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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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最後の審判④

「お前は自分が何をしているのか分かっているのか! これは重大な犯罪で、お前は極刑を免れない。私はお前の父として、せめて引導は私が渡すと決めてここへ来た」

「へぇ、そうなんだ。それでさっき母さんもあそこに現れたって訳か」

「ユリウス、お前グノーに何を!」

「別に何もしてませんよ、しょせん母さんもか弱いオメガで、圧倒的なアルファの力には敵わなかった、それだけの事だ」

「その力は他人をむやみに屈服させることに使ってはいけないと、私はお前に教えてきたはずです」

「使える力を使わずに遠回りしていたら、この世界はいつまでも変わりはしない」


 私達の数は少ない、けれど私達はこの世界の誰よりも強い。


「私達はこの世界を変えてみせる。それは父さんも望んできた事で、私達は間違った事など何もしてやしない。国という枠組みが邪魔なのですよ、こんな腐った王族の私利私欲で動く組織などもうこの世界には不必要なのです」

「だからと言って、これは正当なやり方ではありません!」

「父さんの言う正当なやり方って何? 世界の構造は弱者と強者で成っている、弱者はいつまでも弱者のまま日の当たる場所に出る事も出来ない、そんな世界の何が正しいのか、私にはまったく理解できない!」

「そこまでだ、ユリウス。お前の言っている事は正しい、だがそれに関係のない人間を巻き込む事は間違っている。お前は自分を正しいと思うのなら、まずは俺を倒していけ」


 前に出てきたのはファルスの国王ブラックだ。手には剣を携えてにやりとこちらに流し目をくれるのだが、そこに「あんたの相手はユリウスじゃなく、この俺だ!」と、割って入ったのはスランの長、アギトだった。


「お前、アギトか!?」

「あぁ、ようやく会えたなブラック。俺はずっとこの日を待ちわびていたんだ、お前をこの手で殺す日を指折り数えて待っていた」


 アギトの瞳は仄暗い、それは復讐者の瞳だ。アギトはブラックを王族の人間の誰よりも憎んでいた、アギトの歓喜の心が伝わってくるようだ。

 いつの間にか、私達の周りを取り囲む人間の数が増えている。


「兄貴……何をとち狂ったのかは知らないが、俺達はあんたの行動に迷惑してるんだ」


 セイの前には彼の弟達が相対し、兄に容赦のない攻撃をぶつける。セイはちっと舌打ちを打ちながらも弟達と対峙するのは彼の中では想定済みだったのだろう、何の躊躇いも見せずに弟達に反撃を繰り返している。

 数で勝つ事は出来ないと最初から分かっていた、だから私はここにいる。

 私が手を振上げると曇天から俄かに雨が降り出した。それは割れたステンドグラスの間から降り注ぎ辺りを濡らしていく。この数か月で私はこの力を完全に自分の物として扱う事を覚えた、辺りには一面雨水が広がっていくが私達がその雨に触れる事はない。


「くっ、なんだこれは……」

「全員これで終わりです」


 雷鳴が近付いてくる、そしてその次の瞬間ピンポイントで雷はステンドグラスを弾き飛ばし、教会内部に落雷した。

 眩しいほどの光、ステンドグラスはその光を反射してとても美しく光輝いた。

 雨の中に立ち尽くしていた者達は全員地に伏せて倒れ込んでいた。それは目の前の父もブラック国王も、セイの兄弟も皆等しく神の鉄槌を食らったのだ。


「化け物だ!」


 誰かの叫び声と共に我先にと逃げ出す者達。けれど扉は開かない。その扉はこちらから押し開けて開くタイプの扉だが、扉の反対側から圧力をかければ開く事はない。大気を操る私にはそんな事も造作ないのだが、そんな事も分らない者達は逃げ惑う。


「逃げる事は叶いません、あなた方は全員ここで死ぬのですから」

「そんな事、誰がさせるか!」


 目の前に飛び出してきたのは黒髪の少女。


「おや? お前は女として生きる事に決めたのですか?」


 ドレスの裾をたなびかせ、ツキノが目の前で剣を構える、そしてその傍らにはカイトがそんなツキノを守ろうとでもするように2人仲良く私の前に現れた。大人しくしていれば苦しむ事もなくあの世へ送ってやったものを……


「男とか女とか、アルファだとかオメガだとか、そんなもん一々うるせぇんだよ! 俺は俺で他の誰でもない。俺はツキノだ、どんな枠にも括られない俺はただ一人の俺という存在だ、それを他人にとやかく言われる筋合いはねぇんだよっ! 王族なんて括りも同じだ、俺はそんな括りで殺されるなんて御免だね、それになぁ、だったらお前の身体に流れるその血はなんだ! お前こそがメリア王国の正当な王家の血を引く人間なんじゃねぇかっ!!」


 私の中に流れる血、確かにそれは母から受け継ぎ私の中に脈々と流れている。


「おい、ユリウス! 今の話は本当か!?」


 ツキノの言葉に反応したアギトが濡れた床をずかずかと踏みしめこちらへとやって来る。

 おかしいな? この人には言ってあったと思うのだが? あぁ、そう言えばそんな話をしようとした時、セイに止められたのだったか……


「王家の血が流れていたとしても、私は王家とは無関係です。今までもそうでしたし、これからもずっと」

「だったら、俺だってお前と同じだ、俺は王家とは無関係で生きてきた。これからも王家の人間として生きる気はない。これは命乞いなんかじゃねぇぞ、あんたの頭の中は矛盾だらけなんだよ、それに気付かず力だけを振りかざす、あんたはただの我儘な子供なんだよっ!」

「知ったような事を……」

「お前は大事な者を守る為に世界を変えると言っていたが、だったら今、俺の腹にも新しい命が宿っている、俺にはこいつを守る使命があるんだよ、お前にこいつを殺させてたまるか!」


 ゆるりとツキノが自身の腹を撫でた。ツキノの腹に子供? オメガのカイトにではなくアルファのツキノに? それでさっきからカイトはツキノを守るようにツキノの前に出ようとしているのか? オメガがアルファの嫁を守る、か……それはひどく滑稽だ。


「何を笑う!」

「支配すべきオメガに支配されるアルファがあまりにも滑稽で」

「ユリウス兄さんはそんな事を言うような人間じゃない、女性だろうとオメガだろうとあなたは今まで蔑むことなく対等に扱ってくれた! 今のあなたはまるであなたの言う差別主義者そのものだ、あなたのしようとしている事はこの世界の変革なんかじゃない、ただ自分の望むように弱者と強者を入れ替えようとしているだけだ!」

「本当に、お前たちはやかましい……昔から寄ると触ると喧嘩ばかりしているくせに、いつの間にかいつも仲直り、そして何故仲良く私の邪魔をするのか」


 幼い頃からそうだった。いたずら坊主のツキノとカイト、私はいつでも喧嘩の仲裁役、そしてこちらがやきもきしているのを知ってか知らずかいつの間にか仲直りしては私に2人がかりでちょっかいをかけてくる。私はそんな2人が……


「兄さんが妻子の為に僕達を殺すと言うのなら、僕はツキノと子供の為にそれを阻止するし、意地でも家族で生き延びてやる!」

「果たしてお前にそんな力があるのでしょうかね? 言っては何ですがあなたは私達身内の中では誰よりも弱い。ツキノに守られている事に気付きもせずに図に乗るんじゃない、このオメガ風情が!」

「兄さんが居なくなってからの一年半、僕が何の成長もしていないと思うのなら、それは兄さんの思い上がりだよ」


 あぁ、なんと煩わしい。ああ言えばこう言う、口の回るカイトには私は口で勝てた試しがない。ぎらりと2人を睨みつけた所で、その背後に見覚えのある赤色が映った。母さん、いや違う、アレは……


「生きて……いたのか」


 目の前に飛び出してきた赤い髪。それは亡くしたと思っていたノエルの赤髪だ。胸に湧き上がる安堵の感情と、それを煩わしく邪魔だと思う感情が同時に湧いてくる。


「意外としぶとくて、ごめんね」


 皮肉を込めて放たれたであろう彼の言葉になんと返していいか分からず「いや」と一言呟いて彼を凝視した。


「ねぇ、もう止めよう。ツキノの言う通りだろ? あなたの意見は何処までも矛盾だらけだ、俺達はきっとどこかで何かを履き違えてしまっているだけなんだ。だからさ、もっとちゃんと話し合いを……」

「ユリウス! そいつの言葉に耳を傾けるな!!」


 まるで叱るように飛んできたセイの声がノエルの声に重なった。それと同時にノエルへと飛んだセイの飛び道具である短刀を私はとっさに払い落した。


「な、ユリウス!」

「一度ならず二度までも、何故あなたは彼を攻撃するのですか……」


 胸の内にどろりとした感情が沸き起こる。我が子であり番相手でもある赤子に相まみえることで凪いでいたはずの、正しく言えば封じ込める事ができていたはずの怒りの感情が脳を埋め尽くす。


「そんなの、そいつが敵だからに決まっているだろう!」


 ああ、確かにそうだ。確かに彼は敵として私達の前に立っている。けれど、今彼と対峙しているのは私であってお前ではない。まるで私から彼を横取りするかのように手を出してくるセイを私は許せない。


「確かにあなたの言う通りです、彼は敵、ですが私の獲物です、手を出さないで」


 凄むように言った私の言葉にセイは一瞬言葉を詰まらせたのだが、すぐに開き直ったように「そいつは俺の敵でもあり、獲物でもある」とそう返して寄こした。


「是が非でも私から獲物を奪うと?」

「お前にそいつは殺せない、俺がやる! お前は俺の言う事だけ聞いていればいいんだ!」


 確かにこれまでセイの言う通りにしていれば私は何も考えなくて良かった。激しい頭痛と倦怠感に苛まれ続けている私にとってそれはとても頼もしく頼れる存在であったセイだが、今回ばかりは譲れない。



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