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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達

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祭りの終焉①

 ナダール第一騎士団長の怪我は出血のわりにそこまで酷くはなかったようで、命に別状はないという事で皆ほっと安堵の息を吐いた。

 しかし犯人が同じ騎士団員であった事は一連の事件を知る者達に、また暗い影を落とした。

 一連の犯人達は「他国の人間を無条件で受け入れるような政策を推進している事がおかしい、そして他国の人間が第一騎士団長を名乗っている事がそもそもおかしい」と、喚き立てている者がほとんどだった。


「しばらくメリアやランティスからの移民の受け入れを制限するか……」


 国王はそう言って盛大に溜息を吐いた。


「私も職を辞した方がいいですかね……」

「馬鹿言うな! お前の排斥を叫んでいるのはあくまで国の一部の人間だけで、ほとんどの人間はお前の安否を気にかけている、お前が今までこの国で上げてきた功績を考えれば当然の事だ! 自分の我を通す事しか考えていない餓鬼の言う事なんざ聞く必要はない! それにここでこちらが折れれば自分達の考えは正義だったと増長した人間が更に他国の人間を排斥にかかるのは目に見えてる!」


 国王の言う事はもっともで、ナダール騎士団長は口を閉ざしたのだが、その表情はやはりどうしても憂いを帯びていた。




「お祭り、うやむやになっちゃいましたね……」


 ナダール騎士団長とスコット騎士団長の試合が終わり、残す所はあと2試合だったのだが、3位決定戦はそのまま例年通り行われたものの一番の盛り上がりを見せるはずの決勝戦はナダール騎士団長不在のまま第3騎士団長の不戦勝となった。

 真っ直ぐな性格のアイン団長がそんな勝利に満足する訳もなく、本来ならばアイン団長が第1、ナダール団長が第3へと変わるはずのその試合で「これは無効試合だ」とアイン団長はそっぽを向き、第3騎士団長継続の方向で話しは纏まった。

 結果、3位決定戦ではきっちり勝ち上がったスコット団長もそのまま第4騎士団長継続、騎士団長に変動は何もないまま武闘会の幕は下ろされた。


 間もなく武闘会の閉会式が始まる。どうにも皆の心中はすっきりしないまま、祭りは終焉を迎えようとしていた。


「お祭りの最後は花火が上がるって聞きましたよ。俺、花火って見るの初めてです」

「そうなんだね、この花火が上がるとお祭りももう終わりかって、少し切なくなるんだけど、花火初めてなんだったら、もっとちゃんと見れるように街の方まで見に行く?」

「? 花火って向こうから上がるんじゃないんですか?」


 俺が街の方向を指差し首を傾げると、ユリウスは「違うよ」と笑みを見せた。


「花火は毎年お城の裏手から上がるんだ、花火をバックに浮かび上がるお城って凄く綺麗なんだよ」

「へぇ、そうなんだ。でも俺、街の方で花火の準備してる人達見ましたよ?」

「え?」

「じいちゃんの屋敷が見える丘の上で、祭りの終わりに花火を上げるから、是非見て行ってくれって言われたんです」

「そうなのですか……今年は趣向が例年と違うのかな……? そんな話聞いてないですけど」


 爆薬騒ぎの時に散々地図を眺めていたので、なんとなく覚えているのだけどイリヤの城下町には四方に小高い丘がある。じいちゃんの屋敷の裏手にあったのがそのひとつで、そこから花火が上がるのなら、その四方の丘からも上がるのかな? となんとなくそう思っていたのだ。


「でも、あそこから上がるならここからでもよく見えますよね」


 俺が言うと、ユリウスさんは「そうだね」と頷きながらも少し怪訝な顔付きをしていた。


「城は少し小高くなっているから城からはよく見えると思うけど、あそこで上げると街も近いし、あの辺少し背の高い建物も多いですから逆に街の人からは見難い気もしなくもないというか……」

「どうかしましたか?」


 じいちゃんが急に声をかけてきて驚いた。どうやらじいちゃんは俺とユリウスさんの関係を疑っているようで、二人でこうして話などしていると何処からともなく寄って来て、割って入ってくる。別に疚しい関係じゃないんだから放っておいて欲しいんだけどな……


「いえ、今年は打ち上げ花火の趣向が例年と違うようなのですけど、それがなんだか少し腑に落ちなくて……」

「打ち上げ花火? 城の裏手から上がるアレですか?」

「はい、ですけどノエル君が街の丘の上で花火の準備をしている人達を見たって言うんですよ」

「街の丘の上?」

「そう、じいちゃんの屋敷の裏手にあったあそこ」


 じいちゃんが俄かに険しい表情になって腕を組んだ。


「ノエル、大至急部屋からあの時の地図を持ってきてください、大急ぎで!」

「え? え? うん、分かった!」


 俺は部屋に駆け戻り、地図を引っ掴んでじいちゃんの元へと戻る。


「あぁ、やはり! これはいけない、これは駄目だ! ユリウス君、すぐに動ける仲間を集めて、機動力のある人間がいい、急いで、これは一大事だ! 陛下にすぐに報告を! これは急を要します!」

「え!? 何? 何!?」


 祖父は慌てたように地図を掴んで、城の奥へと消えて行く。ユリウスもよく分からないようなのだが「とりあえず人を集めてきます!」と駆けて行った。

 残された俺は一体どうすればいいんだろう? って言うか一体何があったの!? 誰か俺にも説明してよ!

 俄かに城の中はまた慌しくなっていった、あちらこちらで人が走り回り始める。


「ノエル君、これ何かあったですか?」


 不安気な顔で現われたヒナノの顔色はあまり良くない。父親が刺されたのだ、命に別状はないとはいえ、それは彼女の眼前で起こった事件だった、ショックを受けない訳が無い。


「よく分からないけど、今何か対処してる所だと思うからヒナちゃんは部屋に居た方がいいと思うよ。下手に邪魔にならない方がいいと思う」

「ノエル君は……?」

「何かできる事があるなら手伝わなきゃだけど……出来る事あるかなぁ?」


 事件は大きくなり過ぎている、もうこの一連の事件は俺なんかの手に負える話しではないのだ。

 なんやかやと事件に巻き込まれてここまできたけど、こんなに大事(おおごと)になるなんて思ってもいなかった。


「ノエル! 話を聞きたい、おいで!」


 じいちゃんに呼ばれて、俺は弾かれたように駆け出した。

 俺が呼び寄せられたのは、一昨日やはり同じようにじいちゃんと訪れた部屋だった。

 そこには今日はちゃんと王様らしい煌びやかな衣装を纏ったブラック国王陛下もいて、少し緊張してしまう。


「ノエル、先程の花火の話、詳しい状況を話すんだ!」

「詳しい状況? そんな事言われても……あの日、じいちゃんの屋敷に乗り込んだ日だよ、ウィルに連れられてあの丘の上に行ったんだ。でも、全然する事なくて暇だったからふらふらその辺散策してたら職人みたいなおじさん達が、危ないから近付くなって言ったんだ。祭りの最終日には盛大に花火を上げるから見てってくれって言ってさ、別に変な人達じゃなかったよ。あ……でも、俺その後変な人にも絡まれたんだった……」

「もしかして、ジミー・コーエンですか?」

「そう、その人」

「花火職人は恐らく、何も知らされていないのではないでしょうか。今年はこちらからも上げると言われて、普通に準備を進めていた。今回のこの武闘会、祭りの執行部は……」

「第4騎士団だ」


 第4騎士団、ウィルの誘拐をした騎士団員も第4騎士団の人間だったと聞いた、ナダール団長が刺された時の試合の相手も第4騎士団長、そして祭りの催しの企画も……?


「スコット騎士団長を呼べ! どういう事か説明をしてもらわんとな」

「説明責任もですが、まずはこの花火を止めなければ! いえ、花火ならいいのです、その花火がもしひとつでも爆薬とすり替えられていたとしたら、その場の花火もろとも爆発炎上は免れません。そしてそれが爆発したとして、次に引火するのはここです!」


 じいちゃんが指差した先は、爆薬が見付かった場所だった。


「もしかして爆薬まだそこにあるの……?」

「差し押さえはして、きっちり手は出せないよう警護していますが、火の手が上がってしまえばもうどうにもなりません。そしてここが爆発すれば、次はここ、そしてこっち、イリヤの街の半分は完全に火の海です」

「ねぇ、じいちゃん……丘って四方にあるよね、本当に花火ってここだけなのかな……?」


 俺の言葉にじいちゃんは青褪め地図を眺める、城下町の四方、そこで爆発炎上が起これば、見付かった全ての爆薬に延焼する恐れがある、それはイリヤの壊滅を意味する。


「時間は!?」

「打ち上げ時間までもう一時間ありません! 今から知らせに走って間に合うかどうか……」

「間に合わせるのです! できなければこの国は終わります!」

「くっ……やってくれる……街中でアレは使いたくなかったんだが、もうこうなったら背に腹は変えられんな……飛翼の準備だ! 非常用に用意してるのが幾つかあるはずだろう、出して来い!」


 飛翼? なんだろう? 聞いた事ないけど……


「陛下、街中でアレを使うのは……」

「だったらこのまま指咥えて見てろって言うのか!? これは完全に宣戦布告だ、城から城下町が燃えていくのを見てろって挑発してんだよ! 王城襲撃、そこで俺が死んでいれば花火は上がらない、花火が上がるという事は国王暗殺の失敗を意味している、だが奴等はそれも織り込み済で計画立ててやがんだよ、お前は殺せなかったとしてもこの国はもう終いだってそう言いたいのさ、くそっ! そんなシナリオに乗ってやる筋合いはねぇんだよ!」

「陛下! 緊急用の飛翼、3台しかありません、ここから飛んで3ヵ所、あと1ヵ所……」


 四方にある丘、飛翼というのがどういう物なのか分からないけれど、それがあれば連絡には間に合うらしい。でも1台足りない。


「……俺、行ってくる!」

「え?」

「ここ、じいちゃん家の裏手の丘の場所なら分かるから! ウィルが通った裏道も今なら分かる、だから行ってくる!」


 事件からこっち街の地図をずっと眺めていた、自分がここイリヤに辿り着いてから歩き回った道、ウィルに連れ回され通った道筋、すべて頭の中に残ってる。


「できますか?!」

「できる、できないんじゃない、やるんだろ!」

「その通りです! 行ってきなさい、必ず花火を阻止するのですよ!」

「分かった!」


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