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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達
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流れは容赦なく人を巻き込む①

「もう、なんでもいいから早くやろうよ」


 険しい顔付きの少年達とは対照的にウィルはわくわく顔でツキノとカイトを見やった。

 黒髪の少年ツキノは面倒くさそうな顔をしているし、金髪のカイトはにこにこしているのだが中身は底知れない、なんだろうこの人達……正直逃げたい……


「ふむ、君達はウィル坊も含めて僕達が気に入らないようだねぇ? だったら、僕達4人対君達全員って事でどう?」


 カイトの提案にその場に居た10人近くの少年達がまた険しい表情を見せたのだが、ツキノもウィルも何でもいいという顔付きで、完全に巻き込まれた俺はやはりまた相手に睨まれてしまう。

 これ嫌だって言ったら抜けさせてくれるのかなぁ……きっと無理だよねぇ……


 ちらりとユリウスの方を見やったら、ユリウスは知人にでも会ったのだろう、大柄な男性と何か話しをしていて、どうやらこちらの険悪な空気には気付いてない様子だ。

 最後の頼みの綱にまで見放された気分で、俺が視線を少年達に戻すと彼等の中で一番体格のいい少年が「分かった」とひとつ頷いた。


「ここで負けても後で文句は聞かねぇからな」

「別に勝っても負けても何か変わるわけでなし……」


 ツキノはつまらなそうにそう呟く。


「何言ってんのツキノ、ここで勝っておけば来年騎士団に入隊した時、待遇良くなるの知ってるだろ? 僕達の輝かしい騎士団員生活の為にもここは勝っておくが吉だよ」

「カイ兄、来年騎士団入るんだ! てっきりカイ兄はおじさんの跡継いで研究職にでも就くのかと思ってたよ」


 カイトの言葉に反応して今度はウィルがそんな事を言った。

 研究職? カイトの親は何かを研究をしている人なのか?


「僕の頭脳を持ってすれば、その選択も無くはないけど、でも僕は研究者にはならないよ。それは何故だか分かるかい?」

「え……そんなの分かるわけないじゃん」

「ふふふ、よく考えれば簡単に分かる事さ。なんせ研究者は地味だからねっ、僕がそんな地味な仕事で収まっていられると思う?」


 両手を広げて言い切った彼のその大仰な身振り手振りに、確かにこの人地味な仕事には向かなさそう……と納得せざるを得ない。

 あぁ……なんか金髪が相まって後光でも射しているようだよ……


「騎士団はいい、晴れやかな舞台が幾らでもあるからね、ほら今だって僕達は注目の的だ」


 彼がそう言って大仰なふりでくるりと回って手を振ると、一部の観客から黄色い声援が上がった。

 え……気付かなかったけど、何アレ? 数人の女の子達が頬を染めて彼に手を振っている。

 それにやはり笑顔で舞台俳優のように一礼してから、彼はまたこちらを向いた。


「レディ達も僕達の活躍を期待して待っているんだから、ここは期待に応えないとね」


 ぱちりと決めたウィンク……何なんだろう、この人。俺とは住んでる世界が違う人かもしれないな……

 彼の隣の黒髪のツキノも冷めた目で彼を見ているので、もしかしたら俺と同じような感想を抱いているのかな? だったらちょっと親しみを感じられる。

 少年達は憎々しげな顔付きだし、うん、なんかそんな顔になるのも分からないでもないよ。


「はぁ……クソどうでもいい。どのみち俺は騎士団に入る気なんかないし」

「え……?」


 瞬間その場にいた全員が発言の主、ツキノを見やる。

 そして一番目を見開いて驚愕の表情を見せていたのが隣にいたカイトで、あんた達友達なんじゃないのか? 一緒に暮らしてるんじゃなかったか? なんで、今始めて聞いたみたいな顔してんの……? と、物凄く突っ込みたいのだが、そんな空気でも間柄でもない俺は沈黙を決め込むしかない。


「え……ツキノ? 今のは聞き間違い?」

「あ? 何がだ? 俺は騎士団には入らないって言っただけだろ。俺、一度でも騎士団に入るなんて言った事あったかよ」

「え……だって、ツキノのおじさん騎士団長だし、ユリウス兄さんだってそうだろ? 当然ツキノもそれに倣うと思うじゃん? それにツキノのその剣の腕、騎士団入らずにどこで活用する気さ?」

「別にこんなの趣味みたいなもので、活用もクソもないだろ」


「本気で言ってるの……?」とカイトは先程までのにこやかさとは一変、険しい表情でツキノを見据えた。


「だからこんな所、出て来るの嫌だったんだよ。面倒くさい事この上ない」

「えぇ、マジでツキ兄騎士団入んないの? あ……でも騎士団入らないなら、この先も俺と遊んでくれる?」

「ウィル坊、俺もそこまで暇じゃない。遊び相手は別に探せ」

「えぇ~ツキ兄なんか家に籠ってごろごろしてるだけだってオレ知ってるぞ。そういうの無駄飯食いって言うんだからなっ」


 今度はウィルとツキノが言い合いを始め、その傍らでカイトが暗く俯いている。

 もう、なんなのこの人達……


「……聞いてない」

「ん?」

「聞いてないよっ、ツキノ! そういう事は親友である僕にいの一番に報告するべきだよねぇ!?」

「……そうか? 別に今まで聞かれもしなかったしなぁ」

「だったらツキノは今後何をして食ってくつもりさ! まさか僕のヒモになる気じゃないだろ!」

「さすがにそれはない。できたら楽だけど」


 あれ……? なんか痴話喧嘩みたいになってきた……


「だったら!」

「でも、とりあえず15になったら実の両親の所に帰ろうと思ってる」

「はぁ!?」

「カイトだって、あの人達が俺の実の両親じゃない事くらい知ってるだろ?」

「それは……でも、ツキノの本当の両親が生きてるなんて聞いてない!」

「今言った。そもそも今までその手の話を一度も聞いてこなかったのはお前の方だ。こっちは別に隠してない」

「言うだろ、普通! そういう大事な事は親友である僕に相談するべきだろう!」

「あのさぁ……お前、俺の親友だっけ?」


 ツキノのその言葉に、瞬間カイトはかっと顔を朱に染めて、泣き出しそうな顔で俯いた。

 あぁぁあぁ……なんかもう俺でも分かるぞ、それ絶対言っちゃ駄目な言葉だ。

 周りの少年達も何やら哀れみを込めたような瞳でカイトを見ているし、なんだかもう居たたまれない。


「……っっ、お前なんか、もう知らんっ!!」


 おもちゃの剣を投げ捨てて、カイトは踵を返し駆けて行く。

 彼のファンと思われる女の子達も何事が起こったのかという顔で戸惑い、追いかける者、様子を伺う者様々にばらばらと散っていった。


「ツキ兄、サイテー。オレでも言っていい事と悪い事の区別くらい付くんだからな、さすがのオレもどん引きだよ。カイ兄可哀相」

「なんでだよ、本当の事言っただけだろ」

「だったらツキ兄はカイ兄のこと何だと思ってるのさ?」

「あ? ……空気?」


 瞬間またその場が凍てついた。

 絡んできていた少年達も呆れたような、何か得体の知れないような者を見るような表情をしているし、正直俺自身もこの人とは関わり合いたくないな……と思ってしまった。


「やっぱりツキ兄サイテー。ちゃんとカイ兄に謝れよな」

「面倒くさい……それにあいつはその内すぐ戻ってくる。あぁ、カイトがどっか行っちまったから、俺ももうここに用はないや。あとはお前等で好きにやんな」


 ツキノはおもちゃの剣をウィルに押し付け、カイトが駆けていった方向とは逆方向へと歩みを進める。


「待って!」


 咄嗟に俺はその腕を掴んで彼を引き止めてしまった。

 なんでそんな事をしたのか、よく分からないのだが行かせては駄目だと思ったのだ。

 そもそも俺たち……というかユリウスさんは彼を捕まえにここへ来た訳で、だったら逃がす訳にはいかない。


「あ? なんだよ、お前? なんか文句でもあんのか?」


 下から凄まれ睨まれる。

 あまり見る事のない黒い瞳の眼力は強く、瞬間怯みそうになったが、そういう訳にはいかない。ユリウスさんには一宿一飯分の恩がある。


「あんたを探してたんだ、逃がさないよ」

「はぁ!?」


 それにしても、この人腕細いな……力加減を間違えたら折れてしまいそうだ。


「俺はお前のことなんか知らねぇよっ」

「俺だって知りませんよ、でも探してたんだから仕方ないでしょう」


「はぁ!?」と訳が分からないという表情を見せる彼の腕を引っ張って、背後を振り返るとユリウスがこちらに向かって歩いてきていた。

 その視線に気付いたのかツキノもそちらを見やり「げっ……ユリじゃん」と眉を顰めた。


「説教があるらしいですよ」

「お前、ユリの何なんだよっ! ってか、放せ!!」

「放したら逃げるでしょう?」

「そんなの当たり前だっ」


 ぶんぶんと腕を振って逃げようとする彼を片手で掴んでいるのは厄介で、両手でその腕を掴んだのだが、やはりその腕の細さに戦慄した。

 これ、気を付けないと絶対折れる。


「ってか、マジ放しやがれっ!」

「駄目だって言ってるでしょ」


 睨む瞳が力を帯びる。


「放せって言ってんだよっ、このクソがっっ!」


 叫びと共に、蹴りが入った。

 この細い体のどこからその力が出ているのかと思うその蹴りに、一瞬不意をつかれはしたのだが、それでも俺はその手を放さなかった。

 悪いけど、打たれ慣れてるからこのくらいならどうって事ないよ。

 これでも駄目か、と更にツキノはぎりぎりとこちらを睨みつけるが、別にそれも怖くない。

 淡々と静かにこちらを痛めつける祖父の視線の方がよっぽど怖いと思う。ツキノは感情が視線に乗ってる分だけ分かりやすくていい。


「ノエル君ありがとう、もう放してもいいよ」


 傍らにやって来たユリウスに言われてようやく俺は彼の腕を放した。折れなくて良かった。


「くそっ、なんだよっ」

「ここじゃなんだから、向こうで話そうか? 君達もごめんね、ツキノは連れてくから、あとは自由にやって」


 にっこり笑うユリウス。俺にはその笑顔には逆らえない何かそんな力が備わっている気がしてならない。

 その証拠にツキノも不貞腐れたような表情なのだが逃げ出す事もしないでその場に留まっている。


「ノエル君とウィル坊はどうする? このまま続ける?」

「俺はどっちでも……」

「オレもなんか気分削がれたなぁ……カイ兄行っちゃったし、ツキ兄最低だし」


 ウィルの言葉にユリウスが苦笑して「お前はまた何をやった?」とツキノに問いかけるのだが、ツキノはぷいっとそっぽを向き応えない。

 ユリウスはやれやれという表情で、その場にいた少年達に「ごめんね」と一言詫びを入れて「行こうか」と俺たちを促した。



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