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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達

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明かされる真相③

 やられた分だけやり返せと言われたが、じいちゃんは一体何をする気なのだろう?


「じいちゃん、うちとロイヤー家って一体どういう関係なの? なんか、うちの本家だとか何とか言われたけど、うちって貴族だったの?」

「名ばかりの貴族なら名乗るだけ無駄ですからね。我が家はもう一般庶民と変わらない。それでいいのです、名前にしがみつく事ほど愚かしい事などありはしない」


 じいちゃんはさっぱりしたものだが、本当に貴族だったんだ、びっくりだよ。


「じいちゃん、場所分かってるの?」

「私が一体何年このイリヤに暮らしてきたと思っているのです? それにあのロイヤーの小童共がアジトにしているのは私の育った家ですよ、全く腹立たしい」


 あの屋敷、じいちゃんの家だったんだ……結構大きかったけど、本当に金持ちだったんだな。


「対応にあたっているのは第3と第5騎士団と言っていましたか? でも、なんで第3と第5が共同で事にあたっているのか……」

「なんか元々第5騎士団が警備してたんだけど、第3騎士団の騎士団長の身内が攫われたからって……そういえば、攫われたのローズさんだよ。あのマイラーさん家のローズさん」

「ローズさん、それはまた……無事だといいのですが、どちらにしてもこれでロイヤーは完全に終わりましたね」

「え? なんで?」

「敵に回した相手が悪すぎる、マイラー家を敵に回すとは恐れ知らずにも程がある。私が奴らを潰さなくても、これはもう完全に完膚なきまでに綺麗さっぱり奴らを葬り去ってくれるでしょうね。これはいい、手間がはぶけた」


 じいちゃんが清々しい顔をしていて、なんだか怖いよ?


「じいちゃんって本当にそのロイヤーって家の人達嫌いなんだね」

「それはもう、大嫌いですよ。私の両親は奴らに殺されたようなものですから。ですが、そんな憎しみも後世に残していく物ではない、私の代で断ち切る事ができればと思っていたのですが、どうやら望み通りに事は進みそうで安心しました」


 じいちゃんは真っ直ぐ前を向いて進んでいく。


「ノエル、何か困難が立ち塞がっても立ち止まってはいけません。何事も前を向いて進んでいけば未来は必ず開かれる。望みはいずれ必ず叶う、それを肝に銘じて進んでいけば間違いない」

「何を突然……」

「これは教訓です。すべてを諦め意固地になっていた間、物事は何も動かなかった。けれど前を向けば世界は開けた。私は頑固でそれに気付くのも遅かった、だがお前にはまだ未来がある、だからその言葉をお前に贈ろう。お前は常に前を向いて生きるんだ」

「じいちゃん、それ遺言みたいに聞こえるから止めて」


 祖父は「ふふ」と珍しく笑みを零す。


「私ももう歳を取った。いつ逝っても不思議ではない。だから大事な事は忘れない内に伝えるに限る」

「いつもそんなに饒舌に喋ったりしないくせに、なんなのさ」

「少し興奮しているのかもしれないな、孫と共にロイヤーを討てると思うとワクワクする」


 なんだか少年のような瞳で語る祖父が不思議で仕方がない。何がそんなに楽しいのかも分からない。


「さぁ、見えてきましたよ。あぁ、なんだ、もう突撃の準備は整っているようだ」


 祖父の目指す先には幾人かの騎士団員がいる、けれどその中に一人だけまったく騎士団とは関係なさそうな麗人が彼等に食って掛かっているのが見えた。


「だ~か~ら! そういう事は突撃してから考えればいいだろう! 中にはうちの娘がいるんだ! 俺は回りくどいのは嫌いなんだよ! なんなら俺が先陣きるから付いて来い!」

「待ってください、まだ敵が中にどれだけいるかも分からないのに無闇に飛び込むのは危険です」

「そうだよ、母さんここは穏便に……」


 近付くとそこにはユリウスの姿も見えて、必死にその麗人を止めている。

 っていうか、あの人騎士団長の奥さんじゃん。美人なクセに素だと言葉遣い悪いんだな。


「奥さん、これはまたお久しぶりですね」

「コリー副団長!? え? なんでここに?」

「ロイヤーが悪さをしていると聞きつけてやって参りましたよ。あなたは相変わらず無鉄砲ですねぇ」


 どうやら祖父は騎士団長の奥さんとも顔見知りのようで、そんな風に飄々と彼等に寄っていく。


「別に無鉄砲って程でもないだろう? この程度の屋敷に一体どれほどの人数がいるって言うんだ。100も200もいるわけじゃあるまいし、こんな事件俺一人でもどうにかなる」

「そういう所が無鉄砲だと言うのですよ。雑魚が束でかかってもあなたに敵わない事は分かっていますが、中にいるのが雑魚だけとは限らないでしょう?」

「何か心当たりでもあるのか?」

「よく考えてください、クレールが牢から出てきているという事は、あのジミー・コーエンも出てきているという事ですよ? 彼はクレールと違って腕は確かです」


 え? あぁ、そうなんだ……確かにあの人凄く強かった、でも……


「その人ならここにはいないよ。第5騎士団の騎士団長が捕まえて牢に放り込んでたから間違いない」

「牢に? 何でまた?」

「俺の赤髪が目障りだって襲われたんだよ、そんで騎士団長が助けてくれた」

「あれ? 少年、さっきの……?」


 騎士団長の奥さんはそこで初めて俺に気が付いたのか首を傾げた。

 俺は「どうも」と小さく頭を下げる。


「なんでコリー副団長といるの? 知り合い?」

「この子はうちの孫ですよ」

「孫? え? メリッサさんの子? え? 俺、知らないんだけど、ちょっと大きくない? ユリと同じくらい? そんな子いなかったよな?」

「体格がいいので年齢は上に見られがちですが、まだ12歳ですよ。あなた方がイリヤに戻ってから生まれた子です」

「えぇ、びっくり。でもなんで赤毛? 旦那は? メリアの人?」


 祖父は「ふむ」と片眉を上げる。


「心当たりはありませんか?」

「ん? 心当たり? 何に?」


 奥さんはきょとんと首を傾げた。


「いえ、まぁ、分かっていましたよ、大体予想は付いています」

「だから何?」

「この子の父親ですよ、心当たりはないんですね?」

「え……ちょっと待って、どういう事?」

「メリッサはこの子の父親の名前を語ろうとしません。ですがこの見事な赤毛ですよ、大体見当は付くというものです……」


 何かに思い当たったのか、奥さんも驚いたように目を見開く。


「え? マジで!? いやいや、そんなまさか……」

「他に誰がいます? あなたに心当たりはないんでしょう? それともあるんですか?」

「その頃、俺の腹の中に子供がいたの、あんただって知ってるだろ!」

「けれど無い話ではない、そうでしょう?」


 2人の間に微妙な空気が流れる。

 なんだろう? 2人の間で会話は成立してるけど、俺にはよく分からない。


「うわぁ、疑われてたんだ? ずっと? 言ってくれたら弁明したのに……」

「はっきりさせるのはそれはそれで角が立ちそうだったのでね、黙っていましたよ」


 角が立つ? それは騎士団長の浮気で奥さんが傷付くとかそういう……?

 そんな事を考えていたら傍でぼそっと「良かった、やっぱり浮気じゃなかったんだ」とユリウスが呟いた。


「ってか、なんだ! お前まで疑ってたのか、ユリ!」

「だって、あの当時ルーンにいた赤毛の人なんて母さんくらいしか知らないし、ノエル君が父親は騎士団員じゃないかって言うから。母さんは騎士団員の人達とよく一緒にいたし、ノエル君のお母さんとも仲が良かっただろ、だからもしかして? って思ったってしょうがないでしょう!」

「馬鹿言うな! 浮気なんかしてた日には、今頃俺なんかあいつに監禁されてるっての! ってか、絶対言うなよ、そんなの聞いただけであいつの機嫌が傾くのなんか目に見えてる!」


 なんかもう全く話しが見えないんだけど、どういう事? 俺の父親で疑われてたの騎士団長じゃなかったの? って言うか、なんでこの人? ユリウスさんの母親だろ? お母さんだろ? 生む方の人だろ?


「絶対俺じゃないから!!」


 えぇえぇぇ?

 奥さんの叫びに疑問符を飛ばしまくって、はたと気が付いた。そういえばカイトの父親も生みの親だった。


「もしかして、奥さんって男の人なの……?」


 周りの視線が俺に集まる、なんでそんな『今更?』みたいな顔すんだよ! 知らないよ! 聞いてないしっ!!


「そういえばお前にはバース性の話しはした事がありませんでしたね」

「あれ? 私、言いませんでした?」


 祖父は「そういえば」という表情をし、ユリウスは「言わなかった?」と首を傾げる。

 聞いてない、聞いてないよっ!


「こんな姿をしていますが、この人これでいて正真正銘男性ですよ。歳を取る毎に性別不詳に拍車がかかって、そういえばもはや気にする人は誰もいませんね」

「うっさいよ、性別不詳って言うな。俺は何にも変わってない!」


 あぁ、そうか、この人も『男性Ω』ってやつなんだ。男なのに生めるんだ……

 ん……? 男だから生ませる事もできるのか? なんか複雑。それにしてもこんな綺麗な顔立ちで男とかちょっと俄かに信じられない。


「あ……でもじゃあ、騎士団長は俺の父親じゃない……?」

「父の不倫の子なら、たぶん私と同じ金髪になると思いますよ」


 そういえばそうじゃん、最初から赤毛は母親似って言ってたじゃん……でもそんなの知らないんだから気付かないよ。

 でも、そうしたら俺の父親探し、またふりだしだ……いや、でもなんかじいちゃんも、奥さんも心当たりが有りそうだったけど……


「ナダールに限って不倫はない」

「え……でもカイトは……」


 そこまで口を滑らせて、しまったと口で手を覆った。カイトはユリウスそっくりの金髪で、騎士団長が金色の髪の持ち主だと言うのなら、そちらの信憑性は一段と増す。


「カイト? あいつ、まだそんな事を言ってるのか? ないない、無いよ」


 奥さんは呆れたように首を振った。なんなんだろう、その自信。カイトは奥さん達家族を傷付けたくないからと黙っているだけなのに。


「違うって何度も言ってるはずなんだけどなぁ。まぁ、別にカイトもうちの子みたいなもんだから、構わないっちゃあ構わないけど、ナダールがまた渋い顔しそうだな」

「なんで、そんなにはっきり断言できるんですか? カイトは父親が誰なのか分からないって言ってましたよ、父親がはっきりしないのなら可能性としては0じゃない」

「ん? まぁ、傍から見たらそう見えるのか? この国では金髪も珍しいしなぁ。でもランティスでは金髪なんて全然珍しくないんだぞ? それにカイトのあの金髪は母親似で、父親は普通に栗毛だった」


 え? あれ……?


「カイトの父親って、ちゃんと分かってるんですか?」

「それはな、俺等も知ってる奴だよ。ただ色んな事情でカイトには言えないだけ、でもいまだに疑ってるとなると、そろそろ本当の事も話さなきゃならん時期かもなぁ」


 溜息を零すように奥さんは言って「面倒くさい」と呟いた。


「そもそもこれはカイル先生の問題で、こっちはなんの関係も無いのに本当面倒くさい。カイトは可愛いけど、あの人だけはなぁ……」


 あぁ、ここでもあの先生はそんな扱いなんだ……

 本当にあの人ってどういう人なんだろう? よく分からないや。


「まぁ、子供の話しはその辺にして、まずは目の前の事件の話をしましょうか?」


 祖父が気を取り直したようにそんな事を言う。

 確かに中にはまだ囚われている人達もいるし、そういえばウィル達も侵入したとか言ってなかったか?


「ユリウスさん、ウィルは?」

「え? あぁ……裏口から乗り込んだ事までは分かってるんだけど、屋敷の中は静かだし、まだ動いてないだけなのか、それとも捕まったのか……だとしたら人質増やしてどうするんだって話でさ、ホントあいつ等は誰に似たんだか……」

「ふむ、裏口ですか、まぁ懸命な判断ですね。屋敷の中は広い、まずは見取り図の準備はないのですか? 私の記憶通りでしたら問題はありませんが……」


 慌てたように騎士団員の一人が「少々お待ちください」と駆けて行く。なんだろう、じいちゃんにそんな権限ないと思うんだけど……

 しばらくすると、駆けて行った騎士団員が誰かを伴って戻ってきた、って言うかあの人知ってる、ウィルのお父さんだ。


「これはコリー指揮参謀、お久しぶりです」


 指揮参謀? 何それ?


「止めてください、私はもう引退した人間ですよ。国王の要請があれば馳せ参じる場合もございますが、基本的には隠居の身、そのように呼ばれるのはどうにも気が引けます」

「何をおっしゃっているのやら、ご活躍は聞いていますよ。今となってはあなたはこの国の国防にはなくてはならない方ではないですか、引退など国王が許しませんよ」


 ウィルの父親、第3騎士団長アイン・シグは笑う。

 ってか、知らない、聞いてない。じいちゃんなんかほとんどルーンから出ることないくせにどういう事だよ?


「まぁ、まずはその話は置いておきましょう。現在この場の指揮は誰が?」

「基本的には私が取っていますが、四方八方からの圧力がキツくて参っていた所ですよ。あなたが来てくれたのなら心強い」

「圧力?」

「人質の中にマイラー家のローズ嬢がいます、マイラー家は完全に頭に血が上った状態で何をやらかすか……そして現在一緒にデルクマン氏のお嬢さんルイ殿も囚われている為、婚約者の王子が……」

「ちょっと待て、ルイはまだ婚約なんかしてないぞ! そもそも本人が嫌がってる」

「うむ、そうなのか? 詳しい話しは知らないが、自称婚約者のジャック王子は自分が助けに行くと言い張って、そっちを止めるのにも手を焼いている所ですよ」

「へぇ、そんな感じなのにウィル達は乗り込んで行ったんだ?」


 俺が何気なく言った一言に瞬間騎士団長が驚いたような表情をこちらへと向けた。

 慌てたようにユリウスに口を塞がれたのだが、言っちゃ駄目だったのか? それなら先に言っておいてくれよ……


「少年、今なんと……?」

「え……いやぁ……」


 どうしていいか分からずにユリウスを見上げると彼は溜息を吐くように息を吐き、第3騎士団長に告げた。


「現在こちらの情報網で屋敷内に子供が3人侵入したと情報が入っています。その内の一人がウィル、残りはツキノとカイトです」


 ユリウスの言葉に騎士団長の表情が険しい物へと変わる。


「なんでそんな事に!」

「それはこっちが聞きたいですよ」

「あなた方の警備はザルですか? 裏口は見張っていない?」

「裏口……? 入り口はすべて監視をしていた、そんなはずは……」

「ふむ、だとしたらあそこですかね……」


 祖父が腕を組んでひとつ頷く傍らで、第3騎士団長は「あれほどここには近付くなと言っておいたのに」と険しい顔を崩さない。


「あなたはこの場所を子供達に教えたのですか?」

「え? 危ない場所には近付かないように警告するのは親の務めでしょう」

「もし自分だったら、言われて素直に引き下がりますか?」

「え?」

「危ないから絶対近寄るなと言われて、自分ならどうしますか? 今はともかく子供の時だったら?」


 少し考え込んだ騎士団長は眉間に皺を寄せ「……見に来るくらいの事はするかもしれませんね」とぼそりと呟いた。

 祖父はその言葉にふぅと息を吐く。


「だったら最初から場所など教えないことです。子供は危険を好みます、何故なら危険を察知する能力が低いですからね。あなたは警告のつもりかもしれませんが、子供にとったら楽しい見世物ですよ。そして時に子供は一人でも無謀な試みをするものです、そこに数が集まれば何をするか予想も付きませんよ」


 ちらりと祖父はこちらを見やる。

 俺、別に無謀な試みなんてしてないし、家出はしたけど危ない事はしてないぞ。


「ですが、今はそんな説教をしている場合ではありません、大至急私の指示する場所に兵を回してください、配備でき次第私とノエルで屋敷へと訪問させていただきます」

「え?」

「何を驚く事がありますか? この家は元々我が家の持ち家ですよ、家主が家を訪れる事に何の疑問があるというのです。指示があるまで各人待機、突入指示は私が出します」


 祖父はそういうと口角を上げて、それは楽しそうににぃっと笑みを零した。


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