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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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纏わりつく不安②

「ねぇ、兄ちゃん、今のどうやってやったの?」


 ウィルが無邪気にロディに纏わり付く。


「どうやってって……何となく、言う事聞いてくださいね? って感じでフェロモンを出すと、あんな感じになるんだけど、やった事ない?」

「ない! そもそもオレ、自分でフェロモン出し入れできない」

「あれ? そんなもんなんだ……?」


 バース性にも様々な人間がいる、それを自然体で受け入れる者もいれば、上手く操る者もいる。ルーンにはバース性の人間があまりいなくて、それが特別な使い方だと彼自身気が付いていなかったのだろう。

 納得がいかないという表情のユリだったのだが、ひとつ溜息を零して地図を見やる。そこまで大きな町ではない、ただ、その宿は乗合馬車の発着場からはとても遠くて、だからこそ俺達のような人間でも受け入れるのかな? と何とはなしにそう思った。


「やっぱり来たか」


 地図の宿へ辿り着くと、先程俺に説教を垂れた黒髪の男、サクヤさんが腕を組んで宿の前に立っていた。


「もしかして、あんた、こうなるの分かってたのか?」

「まぁ、予想はしていた。これもひとつの勉強かと思って放っておいたんだが、やはり宿は取れなかったか」

「これ、俺の……というかこの黒髪のせい?」

「そうだな。その昔、宿に泊めた山の民が仲間を引き入れ強盗を働いたという事があったらしくてな、便利な宿は軒並み出入り禁止だ。ここは辺鄙な場所にあるせいか、山の民だろうがメリア人だろうが受け入れてくれる、入れ。一応宿の仮押さえはしておいた」


 全く手際のいい事だ。分かっていたなら最初から言っておいてくれればいいものを。いや、これは俺に自分の立場を分からせる為の行動なのか? 確かに最初から言われるより体験した方が骨身に染みる。


「部屋は2部屋しか取れなかった、部屋割りは自分達で決めろよ」


 そう言って彼はさっさと去っていく。部屋の中にはベッドが2つに大きめなソファーがひとつ、たぶんもう一部屋も同じような感じなのだろう、自分達の人数は7人、どう頑張っても一人あぶれる。


「僕達一緒に寝ればいいし、問題ないね」


 カイトはそう言ってまた俺に抱きついてくる。まぁ、そこはいつも通りだから問題ないにしても、部屋割りはどうするのだろうか? 旅の同行者には女性もいる訳で、そこはどうするのだろうか? と彼女を見やれば、彼女は「ふむ」とひとつ頷き「部屋割りは私が決めてもいいだろうか?」と手を上げた。


「それは構いませんよ、どうしますか?」

「ユリウス、イグサル、ロディ君で一室、残りはこっちでどうだ?」

「いいんですか? そちらの人数の方が多いですよ?」

「ツキノとカイトは自分達で言っている通り、どうせ一緒に寝るだろう? 問題ない」

「そうですか、ミヅキがそう言うのでしたら……」


 そう言って、ユリ達3人は部屋を出て行き、残された俺達は思い思いに部屋で寛ぎ始める。


「オレ、ソファー使う~ベッド以外の所で寝るのって新鮮だよねぇ」

「ウィルは寝相が悪いから絶対落ちるよ」

「そんな事ねぇもん」


 カイトとウィルがそんなやり取りをしていると、ミヅキさんが俺を手招きした。


「そのうち言おうと思っていたのだが、私は昨日からお前のそれが本当に気になって仕方がないんだ」


 それ? 何だ? きょとんと首を傾げると「やっぱり分かっていない」と彼女は首を振る。


「その胸、お前は少しくらい隠す気はないのか?」


 そう言って彼女は俺の胸を指差す。そんな理不尽な事言われても、俺にはどうにもできないだろう? 今だって、この無駄に付いた肉のせいでシャツが上に押し上げられて中途半端な丈になってるの、本当に嫌なのに。


「隠せるもんなら隠してる、だけど、こんなになったらもうどうしようもないだろう? どうしろって言うんだよ……」

「それでよく自分を男だと豪語できたものだな、せめて潰して隠すくらいの事考えなかったのか?」

「……潰す?」

「さらしで巻くなりできる事はあっただろう? アレは苦しくなるから個人的にはあまりお勧めしないけれど」

「さらしで……おぉ! その手があったか!」

「だから、お勧めしないと言っているだろう、本当に今まで何も考えてなかったんだな……」

「邪魔だとは思ってた」


 俺の言葉にミヅキさんは苦笑する。


「女としては羨ましい重量なのだがなぁ」

「だから俺は女じゃねぇって言ってる」

「はいはい、分かってる。だからせめて隠せと言ってるんだろう、ちょっとシャツ脱いで。そっちの2人は回れ右」


 何事か? とこちらを見ていたカイトとウィルに指示を飛ばして、ミヅキさんは自身の鞄を漁る。言われた通りにシャツを脱いだ俺の着けた下着も脱がせた彼女は、俺に彼女の下着をあてがった。あれ? これ何だがアジェおじさんに貰ったのとちょっと違う……


「サイズが合っていないから少し苦しいかもしれないが、これで少しは隠れるだろう?」


 確かに少しきつい気もするのだが、今まで着けていたブラに比べて胸を強調する事がないフラットな形のそのブラは、胸を押さえ込んで、その上にシャツを着るとまるで少し厚い胸板のように見える。


「え? 何コレ、凄い」

「女性にとって胸は強調してなんぼだが、それが嫌な私みたいな人間もいてな、これはそういう人間用に作られた下着だな。あまり目立って流通している物ではないが、ある所にはある、街に着いたらちゃんと合ったサイズの物を調達に行こう」

「マジ? すごく助かる」


 俺の周りには根本的に女性が少なかった、胸がこんなに増えても、そんなアドバイスをくれる人間は一人もいなかったので、これは本当にとても助かる。


「もう、そっち向いてもいい?」

「あぁ、もういいぞ」


 カイトがこちらを向いて、驚いたような顔で寄って来たと思ったら、俺の胸を何の遠慮もなく触りだす。


「なんか、ツキノの胸が減ったよ! 僕のおっぱいどうしたの?」

「だから、お前のじゃねぇと何度言ったら……」

「カイト、お前のそれは素でやっているのか? 元が男同士だから遠慮がないのかもしれないが、普通にやったら女性側に訴えられても仕方がないぞ?」

「え? 僕、ツキノ以外にこんな事やろうと思わないよ? ツキノだから触るんであって、ツキノ以外に興味ない」


 カイトはさらっと言ってのける。ここは喜ぶべきなのか? いや、でも正直複雑。


「まぁ、それならいいけれど。ツキノも少しは恥ずかしがる素振りとか……」

「俺も別にカイト相手なら恥ずかしくもないしなぁ」

「そういえばお前達はもう番だったか。それにしても、お前達はまだ番になったばかりだと思っていたが、初々しさの欠片もないな」

「え? 僕達今、物凄くラブラブだけど、そう見えない?」


 そう言ってカイトがまた俺をぎゅっと抱き寄せた。


「いや、それは見える気もするのだが、何だろうなぁ……あぁ! そうだ、お前達にはノエルのような初々しさが見えない」

「ノエル? 何で今、ノエルの話?」

「カイ兄はノエルとユリ兄が付き合いだしたの気付かなかった?」

「え? そうなの? そういえば、別れ際、やけに長く話し込んでると思ったらそういう事? っていうか、あの2人まだ付き合ってなかったの? ユリウス兄さん留学中もずっとノエル、ノエル言ってたよね?」

「付き合いだしたのはそれこそ今朝だぞ、ノエルの言動がいちいち可愛いの極みでな、ああいうのを可愛げと言うのだろうな。男のノエルに可愛げで負けるというのも情けない話だがな」


 ミヅキさんが何故か少し遠い目なの何でなんだろうか?


「ミヅ姉は格好いいからいいんじゃない?」

「個人的には嬉しい意見だが、女としては駄目だと思うな」


 そんなもんか? 彼女は男連中に違和感なく混ざって普通に生活しているから、そんな事を気にしているとは思わなかった。正直ちょっと意外だ。


「さぁ、明日も早い。さっさと寝るんだぞ、子供達」


 さほど年齢が離れている訳でもないのに、まるで母親のようにミヅキさんは自身の寝床を整え、そんな事を言う。俺はさっきまで馬車の中で寝ていたから、あまり眠くもないんだけど、夜はもう深夜にかかろうという時間ではある。

 「ツキノおいで」と手招きされて、ベッドの上へと這い上がると、またしてもカイトにぎゅむっと抱き締められた。


「俺はお前の抱き枕じゃない」

「そんな事思ってないよ、ツキノの顔が近くで見たいだけ」


 カイトはそう言って俺の顔中にキスの雨を降らす。


「お前達、今日は相部屋だという事だけは忘れずに、重々自制してくれよ」


 「はぁい」といい子の返事を返すカイトだが、その腕は全く離れる気配がない。結局カイトに抱きすくめられたまま、その日も俺は眠りに付いた。



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