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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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闇④

「ルークさんに聞きました。やはり事実なのですか?」

「あの人は、昔から少しばかり口が軽いって言われてたけど、本当だったんだな。話すんじゃなかった……」

「では、やはり……」

「間違いない、だけど頻繁に買っている訳じゃない、その時たまたまかもしれないし……」

「一度でも買ってしまえばそれは犯罪です」


 あまり話したくはなさそうな素振りでセイさんはこちらを見やる。


「まだ、調査中の話だ。全てを鵜呑みにするな」

「叔父にはメルクードの祖父の家以外にも別宅があると聞きました。それは何処ですか?」

「それを聞いてお前はどうする?」

「叔父に真意を問い質します」


 セイさんは大きく息を吐き「だからお前に知られたくなったんだよ」と、くしゃりと髪を掻き上げた。


「これはまだ調査中の話だと言っている、お前が首を突っ込む事じゃない」

「けれど、これは私の身内の話です。その奴隷売買の現場を目撃したのは誰ですか?」

「困った事に、うちの親父だな」

「父はその事を知っているのですか?」

「どうだろうな、ボスとうちの親父がどう判断して、お前の親父さんに伝えたのか、それとも伝えていないのか、そこまで俺には分からんよ」


 父は叔父の疑惑を誰にも知られずに解決したがっていた、けれどそれはやはり黒の騎士団の知る所だったという事なのだろう。


「でも、おじさんは昔からメリア担当でしたよね。何故ランティスでの奴隷売買を目撃する事になったのですか?」

「それこそ、それを調べていたからだろう。奴隷の売買はメルクード近郊で行われているらしいが、奴隷の調達はメリアからだからな。親父はそれを追っていた」


 叔父がメリア人奴隷を買ったという話しはもうこれで、ほぼ確定だ。まさか、あの人が……そんな思いが去来するけれど、現実は受け止めなければいけない。


「セイさん、叔父の別宅、教えてもらえませんか」

「俺1人の判断でそれをお前に教える事はできない」

「貴方方に迷惑をかけるような事は決してしません」

「だから、駄目だと言っている」

「でしたらもう結構です、今からメルクードに戻って、直接叔父に問い質します」

「おい、ユリウス!」


 セイさんはまた、くしゃりと髪を掻き回し舌打ちを打つ。


「分かった、明朝まで待て。勝手な行動はするなよ、それでなくても今は情報が錯綜して訳が分からなくなっているんだ。これ以上面倒事を増やしてくれるな」

「こちらもしたくてしている訳ではありません」


 苦い顔付きのセイさんは「勝手に動くなよ!」と念を押すようにして、どこかへと姿を消した。


「ユリ兄、今の話って……」


 ノエル君が心配そうな顔でこちらを見上げてくる。


「聞いた通りの話ですよ。私の叔父が奴隷売買に関わっている、とそういう話です」

「奴隷ってメリア人なんだよね? ランティスってそこまで差別が酷いの?」

「目に付く形で奴隷を連れ歩いている人はいませんよ。見下しはしているかもしれませんがね。けれど、あの国にはそうやって苦しんでいるメリア人の方もいるという事です」


 あからさまなメリア人差別。自分の見た目はランティス人寄りで、そこまでの差別は受けなかったが、きっとノエル君もあの国に行けばファルスにいるよりよほど酷い差別を受けることだろう。


「ユリ兄の叔父さんも……?」

「私には分かりません。彼の吐露した苦悩が私には嘘だとは思えなかった、けれど実際に叔父はそんな犯罪に手を染めていたのですから、私は騙されていたのかもしれませんね……」

「ユリ兄……」

「ユリウス、今の話が、お前が隠したがっていた事か?」


 ふいに背後から声をかけてきたのはイグサルだ。


「お前とカイトで親父さんの実家に度々顔を出していたのは、それの調査だったという訳だな」

「まぁ、そういう事です」

「それにしても奴隷売買とはきな臭い事だな。武闘会の時はオメガ狩りだったが、ランティスではそうやって人身売買が日常的に行われているという事か?」

「それは私には窺い知れない事ですよ、イグサル」

「メリア人にオメガか……弱者ばかりを狙って卑劣な事だな。ランティスって国は一体どうなってんだ」

「全くです」


 そこに「でもさぁ」と声をあげたのはウィルだ。


「それってランティス人だけでできる事? 武闘会でのオメガ狩りもそうだったけど、結局ファルスの協力者もいた訳じゃん? そっちのメリア人の方だってきっとメリア人で悪さに加担してる奴はいるんじゃないかな? それこそ、今ここに捕まってる人達もそうなんだろう?」

「確かにウィル坊の言う通りだ。悪さを全てランティスに押し付けるのはよくないな」

「でも同胞を売る人間がいるなんて、信じたくはありませんね……」


 その時、ふいにノエル君が「俺は少し分かるかもしれない」とぽそりと呟いた。


「何故、そんな事を思うのですか?」

「俺はファルスで育って、ここでそこまでの差別にも遭わずに育ってきたけど、最近はメリア人メリア人って差別される事が多くてさ、それがもしランティスだったらそれがもっと酷い訳だろう? もし、自分がランティス人でこの赤髪だったら、何で自分はこんな国に生まれてこんな目に遭わなきゃいけないんだ! ってきっと同胞を恨むよ。それはどこの国でも一緒なんじゃないかな? きっとメリアにランティス人みたいな金色の髪の人がいたら同じように差別されたりしない? 黒髪の人は何処に行っても差別されるって聞いたよ? 恨みたくなくても、そんな風に生まれついた事を恨みたくなる人だってきっといると思うんだ。それはそういう見た目だけの問題じゃなくても、辛い思いをしてる人はいるんじゃないかな? そういう恨みを同胞に返す人がいても、俺は不思議じゃないと思う」


 「だからって、犯罪をしてもいいって話じゃないけどね」とノエル君は瞳を伏せた。


「ファルスではファルス国内で生まれた子供には全てファルスの国籍が与えられます、その辺、メリアやランティスではどうなっているのでしょうかね……?」

「聞いた事がないな、他所の国の事までは分からん」


 叔父から聞いた話だ、奪われた国籍、それは一体何処へ行く……?

 叔父の話がどこまで真実だったのか、今となってはよく分からないのだが、もしそれが本当の話だとして、その国籍、身分証を手にした人間は一体何処から来たのか?

 行商人は見た目はメリア人という感じではなかった、特徴的なメリアの赤髪でもない。


「メリアで生まれたランティス人……?」

「なんだ? 何の話だ?」

「行商人達が持っていた身分証は間違いなくメリア人の物だとコリーさんが言っていました、これは本当に仮説でしかありませんが、先程ノエル君が言っていたように、生まれのせいで差別を受けて育った人間だとしたら、メリア人を嫌うメリア人というのにも納得がいくのですよ」

「それがメリアで生まれたランティス人? だけど、なんでランティス人がメリアで生まれる? メリア人が豊かさを求めて他国に出るのは理解ができるが、元々仲の悪い国同士、しかもランティスのメリア嫌いは相当だぞ、わざわざランティス人がメリアで子を生むなんて事、あまり考えられないんだがな……」

「だから、これはあくまで仮説だと言いましたよ」


 何かが妙に引っかかる。けれどそれは喉に刺さった小骨のように、もどかしくも抜ける事がない。


「とりあえず、明朝まで待ちましょう。場合によっては、私はそのままメルクードへ戻ります」

「はいはい、そこは譲らないんだな。全くお前は変な所で頑固で困る。カイトはどうすっかな。無理やり連れて帰りたい所だが、ツキノと離れたがらない可能性もあるか」

「イグサルも、じゃないですか?」


 今回のルーン訪問はイグサルにとっても一目惚れの相手ツキノに愛を告白する為のものだったはずだ。


「あぁ……うん、まぁ、そうなんだが……全く相手にされない上に、ツキノの項見たか? アルファの項に噛み跡って、どんだけ執着してんだよって少しカイトにどん引きもしたし、それを平然と受け止めてるツキノにも正直脈はないな……と思い始めた所だよ」

「脈がなかったのは最初からですよ……」

「言うなよ。本当に一目惚れだったんだ」

「イグサルの好きな女性のタイプがよく分かりません」

「可愛くて、少し気が強そうな娘」

「それってミヅキじゃないんですか?」


 瞬間イグサルは固まって「……はぁ!?」と素っ頓狂な声をあげた。


「だから、それってまんまミヅキじゃないんですか?」

「馬鹿言え! あんな男女のどこが可愛いって言うんだ!」

「ミヅキはどちらかと言えば可愛いよりは美人ですけど、条件的には間違っていないと思うのですけどねぇ」

「お前の目はどこかおかしい!」

「そうですか?」


 私は首を傾げる。確かにミヅキは髪も短く短髪で、少年のようにも見えるのだがよくよく見れば整った顔立ちの美人なのだ。言動は男らしくもあり、あまり異性として意識した事はなかったが、常に一緒に居るイグサルの言い分は少し間違っていると思う。


「近くにいると見えなくなるものなのでしょうかねぇ……」

「あ? なんだそれは!」


 イグサルは怒ったようにこちらを見やる。そもそもそこで怒る意味も分からない。


「いいえ、なんでもありませんよ」


 私は小さく首を振る。今は他人の恋路に首を突っ込んでいる時ではない。考えなければならない事が多すぎる。


「俺も付いて行こうかな……」


 ノエル君が傍らで呟いた。


「俺にできる事が何かあるなら、俺も皆の手伝いがしたい」


 そう言って彼は拳を握る。けれど、彼を連れて行くことは私にはできない。彼を巻き込むのは間違っている。ランティスに彼を連れて行くのはとても危険だ。その赤髪故にどんな酷い目に遭うか想像もできない。


「私はノエル君の作る手料理が食べたいです」

「それって手伝いって言えるかな?」

「それは勿論、だってこれはノエル君にしかできない仕事ですからね」


 私が笑みを浮かべれば、ノエル君もにっこり笑みを零す。

 この笑顔を消さないように、赤髪への差別などなくなるように、この事件の解決がその一助になるのなら、私はその努力を惜しむつもりはない。



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