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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章:二人の王子

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君と僕③

 僕達が家に戻ると、母は僕達2人を纏めて抱きすくめてくれた。


「僕、ご飯作るよ、ツキノ、手伝って」

「え~面倒くさい……けど、まぁいいか、お腹空いてるし、早く食べたい。俺、準備するから、カイト野菜出して」


 母は戸惑ったように僕たちを見やった。それもそうだろう、僕がツキノをカイトと呼び、ツキノが僕をツキノと呼ぶのだ、訳が分からないと思うけど「今は黙っていて」とその背を押した。


「おじさん、邪魔だから向こうに行ってて、話しは飯の後でするからさ。俺もうお腹ぺこぺこ」


 そう言って僕は母さんを部屋から追い出すように背中を押した。

 「カイト…これは?」と戸惑い顔の母さんに僕は「ごめん」と呟き首を振った。

 僕達が突然2人だけの遊びを始める事はよくある事で、それ自体に母さんは驚きはしないと思う。けれどツキノの顔が薄汚れていて、それがこびり付いた血である事に母さんも恐らく気付いている。


「今は何も言わないで」


 僕のその言葉に戸惑い顔のまま、母は黙って頷いてくれた。



※ ※ ※



「放せ!なんで俺がこんな所に連れてこられなければならんのだ!?俺は先生の所に帰るんだ!放せっ!!」


 エリオットは騎士団員に引き立てられるようにして王城へ連行されていた。

 騎士団員達はうんともすんとも言わずに、ただ黙ってエリオットを睨み付けていて、エリオットはそれも気に入らず、なんで自分がこんな目に……と不機嫌を露にしていた。


「俺はこんな扱いを受けるいわれはない! 俺が一体何をしたって言うんだ! 俺はランティス王家の第一王子だぞ!」

「おやおや、王子は廃業したと聞いていたのだが、どうやら聞き間違いだったようですな」


 そこに現われたのは黒髪で長身の男。髭を蓄え、眼光鋭くエリオットを見やるその男はブラック・ディーン・ファルス、ここファルス王国国王陛下だ。

 ここまでエリオットを連行してきた騎士団員達が、彼を放り出して国王へと膝を折って傅くと、放り出されたエリオットは不満顔で国王を睨み上げた。


「これはどういう事ですか、ファルスの王よ。ファルス王国では何もしていない者をこのように力づくで引き立てるのが普通のやり方なのですか? とんだ野蛮国家だな。ランティスにはそんな事をするような品のない者、誰もおらんぞ」

「王に対してなんと無礼な!」


 エリオットの言葉に眉を顰め、ざわめく周囲を手で制して、ブラックは「ふむ」とエリオットを上から毅然と見下ろす。


「無礼に無礼で返して何が悪い! 先に礼を欠いたのはそちらではないか!」

「これは家臣がとんだ非礼を働いたようで申し訳ない。だが、ここへ連れて来られたのは貴殿も望む所だったはずだが? 配下の者から謁見要請が入っている」

「それは先生が勝手に! 私は貴殿に用などない!」


 エリオットの言葉にブラックは瞳を細める。何を考えているのかよく分からない表情、エリオットはこのファルス国王を、あまり好いてはいなかった。

 何度か公式な場で謁見はしているのだが、いつでもどこか掴み所の無いこの男がエリオットは苦手だった。


「ほぅ、そうでしたか。だが、私は貴殿に用がある。話しは一通り聞いておる、貴殿が私の友人を愚弄した事も聞き及んでおるでな」

「友人……? 心当たりはないが?」

「心当たりはない……か、貴殿がセカンド・メリアと呼ぶ、グノー・デルクマンは私の30年来の友人なのだよ。そうか、知らなかったか……ランティスの情報収集能力が斯くも貧相なものであったのなら、仕方のない事であろうかの」

「あ!? メリアのセカンドが友人? しかも30年前ってあの事件より前じゃないか!」

「アジェ様から何も聞いてはおらんのか?」

「あいつは自分が余計だと思う事は一切話さない。あいつは誰にでも平等で、誰にもどこにも加担しない、それは私に対しても同様に、だ」


 アジェ、エリオットの双子の弟で双子が忌み子として忌避されるランティス王国に捨てられた哀れな王子。

 彼は何故かたくさんの事を知っている、ファルス王国の端にある小さな領地で彼は平穏に暮らしており、その存在はファルス国王も認知している。

 けれど彼は国政には関わらない、ランティスの王子でありながらその存在は無き者として扱われているからだ。

 現在はファルスで暮らしている彼はランティスの情勢にもファルスの情勢にも明るいがどちらに加担する事もない。

 彼はエリオットの番相手であるカイルと既知の間柄で、その所在を常に把握していたようなのに結局兄であるエリオットにその所在を伝える事すらしなかった。

 エリオットは自力で彼を探し出し、ようやく自分の魂の片割れを見つけ出したのだ。それには15年もの歳月を費やした。


「まったくアジェ様らしい……」


 そんな思い通りにいかないエリオットの苛立ちを知ってか知らずか、ファルス国王はそんな風にアジェのことをあたかも知ったように語るので、それにもエリオット腹立たしくて仕方がない。


「メリアのセカンドの事なら私は知らん、関わり合いになりたくないんだ。それに愚弄も何も、私はあいつの名前を、セカンド・メリアと呼んだだけ、それはあいつの名前で間違いがないのだから、愚弄には当たらんだろう」

「グノーはもうメリアのセカンドではない。今はグノー・デルクマン、我が国の国民の1人だ」

「ふん、そんな事はどうでもいい。そんな話をする為に呼び立てられたのなら、私は失礼させてもらう、私には関係のない事だ」


 エリオットの言葉にファルスの国王は表情を変える事はなかったのだが、その瞳に怒りの色が浮かんだ事にエリオットは気付いていない。


「私は世の中に嫌いな人間が3種類いる」

「あ?」

「金や権力に物を言わせ、人を上から見下す者……」

「何を……?」

「自分の目で確かめもせずに、他人の意見に躍らされる者……」

「一体何なのだ!」

「そして、ファルスの民を傷付ける者……貴殿はどうやらその全てに当て嵌まる愚か者のようだ」


 ファルス国王の瞳は冴え冴えと冷め切っている。表情は笑みを浮かべていても、その瞳はまるで極寒の冬模様だ。


「グノーもナダールもツキノも、すべて私の物、ファルスの民だ。私は身内を傷付けられて黙っていられるほどお人好しにはできていない、どうぞランティスへお帰りください、そして2度とファルスの土を踏むな」


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