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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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最後の審判①

「なあカイト、どうしても俺がこのドレス着なきゃダメか?」


 目の前で不貞腐れるツキノは眼前に吊るされたドレスを見やって何度目かの抵抗を試みてくる。けれど僕はそんなツキノに満面の笑みで「うん、ダメ」と返事を返した。


「だってもう式に間に合わないんだよ。このドレスなら丈を詰めればいけるんだ。僕だってこれ着たかったけど、ツキノに譲るんだから諦めて」

「それにしたって、なんでドレス……他にも何かこう、やりようはあっただろう?」

「ツキノにはこれ似合うと思うよ、悔しいけどたぶん僕より全然似合うよ! だから、ね」


 ううう……と恨めし気にこちらを見やるツキノ、だけどそんな可愛い顔しても無駄だから、だってツキノの望むような男性物の衣装はベルトでお腹を締め付けるばかりで、お腹の子に良くないからね。

 僕たちが今いるのはランティス城の一室、言ってしまえば衣裳部屋みたいな所。僕はツキノの背を押してドレスへの着替えを促す。だってさっきからお針子さんがサイズの調整のためにスタンバって待ってるんだよ。それにもう本当に時間がないんだ。

 成長期の僕たちの体形は刻一刻と変化していく、だから大事な式典に合わせた衣装合わせには余念がないのだけれど、少し前に発覚したツキノの妊娠に僕達は大いに慌てた。

 まぁ、やっている事をやっている身としては、いずれという思いはあったけれど、まさかのこのタイミング。関係各所にはずいぶん呆れ、叱られもしたけど仕方ないよね、子供は授かりものだしお腹の子供に罪はない。

 それにこんなタイミングというのならば、ここランティス王家のマリオ王子も数か月前に珠のような子供を産んだばかりだ。

 マリオ王子とファルスの後継であるジャン王子はまだ正式な婚姻手続きを踏んでいない上に前国王陛下の喪もあけていない事からこの妊娠出産に関してはあまり公にはされていない。けれど間もなく行われる式典を経て正式な婚姻を結んだ暁には大々的に世間に公表される事になるんじゃないかな。

 で、僕達も出席を余儀なくされているその式典って何か? って話なんだけど、それはもちろん結婚式、しかも僕の両親の結婚式だ。

 もう二度とランティスの地は踏まないと豪語していた僕の母さんは襲撃事件の報を聞いてすぐにメルクードに飛んできた。勿論僕を心配してというのもあったのだろうけど、それよりもエリオット王子……いや、今となってはエリオット新国王陛下の事が心配で心配で仕方がなかったのだと思う。

 それは目を覚ますまでの間ずっと僕の父親の傍らで看病し続ける母さんを見ていれば一目瞭然で分かってしまった。母さん、口では何を言ったところで、やっぱり父さんの事好きなんだね。

 意識不明だった父さんが生死の淵から生還したのは事件から三か月程が経った頃だった。その頃にはメルクードもだいぶ落ち着いて、叔父のアジェさん、それとその弟のマリオ王子、そしてその結婚相手のファルスの王子様ジャン王子やランティス王国の重鎮達の間で今後のランティスの方針はあらかた決まってしまっていた。

 目を覚ました父さんはそりゃもう憮然とした表情をしていたけれど、ランティスの現状、今後の指針などなどの説明を受けて、それを渋々すべて受け入れた。

 渋々って所が本当にこの人だなって思うけど、それでも反論せずに受け入れたのは進歩じゃないかな? ちゃんと他人の話に耳を傾けられるようになったのは偉いと思うよ。

 そんでもって今度の結婚式ね、世間一般には新しい国王陛下とメリアの姫、レイシア姫との結婚式だと思われているんだけど、実はこれ違うんだよね。

 新国王陛下の婚礼を発表する時そこは敢えてぼかしたまま結婚する旨だけ発表したら、みんな相手は婚約者だと言われていたレイシア姫だと勝手に思い込んでしまっただけで、実は花嫁の名は公表されていないのだ。

 今回の一連の出来事で父さんとの結婚に腹を括った母さんだったけど、そこはもうね、母さんが頑なに拒んだからね。

 本当は派手な婚礼の儀式もやりたくはないのだろうけれど、そこはそれ色々な事情が許さなくて、僕の両親の婚礼準備は現在着々と進んでいっているってわけ。

 僕はこの一年でまた身長が何センチか伸びた、何となく分かっていた事だけど、僕は完全に母親似で、オメガのくせに女性らしいところはまるでなくなってきている。だからきっともうこの先可愛くて綺麗なドレスを着られる機会はないのだろうなと思い、今回の結婚式は最後のチャンスとドレスでの参加を決めていた。

 とは言ってもそのドレスはとてもユニセックスなドレスで、後ろから見るとドレスなんだけど前から見たらパンツスタイルに見えるちょっと変わった物だった。

 僕はそれを着る事をとても楽しみにしていたんだよ、だけどここにきてのツキノの妊娠、急遽僕たちの衣装は交換されて、ツキノはそれに不満たらたらなんだよね。


「今回のこの結婚式、確実にあいつ等が襲って来るってお前だって分かってんだろ? なのにこんなドレスじゃ動くに動けやしない……」


 声をかけられ振り返ると、そこには僕の着るはずだったドレスを身に纏ったツキノがドレスの裾を持ち上げてこちらを見ていた。ってか、可愛い! いや、格好いい? その淡い桜色のドレスは誂えたようにツキノに似合っていて目を見張った。可愛いは僕の専売特許だったはずなのに、もう何なのこれ!? 今すぐ抱きしめたいんだけど、いいかな!?


「このドレスの裾さ、もう少し短くしても良くね? こんなんじゃろくすっぽ戦えねぇ」


 僕でも少し引きずるくらいの長さのドレス丈、元々僕の寸法だし、しかもヒールを履く予定だったからツキノには更に長くて、後ろ裾を引いて歩く姿はまるでウェディングドレスのようだ。


「嘘だろ、ツキノ、まさかのその身体で最前線に出て戦うとか考えてないよね? ツキノは最低限、自分の身の安全とお腹の赤ちゃんの事だけ考えてればいいんだからね! 二人のことは僕が護るし! ってか、ホントはツキノの参加は見送ったって良かったんだ。僕はなんかもう出ざるを得ない状況だけど、ツキノは別に……」

「そんな事、できる訳がないだろう!」


 僕の言った言葉に裾をがっしりと掴み上げたツキノがじっとりとした視線を投げて寄越す。


「なんで俺がお前に護られなきゃなんねぇんだよ。自分の身くらい自分で護る、むしろお前が俺に護られとけよ。お前の方が弱いんだから!」

「何言ってんの! 僕はそのお腹の子の父親なんだよ! 妻子を護るのは夫の務めだよ!」


 そう、僕は父親! 父親なんだよ! オメガである僕は母親にはなれても父親になれるとは思っていなかったし考えてもいなかった。

 ツキノが僕の番相手だと分かった時点で、僕の選択肢の中には父親になる選択肢なんて完全になくなっていたはずなのに、ツキノが僕の子供を孕み産んでくれるとそう言うのだ。こんな機会を与えられるなんて思っていなかった僕はもうそれが嬉しくて仕方がないんだ、だから僕は全力で二人を護ると心に誓った。


「…………ったくおっかしいよなぁ、本当は俺がお前を嫁にもらうはずだったのに……」

「あ、僕はそれはそれで嬉しいよ! 正式に僕達が式を挙げる時にはいっそ、もう一着仕立ててもらってお揃いで着るのもいいかもね」

「…………はぁ」


 ツキノに何故か大きく溜息を吐かれた。

 本当は僕たちはこんなに浮かれている場合ではないのだ、けれどこうでもしていなければ沈んだ心は戻らない。

 指名手配されている人間の中には僕たちの大事なユリウス兄さんが入っている。兄さんも奴らと共にこの式典に現れるだろうか? 考えたくはない、けれどあの一年前の事件を思い出せば、それは恐らくどうしようもない事なのだと思うのだ。

 兄さんに斬りつけられた背中の傷が疼く。あの時の兄さんは本当に躊躇がなかった。本当の兄弟のように接してくれていた『兄』の姿はそこにはなかった。

 まさかこんな事になるとは誰も想像もしていなかったと思う。僕だっていまだに信じられない。だけど僕たちの優しい兄『ユリウス』は死んだのだ。


「なぁカイト、もしまたユリがお前を襲ってきたら、お前はどうする?」


 上目遣いに問われた言葉に、僕は微かに瞳を伏せた。


「どうするだろうね……それは僕にも分からないよ。だけど僕はこんな所で死ぬ訳にはいかないからね。僕にはツキノとこのお腹の中の子供を守るっていう使命がある。だから僕はそれを脅かす人間は誰であっても許さない」

「それは例え相手がユリでも討伐する事を躊躇わないって事?」


 僕は腕の中にツキノを抱き込み「殺さなければ殺されるのなら、僕は僕の一番大事な人を選ぶよ」と、その華奢な身体を抱き締めた。そしてそんな僕を抱きしめ返して「そうだな」とツキノも返事を返して寄こした。



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