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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達

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解け始めた糸①

 父を探してここイリヤにやって来て3日、俺は何故だかあちこちで事件に巻き込まれ、今現在第一騎士団の詰所で祖父コリーと第一騎士団副団長のキース、そして第五騎士団の騎士団長スタール・ダントンに囲まれて、知り合ったばかりのメリア移民の騎士団員ジーク・ライトの話を聞いている。

 今はそれ所じゃないから脇に追いやっているけど、俺の父親探し完全に暗礁に乗り上げてる気がするのは気のせいじゃないよな?

 そういえば、誰かが俺の父親の名前口走らなかったっけ? う~ん、でも今はやっぱりそれ所じゃないな。


「それで、あなたは自分の上司であるユリウスさんに依頼されて第五騎士団に捕らえられていた男を連れ出したとそういう事ですね?」

「はい、そうです」

「連れ出した男の事をあなたは知っていましたか?」

「いえ、僕は言われた仕事をこなしただけなので……」


 ジークの声は萎縮してどんどん小さくなっていく。そりゃあ皆に注視されての尋問じゃ、そうなるよね。


「移送すると言いながら、何処かへ連れて行った事を変に思わなかったのか?」

「多少は思いましたけど、上司のする事ですし、僕は意見できる立場じゃないので……」


 苛立ったようにそう言ったスタール団長の言葉に彼はまたどんどん萎縮していく。


「スタール団長、ジークさんは騙されてただけなんです、そんな風に責めないでください」

「それはどうだろうな?」


 スタールは少し厳しい顔でジークを見やる。


「俺はユリウス・デクスターを知っている、あいつは元々俺の部下だ。あいつは少しお調子者のきらいはあるがそんな事をする奴じゃない」

「……え?」

「あいつは赤髪だが坊主と同じでファルス生まれのファルス育ち、両親は元々メリアの出だが根っからのメリア人じゃない。ついでに連れ出されたあの男ジミー・コーエンはメリア人、事にその赤髪を嫌っていた、仲間だとは考えにくい」

「え……そんな……」

「坊主の話によるとこいつはウィルを攫った奴等と繋がってたんだろう? だとしたら、一番に疑われるのはやっぱりこの男自身という事になる。嘘は身を滅ぼすぞ、そんな愚にも付かない嘘は吐くもんじゃない」


 スタールの断言にジークはガタガタと震えだす。え? え? ちょっと待って、どういう事?


「あれ? うちの分団長は無関係ですか?」


 キースがあからさまにほっとしたような声を上げる。


「いや、それはちゃんと審議するべきだから、確保はしとけ。ただ、俺はこいつが気に入らない、こいつの目は嘘吐きの目だ。メリア人にはよくある事だが、息をするように嘘を吐く、生活に困っている奴にそういう奴が多くてな、嘘で固めて自分を守る。俺はそんな奴らを大勢知ってる」

「あなたも元々メリアの出ですものね……メリア人の事はメリア人の方が詳しい、という所でしょうか……」


 ジークは驚いたようにスタールを見やった。


「なんで?! 同じ元メリア人なら、僕の事信じてくれたっていいじゃないですか!」

「信頼に足る人間なら信じるさ、だが犯罪者は許さない。同郷だからと犯罪をいちいち目溢ししていたら、この仕事は成り立たないし、俺自身この立場に立ってもいない!」


 どん! とスタールは拳で机を叩くと、ジークはまたびくっと身を震わせた。


「待ってください、ジークさんには病気の妹さんがいて、生活の為に仕方なくあいつ等の言う事を聞いていただけなんですよ、ジークさんだって、本当はこんな犯罪じみた事したくはなかったんです、そうですよね?!」

「病気の妹か……本当にそんな奴がいるのなら、俺はそいつを信じてもいい」

「スタール団長!」


 まるで全てを頭から疑ってかかっている彼に腹は立つし、ジークの顔色は真っ青で、見ていられない。


「本当にそんな奴がいるのなら、俺がそいつの面倒を見てやる、だから、洗いざらい全部話せ」

「……え?」

「だが、これ以上嘘を重ねるようなら容赦はしない。嘘を嘘と認めて本当の事を話すか、このまま嘘を重ね通して身を滅ぼすか、俺はどちらでも構わない。お前の人生だ、お前が決めろ」


 スタール団長は突き放すようにそう言って、ジークを見詰めた。

 彼はただ突き放しているだけじゃないんだ、逃げ道は用意して選択は本人に委ねている。

 俺もジークを見やると、彼は居心地悪げに俯いた。


「ジークさん……」

「あぁ、もうホントに嫌になるなぁ……ここに来て同郷のメリア人にまでそんな目で見られるのか……僕は普通に暮らしたかっただけなのに! 人として人らしく暮らしたかっただけなのに!」


 彼はきっとスタール団長を睨み付ける。


「そうだよ、全部嘘さ! 同じ赤髪のくせに呑気に笑ってるあの分団長が気に入らなかった、聞けば騎士団長の息子だって言うじゃないか、腹が立って仕方がなかったんだよ! こっちは生きるか死ぬかの生活していた時に呑気に笑ってる奴等が許せなかった! 病気の妹がいるのはホントだよ、親に捨てられた兄妹二人、どうにか生活する為に要領よく金を稼いで生きようとすることの何が悪いのさ! 犯罪? は!? そんな事知った事じゃない、僕には関係ないよ。金払いのいい仕事がそこにあった、だからその仕事をこなしただけさ!」


 ジークは一気に吐き捨てるようにそう叫んだ。


「その金払いのいい奴等の名前と所在を吐け」

「知らないよ、名前なんて聞いてない。金に困ってる俺みたいな奴等に声をかけて回ってるみたいだったよ、メリア人をはなから人間扱いしない奴等だったし、捕まればこっちだって清々する。さっさと捕まえなよ、アジトの場所は教えてあげる。だから、その代わりに僕のした事には目を瞑ってくれない?」

「取り引きとはいい度胸だな」

「別にどうでもいいんだよ、どの道僕らみたいな移民は根無し草、どこで生きようが死のうが誰も悲しまないし、消えた所で誰も気にしない」

「分かった、条件を飲もう。だがこちらにもひとつ条件がある」


 スタールはジークの瞳をじっと覗き込む。


「なに?」

「この事件が終わったらお前は第五騎士団に移籍だ」

「は!? 何それ?!」

「お前は俺が躾なおす。文句は聞かん」

「はぁ? 馬鹿じゃないの!? こんな事した俺をまだ騎士団に置いとこうって言うの?」

「他に行く宛てもないんだろう、騎士団員の下っ端は薄給だが出世すればある程度は稼げるようになる。学はなくても上には立てる、俺みたいにな」


 ジークは訳が分からないという不審顔でスタール団長を見やった。


「俺の下にはお前みたいな奴等が大勢いる、第一のお行儀のいい奴等に比べたらお前の居心地は悪くないはずだ」

「……馬鹿じゃないの……」


 ジークはまた俯いてしまう。

 あぁ、なんだろう、悪い事をするのは絶対駄目なんだ、だけど、悪い事をする人間にも理由があってその理由のひとつひとつが胸に刺さる。

 自分勝手な理由だと思う、だけどそうせざるを得ない生活があった。俺にはそれがどんな生き方だったのか分からない、だって俺は家族に見守られて生きてきたから。

 彼の語った過去が全て嘘だった訳ではないのだろう、だけどその生活を俺は想像できない。

 自分は愛されていないと思っていた、家庭に居場所がないと思っていた、でもそんな事は全然なくて、俺は恵まれているのだと思わずにはいられない。


「話しは纏まった、キースそいつの話を聞いて裏付け取っとけ。俺は自分の所に戻って出れる奴見繕ってくる」

「え!? スタール団長!?」

「じーさんは作戦参謀だ、別に構わねぇだろう? 国家の一大事だ」

「まぁ、致し方ありませんね」

「あ、第三騎士団にも話しは通ってます! ウィルとクロウの人質交換は明朝でそれまでにどうにかしたいです」

「坊主やるな、話しが早い。分かった、そっちにも声掛けてくる」


 スタール団長は大股で足早に出て行った。スタール団長って凄い人だな、ちょっと格好いいかも。


「本当に君、何者なのさ……こんな事になるなんて僕、思ってなかったんだけど……」

「俺は別に何者でもないですよ」

「嘘ばっかり、あの人第五騎士団長じゃん、第三騎士団長だって君の言う事聞いたんだろ、話聞く限りじゃ第一騎士団長も知り合いみたいだし、そんな人間が何者でもないって意味が分からないよ」

「俺は本当に何者でもないですよ、俺の話を皆が聞いてくれるのは、しいて言えばじいちゃんの七光りです」

「七光りさせてやれるほど、私も大した人間ではありませんよ。お前はいつの間にそんなあちこちに人脈を作ったんだい?」


 改めて聞かれるとよく分からないんだけど、そういえばそうかも? 何でかな?

 すべての出会いは偶然? それとも必然? でも俺が動いた事で自体が好転するならそれに越した事ないよね?


「じいちゃんが言ったんだ。できる事はやれって、常に前を向けって、だからそうしたらこうなった」

「ふふ、お前という奴は、本当に自慢の孫ですよ」


 驚いてじいちゃんを見やったらじいちゃんは穏やかに笑ってた。そんな事一度も言った事ないくせに。

 ジークはキース副団長に別室へと連行されて行った。もう、嘘なんて吐かないといいけど。


「そういえば、じいちゃん、俺の父さんってさっきの……スタール団長なの……?」

「ん? まぁ、そうなのだと思うのですが、まだ聞いてはいません。あの人は私の顔を見てもお前の顔を見ても顔色ひとつ変えなかった、そこまで厚顔無恥な人間ではないはずなので、私も確信が持てない所ですよ」

「そうなんだ……」


 ナダール第一騎士団長が口走った名前、それがスタール騎士団長の名前だった。

 そしてじいちゃんもやはりそう思っているんだ。


「違うんじゃないの? なんかあの人全然心当たり無さそうだったよ?」

「メリッサは彼を好いていましたよ、彼にその気はなかったようでずっと袖にされ続けていましたけどね」

「そうなんだ……俺、似てるかな?」

「どうでしょうねぇ、似てると思いもしましたが並べて見たらそこまで似ていない気もしますし、よく分かりませんね。お前はどう思うんだい? 彼が本当に父親だったら何かして欲しいと思うのかい?」

「ううん、父親が知りたかっただけで、別にどうこうして貰おうと思ってた訳じゃないから。ふふ、でも、もしあの人が父親だったらちょっと格好いいなって思ったよ」

「まぁ、そこは認めてやらない事もありませんね」

「あはは、じいちゃんも格好いいよ。昨日の恫喝とかホント格好良かった」

「私の真価はまだここからですよ」


 じいちゃんはまた穏やかに微笑む。


「ノエルも手伝うんだ、時間が無い。この地図の私の言う場所に印を付けていく、いいね、間違えるんじゃないよ」

「これ、何?」

「爆薬が持ち込まれている、しかもこの街を吹き飛ばすほどの量だという。だとしたら保管場所は限られます。それの割り出しですよ」


 手渡されたのは城下町の詳細地図、しかも大きい。俺は祖父の言葉に頷いて、その言葉通りに地図に印を付け始めた。


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