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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章:運命の子供達

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明かされる真相①

 手を繋いでどのくらい走っただろうか、辺りを窺うようにしてヒナノはようやく走る足を緩めた。


「どうにか、逃げおおせたようなのです……」


 息を吐きながらヒナノはようやく立ち止まる。


「ノエル君、大丈夫ですか?」


 心配そうに見上げる顔、息が切れて言葉が出てこなかったのだが、俺は無言で頷いた。


「もう! なんでヒナを庇ったですか!」

「女の子を、乱暴に扱う奴は……人間のクズだっ! 俺にはまだ、力がなくて……はぁ、怪我してない? 大丈夫?」

「ノエル君の方が大怪我です!」

「俺は男だから……」


 あぁ、でも少し体が痛むな。本当に遠慮なくぶん殴りやがって……今度会ったらただじゃおかねぇ。


「怪我の手当てをしないとなのです。もう! ここ何処ですか!」


 逃げる際に回りも見ずに逃げ出したので、完全に道に迷った。

 どこか大通りに出ればいいだけなのだろうが、民家の立ち並ぶ小路は壁が近すぎて周りの様子も窺い知れない。見上げて進めばいいはずの城も見えやしない。


「少し休憩……俺、疲れた……」

「大丈夫ですか?」


 また心配そうに顔を覗き込まれて大丈夫と頷いた。


「はは、なんか格好悪い、ごめんな」

「全然そんな事ないです! ノエル君は格好良かったです!」


 壁を背にずるずると滑り落ちるかのように座り込んだ俺を心配するようにヒナノも隣へ座り込む。


「それにしても、あの人達なんだったのでしょう。都会は怖い所なのですね」

「うん、なんか今人攫いが出てるみたいでさ、騎士団の人達も警戒してた。なんか『Ω狩り』とか言って、君は分かる?」

「Ω狩り……ではやはりヒナが狙われたのですね」


 険しい顔でヒナノは頷く。そうか、もしかしてとは思ったのだが、彼女はやはり『Ω』という性なのだろう。


「俺はそういうのよく分からないんだけど、なんでΩは狙われるんだ?」

「Ωは数が少ないです。番持ちでないΩの数は更に少ない。だから狙われるのです」

「希少価値的に?」

「それも勿論あると思います。αは繁殖力がとても低い、Ωがいなければ子孫を残せない、自分の子供を必要とするαの中にはお金でΩを買おうとする人もいると聞きます」


 少し険しい顔でヒナノは訥々と語ってくれる。


「αとΩの出会いは運命なのです、無理矢理捻じ曲げた出会いは悲劇しか生みません、出会えないのならそれがその人の運命なのに、それを分からない人も世の中には多いのです」

「君にも運命の相手はいるの?」


 そういえばカイトはツキノを『運命の番』だと言っていた。


「私にはまだ『運命』の相手はいませんです。ですが、きっとそのうち出会えると思っているです」


 彼女は少し表情を和らげてにっこり笑った。


「さて、そろそろ行こうか。あいつ等、もうその辺にいないといいけど」


 俺が立ち上がってそう言うと、彼女は少しだけ複雑な表情を見せた。


「たぶんいないと思うです、きっと大怪我です」

「大怪我?」

「あの人達仲間割れになったはずです、悪い人達だったので遠慮なくやってしまいましたが、ヒナのせいです」


 少しだけ瞳を伏せて「使う時には気を付けるように言われていたのですが……」と彼女は零す。


「何? どういう事?」

「ノエル君は分からなかったのですね、それなら多少は加減ができていたという事です。悪人とはいえ死んでいたら寝覚めが悪いです」

「え? 死……え?」

「ノエル君は知らなくてもいい事です、さぁ、行きましょう」


 なんだか物騒な言葉を聞いたように思うのだが、気のせいか?

 そういえば、俺が彼女を抱きかかえている時、何か仲間割れをするような声が聞こえた気もするけれど……

 ヒナノはもう何事もなかったかのように歩みを進めている、まるで怯えた様子を見せないのは気丈な娘だという事だろうか?


「ノエル君、どうやら向こうが大通りのようなのですよ」


 先を行くヒナノが俺を呼ぶ、俺はそんなヒナノを追いかけ、また駆け出した。






 大通りに出て、しばらく歩くと背後から肩を掴まれた。

 え? 何? 俺、また殴られるの!? と身構えたら、俺の顔を見た相手は「何でそんな事になってるの!?」と叫び声を上げた。


「あら、ユリ君です」

「ユリ君です……じゃないよ! ヒナ! こんな所で何をやってるんだ!」

「ママとはぐれてしまったです。ノエル君が一緒に行ってくれると言うので、騎士団の詰所を目指していた所ですよ?」

「さっき、そっちの裏通りでお前の匂いを嗅いだよ、しかも道には血痕も残ってるし、何か事件に巻き込まれたかと……!」

「事件といえば事件だったですよ。ヒナは攫われそうになったです。ですがノエル君が助けてくれたですよ」

「それでノエル君のこの怪我か……大丈夫? ごめんね」


 別に彼が謝る必要性をまるで感じないのだが、とても申し訳なさそうにユリウスが謝るので「大丈夫ですよ」と笑みを返した。


「それにしても、こんな白昼堂々人攫いとはね……」

「ユリウスさんは犯人を見なかったですか?」

「私がそこに駆けつけた時には誰もいなくて、ヒナノの残り香だけが残っていたからてっきり攫われたかと思って冷や汗かいたよ、本当にありがとうノエル君」


 残り香、そんな物で人の判別が付くものなのか? そういえばさっき妙に甘い薫りが漂った気もしたけれど、それの事か?

 なんだかよく分からない俺はやはり首を傾げる事しかできない。


「ユリ君、ここから詰所は近いですか? ママはきっとそこにいると思うのですよ」

「詰所にはもういないよ、さっき詰所で会ったんだけど、姉さんが攫われた事伝えたら、一気に頭に血が上ったみたいで行っちゃったんだよね……」

「ルイちゃんが? 攫われた……?」


 ヒナノが目を見開いて驚いている。そういえば第五騎士団の詰所でも「あのお嬢が?」という感じだったのだけど、お姉さんって一体どういう人なんだろう? 怖いのかな?


「今日自分は一回戦の参戦があったから詰所に戻ってみたらノエル君はいないし、母さんいるし、ヒナは行方不明だって言うし、姉さんは捕まったまま戻ってこないし、下の子達も訳分からなくて泣き出すし……大変だった……」


 疲れた顔で零すようにユリウスは溜息を吐く。


「そういえば一回戦どうなりました?」

「あぁ、何とか勝ち進んだよ。でも、こんな事件ばっかりで、本当にお祭り所じゃないよ」


 確かにユリウスの言う通りだ、なんだかんだで自分も巻き込まれ気味で祭りを楽しむ余裕は微塵もない。


「とりあえず、ノエル君は傷の手当だね。そういえばウィルと一緒に居るって聞いてたんだけど、ウィル坊は?」

「色々あってはぐれました」


 うん、間違った事は言ってない。本当に色々あったけど説明するの面倒くさい。


「犯人まだ捕まえられないんですか?」

「アジトだけは分かってるんだけど、アジトがあそこだけとも限らないからね」

「ロイヤー家ってそんなに悪い奴等なんですか?」

「え? ロイヤー家?」

「あれ?」


 どうやらユリウスはまだその話を聞いていなかったようで首を傾げる。


「あの家の所有者ロイヤーとか言う元貴族の人の家だったって第五騎士団で聞きました。なんか、あんまり縁起のいい名前じゃないとかなんとか。どうも俺の家の遠縁に当たるらしくて、ちょっと気分が悪いです」

「え? そうなんだ、それは自分も初耳だよ」

「うちの祖父はここでは割と有名なんですね、名前を言うと何故か驚かれます」


 俺がそう言うとヒナノは「ノエル君のおじいさんは有名な方なのですか?」と首を傾げた。


「俺は知らない。そもそも祖父が騎士団員だったというのも、ちらっと聞いた程度でまさか騎士団の副団長を務めてた事もあるなんて聞いてなかったから」

「でもまぁ、まずは2人共無事で良かったよ」


 そう言ってユリウスはようやくほにゃりと笑みを零した。




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