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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達

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事件の闇はより深く①

「なんだかやけに大きな子だな? 本当にこの子でいいの?」


 ユリウスに声をかけてきた騎士団員の人はそう言って俺を見やった。


「今回のターゲット『子供』じゃなかった? 鈴付いてるからって誰でもいい訳じゃないんじゃないのか?」

「ノエル君はまだ12歳ですよ、その辺はぬかりないです」


 そう言って、ようやくユリウスさんは俺をおろしてくれた。


「12歳?! 全然見えないんだけど! 同い年くらいかと思った!」

「私も最初はそう思いましたよ。彼も私と同じで歳相応に見えないタイプです。けれど、これで少し有利になりましたね、彼なら普通に私達に混じっていても違和感がない、狙われる確立がぐんと減ります」

「あぁ、確かに。その鈴さえ隠しておけばバレない可能性は高いな。制服、羽織物だけでも着せとくか?」

「それはいいかもしれませんね」


 いつの間にか周りをたくさんの人に囲まれていて、ちょっと怖い。


「あの……俺、この試合がどういう物か全然分かってないんですけど……」

「あはは、心配しなくていいよ。ノエル君は守られていてくれさえすればそれでいい、攫われないように守られながら王様の所まで行くだけの簡単なお仕事だよ」


 笑顔でユリウスはそう言うのだが、傍らに居て彼に声をかけてきたその男の人は「そんな説明で大丈夫なのか?」と呆れたような表情を見せた。


「要人警護で警護する人間を怖がらせるのなんて論外ですよ。いいんです、ノエル君は私達に守られていればそれでいいのですよ」


 なんか、それって何かあるって言ってるようなもんじゃん! 何かあるなら説明してよ!


「今回の第2試合は減点加点方式です、スピードを競うだけの物ではないのでいいのですが、そろそろ行かないと出遅れますね」


 ユリウスさんはそんな事を言って、俺に誰かの制服を着せ掛けた。さすがに少し大きいな。縦はぴったりでも騎士団員の男達は筋肉質で横幅がある、まだひょろりとした体型の自分にはその上着は少しぶかぶかしていた。


「この後の行動は予定通り、さぁ行きましょう」


 彼はぽんと俺の背を叩く。大通りから真っ直ぐ進めば城がある、そのまま真っ直ぐ進むのかと思いきや、彼等は脇道に逸れて行った。


「なんで真っ直ぐ行かないんです? その方が近くないですか?」

「こっから先は王子様を取り返そうとする悪人が出てくるからねぇ……」

「悪人って、向こうは向こうでそれが割り振られた任務だろ」

「そう思ってやった方が守りがいがあるじゃないですか」


 よく分からないが、ここから城へ向かう間にどうやら俺を攫おうとする(もしくは取り返そうとする?)人達が出てくるらしい。

 全員が全員同じ内容の試合な訳ではなく、その割り振られた役割に応じた状況での対応で加点減点されるという事なのだろう。なんだか面白い試合だな。


「おおぃ、こっちに赤い人いるよぉ!」


 脇道を逸れて民家の間を進む道すがら、民家のどこからかそんな声がした。


「げっ、密告された……」

「あはは、困ったものですねぇ」


 家の中から見守る住人達も楽しそうにこちらを見ていて、どうやら祭りは祭りらしく住人も口出しOKらしい。

 そうこうしている内に現われたのはユリウスと同じ真紅のマントを翻した男が率いるご一行様、数は20人くらいかな。こちらも同数程度なのでいい勝負かも? っていうか戦うの? こんな街中で? そういえば向こうが勝ったら、俺あっちに行かなきゃなのかな? それはちょっと嫌だなぁ……


「ん? 子供がいないじゃないか、なんだ、鈴が付いただけの適当なのを連れてきたのか?」


 相手はぐるりとこちらを見渡してそんな事を言う。


「加点が無いなら用はない、さっさと行け」

「いいんですか?」

「まだ他にも子供を連れた赤はいるだろうからな。わざわざ、減点対象は選ばんよ、行った行った」


 あっさり俺達は通されて拍子抜けだ。彼等の脇を通り抜けて、俺はこそりとユリウスに「減点加点って、どういう基準なんです?」と問いかけた。


「今回の試合は『子供』だね。気付いたかもしれないけど、マントの色とお揃いのリボンの色の子供を連れて行くのが今回は一番加点されるよ。別に色が違っても、子供じゃなくても鈴が付いていればいいんだけど加点要素にはならない。その場合はスピードで加点を狙ってるって判断されるから、こんな事もあるんだろうね。もう時間的にスピード加点は狙えない頃合いだろうし、あの人の判断は賢明かも。ただ、ちゃんと君の鈴の色と年齢を確認しない辺りは少し抜けてるけどね」

「今のは運が良かっただけだ、ユリウス、次が来るぞ」

「了解、イグサル。ノエル君は私から離れないように」


 先程からユリウスさんの右腕のように動いている男性はイグサルという名前らしい。たぶん年齢は歳相応、ユリウスさんと同い年くらいかな。

 前方から現われたのはやはり赤いマントを翻した男性が率いる男達。さっきより人数多いかも。


「ん……お前達要人は?」

「先程別のグループに奪われまして、取り戻しに行く所ですよ」

「ふむ、そうか……」


 あ……そういうのも有りなんだ。戦うだけじゃなくてこういう駆け引きもあるんだね。

 前方から来た男達はやはり俺達を眺め回す。ここでも戦わずにスルーできれば楽だもんな、ユリウスが狙われる確立が下がると言っていた理由はこういう事なんだね。

 今度も男達は道を譲ってくれたので、その脇を抜けようとした時慌てて俺がユリウスの袖を掴むと鈴の音がリンと響いた。


「む……」


 男達がこちらを見やり「お前達……」と、じりっとこちらへ寄ってきた。


「逃げろ、ユリウス!」

「任せた、イグサル」


 ユリウスが俺の腕を掴んで駆け出すと同時に傍らにいたイグサルさんはそのマントの人に飛び掛り、押し倒した。

 周りにいた男達は動揺を見せ、動けない。


「馬鹿、あの中のどれかが要人だ! 追いかけろ!」

「え……あ、はい!」


 慌てたように追いかけてくる男達、ユリウスも仲間の何人かに指示を与えて駆けて行く、仲間が1人2人と減っていくのだが、しばらくすると追っ手を巻いたのかユリウスは息を吐いて足を止めた。


「はぁ……やっぱり簡単にはいかないなぁ……」

「ごめんなさい、鈴鳴っちゃったから……もっと気を付けますね」

「大丈夫、大丈夫、気にしなくていいよ」

「でもどうするユリウス、イグサル離脱はこの先痛いぞ」

「ですよねぇ、ミヅキどう思う?」


 今度はミヅキさんという人にユリウスさんは声をかけ、俺もその人の方を見やる。その人は男性のような短髪なのだがずいぶん小柄な女性だった。彼女は少し考え込むように小首を傾げる。

 ウィルのお母さんも騎士団員だし女の人がいても不思議ではないけれど、厳つい男達に囲まれて平然と同じように行動できるのはちょっとすごいと思う。


「こっちは二重に加点要素がある、少しくらい時間がかかってもいいと思うなら事前の話し合いで決めておいた合流地点でイグサルを待つのも手だと思うよ。城門前はやっぱり激戦だろうからイグサル無しじゃ少しキツイ」

「やはりそうですよねぇ……分かりました。一度合流地点に向かいましょう」

「決めるのは私じゃなくてお前だぞ?」

「参謀の言う事は聞くに限ります。私、自分があまり賢くない事は自覚してますから」


 ミヅキさんの言葉に呑気に返したユリウスさんはへらっと笑う。

 なんかこうやって見てるとユリウスさんは少し頼りなく見えるなぁ……周りの人達も呆れたような顔をしてるけど、大丈夫?

 俺達は大通りを離れ、更に道を脇へと入っていった。どんどんお城が遠くなってるけど、本当に大丈夫なのかな……

 しばらく進んでちょっとした空き地に出た。そこで皆思い思いに休憩を始めたので、ここが言っていた合流地点なのだろう。


「ユリウスさん、時間大丈夫なんですか?」

「そうだねぇ、15分くらい待って来なかったら行かなきゃかなぁ。それだけ休めば皆の疲れも緊張も取れるだろうしね」


 ユリウスはやはりにこにこと仲間の人達を見回している。

 あれ? もしかしてこれって、あのイグサルって人を待ってるって理由だけじゃなかったんだ?

 しばらくすると、途中で敵と戦いながら離れて行った人達もばらばらと戻って来て、その人数を数えながら、やはりユリウスは楽しげな笑みを浮かべていた。

 知っている人がユリウスさんしかいない状況で俺も手持ち無沙汰に周りを見回す。

 そこは民家のど真ん中で「あの人達何やってるの?」という街の人の視線もささって、どうにも居心地が悪い。

 空き地の隅っこの方で、その様子を見ていたらふと視界の端に嫌な物を捉えた。


「あの人……」


 小汚い格好の浮浪者だ、今朝もそんな人に遭遇しているし、ここでは珍しくもないのかもしれないけれど、昨日の事が頭を掠める。

 赤髪だからと髪を掴まれ理不尽に暴力を奮われた。俺は少しだけ怖くなってユリウスさんへと寄って行く。


「……ん? どうかしましたか?」

「あの人、昨日第五騎士団の詰所で暴れてた人に少し似てて……」

「昨日君を襲ったっていう……?」


 俺が無言で頷くと、ユリウスもそちらを見やって、少しだけ眉間に皺を寄せた。


「でも、その人捕まったんですよね?」

「今朝、じいちゃんがその人と話したいって詰所に行ったら、その人いなかったんです。第一騎士団の人が連れて行ったって言うからそっちにも行ったんですけど、そっちにもいなくて……」

「所在が分からなくなっているんですか?」

「じいちゃんが話してる最中に俺こっちに来ちゃったから、よく分からないですけど、ちょっと似てるから……」


 小汚い格好をしている人達は皆似たり寄ったりでよく分からない、けれど体格的にはよく似ていて、気のせいだと思ってもやはり少しだけ怖かった。

 ユリウスさんは少し考え込んで「ちょっとお話聞いてきます」とその人物の方へ歩き出す。


「え……止めましょうよ、もし本当にあの人だったら危ないです」


 俺が慌てて彼の服を引っ張ると「そんな人を野放しにしてる方がずっと危ないよ?」とやはり笑みを浮かべてユリウスさんは返してくる。

 俺とユリウスさんがそんなやり取りを繰り返している間もその浮浪者風の男はじっとこちらを無表情に見ていた。その辺の近所の人達もこちらを見物よろしく見ているので、見られていること自体は不思議ではないけれど、なんだか嫌な予感がする。


「すみません、ご近所の方ですか?」


 ユリウスが何の警戒もなしに男に声をかけると男は睨むようにユリウスを見上げた。

 怖い、それに、やっぱり似てる。


「何の用だ?」

「うちの王子が少し疲れてしまったようで、水を一杯いただけたらと……」

「は! 王子? 王子が聞いて呆れる、そんな赤髪の……」

「お祭りに参加してくれている子ですよ? お祭りに髪の色は関係ありません」


 男は更に表情を険しくしてユリウスを見上げる。けれど、そんな事には気付かぬ風にユリウスは悪びれもせずにこりと笑った。


「クソ忌々しいその顔、その髪、お前もしかしてデルクマンの……」

「父をご存知ですか?」

「息子か、通りで……しかも連れているのはやはり赤毛か、親子揃って忌々しい」

「ユリウスさん、もういいです。行きましょう」


 俺はユリウスの後ろからはらはらと事の次第を見守りつつ、彼を促すのだが彼はやはりこちらをちらりと見て「大丈夫」と言わんばかりに微笑んだ。


「その顔、本当に腹の立つ! 人の良さそうな面で周りを欺く悪人共が、その笑みでどれだけこの国をおとしめているかっ」

「貶める……? 父も私もそんな事はしていません」

「お前達はこの国をメリアに売り渡そうとしている売国奴だ! あいつが現われてからこの国は変わっちまった、お前の親父がそう変えた!」

「それは言いがかりです! 父は何も……」

「元々ファルスの人間ですらない男がのうのうと騎士団長を名乗り、メリアの人間を引き入れる、それのどこが言いがかりだ?! あいつはこの国を滅ぼし、乗っ取ろうとしている、あいつの妻と共にな……」


 何故そこでユリウスさんのお母さんまで出てくるのだろう? 確かに元メリア人だと聞いてはいるが、行き場の無い子供達の母親まで務め上げるできた人じゃないか。

 少し口が悪いのと男の人だったのには驚いたけど、なんでそんな穿った見方ができるのかが分からない。


「うちの両親はそんな事、考えてはいない!」

「知らないだけだ、いずれ全てが明るみに出る」

「そんな事実、ありはしない!」


 2人の空気は一瞬即発、さすがにユリウスの顔からも笑顔が消え険しい表情に変わる。


「俺は知っている……お前の母親がメリア王家の人間だって事をな」


 メリア王家……? メリアの王族……?

 ユリウスが些か驚いたような表情を見せた。


「なんで……」

「メリア王家はこの国を乗っ取ろうとしている、そういう事だ」

「違う!」

「違わない、事実お前の両親はこの国にメリア人を何人も引き入れている」

「事実無根です! そんな事はしていない!」

「ふん、口でだけならどうとでも言える、その柔和な笑みで人を誑かし、お前の親父はこの国を混乱の渦に落とそうとしているのだ」

「違う! 父はそんな事はしていない!!」

「ユリウスさん……」


 ユリウスの混乱が手に取るように分かってしまう。父親への他人からの評価に迷っていたユリウス、親を信じたいという思いと、言われている事実に混乱しているのだろう。


「その内にすべて分かる、お前も覚悟をしておく事だ。裏切りの代償は大きい」

「一体私達が誰を裏切ったというのですか!」

「この国を、だよ」


 男はにいっと口角を上げて笑みを見せるのだが、瞳はぎらぎらしていてとても恐ろしい。


「この国は滅びる、その時に自分のしてきた事を悔いて、死ね」

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