来ないのならそれでいいと思ったし、母も何も言わなかった。

 一番気がかりだったグノーさんの体調は、身体的には何の問題もないと言われたのだが、同時に落ち着くまでしばらく会わないでくれとも言われてしまった。


「すまない、カイト……まさかこんな事になるとは思っていなかった」


 あの事件から数日後、僕達の家を訪ねてきたナダールおじさんはそう言って僕に頭を下げた。僕を家族同然に思ってくれているおじさんが、そんな憔悴しきった様子で僕に頭を下げる姿が僕には見るに耐えなくて、僕は黙って首をふる。

 ツキノはおじさんが訪ねて来たと分かると部屋に籠って篭城してしまい、僕は1人でおじさんの話を聞くしかなかった。


「ツキノは大丈夫ですか? こんな時に傍にいてやれないなんて、保護者失格です」

「ツキノの事は心配しないで、僕達ちゃんと上手くやれてる」


 「申し訳ない」と再び頭を下げるおじさんに僕は笑みを見せた。


「あとね、しばらくでいいから僕の事『ツキノ』って呼んで。ツキノは『カイト』だよ。この遊び、僕達結構気に入ってるんだ」


 母からある程度の事は聞いていたのだろう、おじさんはさして驚きもせずに頷きはしたのだが「あなたは大丈夫ですか?」とこちらへと心配そうな瞳を向けてくる。


「俺は強いから。父さんだって知ってるだろ?」


 その言葉はツキノの言葉にもカイトの言葉にも聞こえた。


「苦労をかけますね……」

「平気だよ」


 そう、僕は全然平気。それよりも心配なのはツキノの方だ。

 おじさんは少し困ったような表情で僕の頭を撫でて「君はお父さんよりも、叔父さんによく似ているね」とぽつりと呟いた。


「叔父さんって、アジェとかいう人?」

「そうです。彼はカルネ領ルーンで暮らしています、とても優しい人ですよ。一度会ってみるといい」

「ルーンってノエルが住んでる所だよね? あの人はランティスの人なのに、なんで?」

「あぁ……アジェ君は昔、ランティス王家に捨てられたのですよ。双子は忌み子だというそういう古い慣習のせいでね」


 僕は驚く、王家に捨てられた王子。そんな人が僕によく似てるの?


「その人は自分を捨てた王家を憎んだりしていないの?」

「それはありませんね。彼はとても強くて、とても優しい人です。人を憎むという事はできない人ですよ。誰よりも他者を愛し、愛されている人です」


 まるで想像できない。

 あの自称僕の父親の傲慢不遜ぶりを見ている僕には、その弟がそんな神様のような人だとは到底思えない。双子でそんなに違うってありえるのかな?


「おじさん、ひとつ聞いてもいい?」

「何ですか?」

「おじさんも僕の父親、知ってたんだよね? なんで今まで教えてくれなかったの?」

「それはカイルが嫌がったからですよ。お前はカイルの息子で、王家の人間ではない。カイルがお前を王家に関わらせたくなかった気持ちも理解できるので、私からは何も言う事はできなかった」

「王家に関わらせたくないって気持ち、おじさんも理解できるんだ? それはグノーさんが王家の人間だから?」


 僕の問いに、おじさんはしばし押し黙った。


「グノーさんが王家の人間なんだったら、ルイ姉さんやユリウス兄さん、ヒナもメリア王家の血を引いてるって事だよね?」

「……もう、私達には関係のない話です」

「だけど、そういう心情は理解できる?」


 おじさんは、僕の言葉にひとつ溜息を零した。


「……カイト、お前は賢い子だね。その通りだよ、本当はカイルにも関わりたくはなかったのだけれど、カイルの心情も理解ができる、だから私達は君達を受け入れたのです。カイルはともかく、カイトお前には何の罪も無い」

「だから何も言わずに僕の面倒も見てくれたんだ」

「カイト、これだけは声を大にして言っておきますが、私達はお前の事を嫌々面倒見ていた訳でも、王家の人間だからと特別に扱った訳でもない、ただお前が可愛かった、それだけなのですよ」

「うん、分かってる」


 彼等の家で過した時間は僕にとって宝物だ。そこに愛情がないなんて事は絶対なかったと断言できる。


「王家に関わる事はとても厄介な事です。それは身に染みているのですが、私達はお前もツキノも本当に可愛い我が子だと思っているのですよ」

「王家に関わるのは厄介、か……ねぇ、おじさん、セカンド・メリアって何? グノーさんは何であんな事をしたの? グノーさんの剣の腕が立つのは知ってるよ、でもグノーさんがあんな風に人を殺してしまったのには何か理由があったの? グノーさんなら殺さずに捕まえる事だってできたよね? なのに何であんな事になったの?」


 矢継ぎ早な僕の質問に、おじさんはまた少し困ったような表情を見せる。


「……それも、話しておかなければいけませんかね……本当はツキノにも聞いておいて欲しいのですが……」

「ツキノには僕がちゃんと責任もって伝えておく、だから教えて、どうしてグノーさんはあんな事をしたの?」


 おじさんは少し思案するように頭を抱え、そして話してくれたのはグノーさんの過去だった。



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