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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達

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事件解決の糸口は……②

 俺は踵を返してその路地裏を飛び出し、そしてそこで人にぶつかる。


「あ、すみませ……」


 顔を上げたらまた騎士団員の制服を着た男性だった。そこまで大きくもない、ひょろりとした青年だ。そして、その髪は俺と同じ赤髪だった。


「君……騎士団員? 初めて見るけど、どこの騎士団?」

「え……あ、えっと……」

「僕、第1騎士団なんだ。メリア人の騎士団員は少ないから、嬉しいなぁ」


 彼はにっこり笑みを見せた。


「こんな所で何をしてるの? もしかして今その路地裏から出てきた?」

「あ……」


 何をどう言っていいか分からない。もしかして、この人あの人達の仲間? もしかして俺が間違われた人? 今ここでこの人があそこに行ったら俺が仲間じゃない事ばれちゃうよ!


「君ももしかしてあいつ等に使われてるの……?」

「……え?」

「もしそうなら悪い事は言わない、あいつ等には関わらない事だ。幾ら積まれた? 君、まだ若いよね? こんな事で人生棒に振ったら駄目だ」


 その人は、俺の腕をぐいぐい引いて、その路地裏から俺を引き離す。


「あの……あなたも、あの人達の仲間なんじゃ……?」

「うん、まぁ、そうだね」

「だったらなんでそんな事……」

「僕には金が必要だ。妹に持病があってね、金がかかる。騎士団の給金だけじゃ足りないんだよ。君は? 君だったら騎士団の給料だけで生活できるだろ? 悪事に手を出したら駄目だ、自分を貶めたら駄目だ。裕福な生活を求める気持ちは分かるけど、犯罪だけは絶対駄目だ」

「だったら、あなたもこんな事するべきじゃない。妹さんの為にもあんな人達と付き合うべきじゃない」

「だったら、妹を見殺しにしろと……? たった一人の妹なんだ。他に身寄りもいない、僕にはあの子しかいなんだ、僕はあの子の為なら何でもできる……」

「それが悪い事だと分かっていても?」

「金が、必要なんだよ……」


 瞳を伏せて彼は苦しげにそう言った。


「運よく騎士団に入れて、生活も安定した、だけど足りないんだ……メリア人は信用がない、金貸しも金を貸してはくれない。学もないから給金のいい仕事に転職もできない、ここで出世できればまた違っただろうけど、僕には騎士団員としての腕も見込めない」


 ここイリヤでのメリア人の扱いを実体験してきた自分には彼の苦悩が分かってしまう。だけど、それなら尚更彼はこんな事をしていてはいけないとそう思うのだ。


「でも、あなただってこんな事をしていたらいずれ捕まってしまいます。そんな事になったらそれこそ妹さんは救われない!」

「だったら、どうすれば良い!? 他に手段がないんだよ、メリア人は生きるなと言う事か!? 僕達は生きる事すら許されないのか!」


 それは彼の心からの叫びだろう、だけどだからこそ、そんな事はしてはいけないとそう思うのだ。


「もしかしてあなた今朝、第5騎士団からある男を連れ出しませんでしたか?」

「なんでそれを……?」

「その人は何故連れ出されたんですか? あなたにその指示を出したのはあいつ等?」

「ううん、違うよ。それはあいつ等じゃない。だけど、僕が連れ出したあの男を僕の上司は何処かへ連れて行ったんだ。第一騎士団に移送だと聞いていたのに、連れては行かなかった。何処へ連れて行かれたのか僕にも分からない……」

「その上司って……?」

「知ってるかな? 第一騎士団長の息子、ユリウス・デルクマン」


 瞬間目を見開いた、そんな事がある訳ない! この人は嘘を吐いている、だけど、本当に?

 あの時あの浮浪者が現われた時、彼等はお互いを分かっていなかったはずだ、いや、それともそれは周りに対するふりだった?

 でもユリウスさんがそんな事をして一体何の得がある? 今だってユリウスさんはあいつを追いかけているのに!

 信用しかけていた目の前の男が俄かに信用ならなくなった、ユリウスさんとの付き合いはまだまだ短い俺だけど、彼を悪者のように言う、この男を俺は信用できない。


「どうかした……?」

「騎士団長の息子がなんでそんな指示を……?」

「上層部の考えなんて僕に分かる訳がない」

「その人は本当に騎士団長の息子なんですか?」

「知ってる? 第一騎士団長の奥さんってメリア人なんだよ。だから第一騎士団はメリア人への待遇がいいんだ。第一騎士団ならこの赤髪もそこまで悪く言われない、だって騎士団長の息子も赤髪だからね」


 違う! この人騙されてる! ユリウスさんの髪は父親譲りの金髪で赤髪なんかじゃない!


「騎士団長もいい人だったけど、息子さんも凄くいい人なんだよ。僕がイリヤで騎士団に入ってからまだ2ヶ月くらいなんだけど、僕にはいつも良くしてくれて、妹に玩具まで買ってくれた」


 その人って誰? でもそれは絶対俺の知ってるユリウスさんじゃない! だってユリウスさんは一昨日お祭りの為にここイリヤに来たんだ、イリヤに来るのは久しぶりだって笑ってた、そんな事絶対ありえない!


「あなたは騙されてます」

「え……?」

「蜥蜴の尻尾切りみたいに、このままじゃ全部の罪を擦り付けられますよ!」

「え? どういう事?」

「手伝ってください、俺、イリヤには詳しくないんだ。第3騎士団の詰所の場所が分からない、連れて行って」

「それって……あいつ等の? それは、駄目だって言ってる、それは僕がやるよ君は手を引け」


 俺は黙って首をふる。これは駄目だ、俺がやらなきゃ、この人は捕まってしまう。

 誰だかよく分からないけれど、ユリウスの名を騙る誰かがこの人を使って何かをしている。この人はその赤髪の誰かをユリウスだと信じている、もしこの人があの浮浪者を逃がした犯人だとされたら、もしこの人が捕まった時にその上司の名を出したら、その時、本物のユリウスさんまで疑われてしまう。

 すべて計算尽くなのか? あいつ等の仲間は、いや、あの浮浪者自身も第一騎士団長を嫌っていた、これは騎士団長やその周り全ての信頼をも失墜させるそういう物なのかもしれない。


「俺が全て何とかします、だから手伝って」

「君は、何をする気だ?」

「悪いようにはしません、俺を信じて」


 戸惑ったような表情を見せる男に俺は「お願いだから」と頭を下げると、男は渋々と頷いて、俺を第3騎士団の詰所へと案内してくれた。


「名前は?」

「……ジーク。君は?」

「ノエルです」

「可愛らしい名前だね、メリアでは女の子に付ける事の方が多い名だ」

「そうなんですか? あんまり気にした事なかったけど……」

「君はメリア人だよね? 生まれは? ファルス生まれ?」

「はい」

「そう、それは幸せだね」


 道すがら俺達はぽつりぽつりと会話を交わす。


「メリアはそんなに酷いですか?」

「うん、そうだね。僕が生まれたのはランティスとの国境近くで、いつでもどこかで人が争っていたよ。穏やかに暮らしたくても土地は荒れ放題で、定住したくても争いが起こるたびにその土地を追い出された。仕事がないからお金もないし、食べ物は高いから国からの施しを受けて生活してた。でもそれでも家族全員食べるには足りなくてさ、親に捨てられたんだ妹と一緒にね」


 ジークはさらりと語るが、自分では想像もできない生活だ。すぐ隣の国ではそんな事が起こっているのかと、俺は戦慄せずにはいられない。


「保護された先の施設の人も酷くてさ、国からの援助資金目当てでやってるような所だったから僕達の面倒もろくすっぽ見てくれなくて、妹と2人で逃げ出した。それで辿り着いたのがファルスでさ、本当に天国かと思ったよ。人は優しいし、ご飯ちゃんと食べさせてくれるし、だけど、それも一時的で働けるなら働けって放り出されて……まぁ、それは当然といえば当然なんだけど、幾つか職を転々としてここに辿り着いた。妹と2人で何とか食べてけるかなと思ってた矢先に妹の持病が悪化してね、体調悪いの隠してたんだよ、僕一人に負担はかけたくないって言ってさ……そんな事考えなくても良かったのに……」

「……大変だったんですね……」

「僕達はまだ生きてる、まだマシな方さ……」


 思っていたよりメリアという国は荒んでいる、そんな印象。俺はこの赤髪のせいで散々嫌な目にもあってきたけれど、生粋のメリア人の現状はそれ所ではないのだと分かってしまう。


「時々嫌な事言われる事もあるけど、基本的にファルスの人は皆優しいしね。僕は本当にラッキーだった。ただ、妹の事だけが僕の気がかり」


 瞳を伏せてジークは言う。

 不法移民、治安が荒れる、そんな風に言われて蔑まれても、それでも彼等は生きている。彼等だって生きたいんだ。そんな事は誰だって分かるのに、それにつけ込む奴等もいて、俺はそれが悔しくて仕方がない。


「ここが第3騎士団の詰所だよ、あいつ等にどんな仕事を依頼されたのか知らないけど、本当に行くの? 1人で大丈夫?」

「危険な仕事ではないです。ただ、少し厄介なだけ。ジークさんは俺が出てくるまでここで待ってて、もうあいつ等の所に行っちゃ駄目だ」

「でも……」

「お金の心配はしないで、絶対俺がどうにかするから」


 どうにかする宛てもないけれど、今はこの事件の解決が先だ。俺はこれを第3騎士団長、ウィルの父親に伝えないといけないし、ジークを第一騎士団に連れて行って、祖父やキース副団長に事のあらましを伝えなければいけない。

 ジークを騙している人間は第一騎士団にいる。それは敵を腹の内で飼っているのと同じだ。このままでは第一騎士団は腹の中から食い破られる。


 俺はジークを残して第3騎士団の詰所を訪ねた。やはり室内は第一・第五と大差はない。

 ただ少しだけ、騎士団員のメンツが余所より厳つい。どこの騎士団員も体格が良くて大きかったが、なんだかもうレベルが違う。


「ん? どこの所属だ? 新入りか?」


 ぬっと上から不審気に見られて、もうそれだけで圧倒される。


「あのっ、騎士団長いますか?」

「戻られてるが、今は忙しい、用があるなら俺が聞く」

「直接話しをさせてください、大事な用件なんです」

「あ? 団長は現在多忙だと言っているだろう」

「本当に大事な用件なんです! ウィルの事で話しがあると言ってもらえば分かります」

「ウィル……?」


 途端にその男は胡乱な瞳を俺に向けた。


「どういう事だ?」

「俺はウィルの友達です、騎士団長も知ってます。合わせてください、本当に大事な話なんです」


 しばらく逡巡してから男は「分かった」と奥へと向かった。良かった、何とか騎士団長には会えそうだ。

 しばらくすると何度か見かけた大きな人影、ウィルのお父さん、第3騎士団長だ。


「ん? 君は? どうして君が?」

「これを預かってきました」


 俺は男に渡された封書を騎士団長に手渡した。騎士団長アインは、その手紙の封を切り、読み進め、途端に青褪める。


「これは……なんで、これを……」


 俺は周りを見回した。あの場に居た男達は皆騎士団員の制服を着ていた、何処に敵がいるか分からない。この場にあいつ等の味方がいる可能性だってなくはない。


「話を聞いてくれますか?」

「分かった、話を聞こう」

「ウィルの身の安全の為にもあまり大きな声では言えない話です、人払いを」

「だったら、こっちへ来い」


 そう言って騎士団長は俺を奥へと通してくれた。完全に人払いをして貰って騎士団長と2人、俺は話を切り出した。

 事の次第を順番に、アインは唸り頭を抱える。


「もしかしたらうちにもそいつ等の仲間がいる可能性があるという事か?」

「なくはないです、ウィルはそう簡単に捕まるような奴じゃない、ウィルを捕まえた人間がウィルの顔見知りだった可能性も否定できない。あの場にいた人達は皆騎士団の制服を着ていました、だけど俺には誰が本物で誰が偽者なのか分からない」

「むむう……これは困ったな……」

「それに書かれていた内容はウィルと昨日のあの男との交換ですか?」

「あぁ、そうだ。だが、そんな事できる訳がない……」

「今は相手の言う事を聞いてください、ウィルの命が危ない」

「うむぅ……」

「自分の息子が可愛くないんですか?!」

「そんなの可愛いに決まってる! だが、それとこれとは話しが別だ! 犯罪者を野放しになどしては騎士団長として失格だ!」

「子供より、自分の立場が大事ですか!」

「そんな事は言っていない、話を聞く限り、そいつ等はもしかしたらここイリヤを火の海に沈めようとしているのだろう? あいつの金がそれを引き起こすというのなら、俺はそれに加担はできん」


 父親としての顔、騎士団長としての顔、その両方がこの人にとっては大事で俺はそれ以上は何も言えない。


「期限は切られていましたか?」

「……明朝までに準備しろと……」

「分かりました、だったら明朝までに何とかします」

「おい!」

「何かあった時の為に備えてください、なるべく信頼のおける人達だけ集めておいてください。きっとそのうち何かは起こる」

「一体君に何ができる!」

「できるできないじゃないんです、やるんです!」


 それは祖父からの教え。今は何かをしなければいけない時だ。俺にできる事はまだあるはずだ、だったら俺は自分のできる事をやるだけだ。

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