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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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ルーンにて③

 俺達が領主様の家に赴くと、そこはちょっとした修羅場だった。


「だから、俺はツキノと二人で話をさせてくれと言っているだろう!」

「こちらも何度も言ってますよ、もう話す事はないです、って。さっき、もうはっきりツキノにふられたじゃないですか、いい加減諦めてくださいよ、イグサルさん!」

「そこはお前の手前って事もあるかもしれないじゃないか!」

「いや、手前も何も俺とカイトはもう番だから、あんたが入り込む余地はねぇよ?」


 そこにいたのはツキノとカイトとイグサルさん、そして少し離れた所からロディ様がそんな彼等のやり取りをぼんやり眺めている。


「ロディ様、おはようございます」

「あぁ、ノエル、おはよう……」


 なんだか、ロディ様の覇気がない、何かあったのかな……?


「ん? なんかまた知らない奴がいるな? 誰だ?」

「あぁ、こっち俺の友達でウィル」

「イリヤの……?」

「はい、第3騎士団長の息子なんですよ」


 俺の紹介にウィルはロディ様にぺこりと頭を下げた。


「こっちは領主様のご子息でロディ様」

「そんじゃあ、ロディ兄?」

「ロディ兄……」


 開口一番のその言葉に、ロディ様は怪訝な表情だ。


「君は俺とさして歳は変わらないだろう? ロディでいい。というか、何故わざわざ兄を付ける?」

「年上の兄ちゃんは全員兄ちゃんだから!」

「兄ちゃんだから、って……」


 戸惑い顔のロディ様、だよね、俺も最初そうだったよ。『ノエ兄はやめてくれ』と言ったのはもう一年以上も前の話だ。


「これでいてウィルは俺より年下なんですよ」

「ノエルより? 歳いくつ?」

「11歳だよ!」

「11!? 嘘だろ!?」


 ロディ様が驚くのも仕方がない、ウィルの成長速度は相変わらずで、少し成長の早い俺とさしてサイズも変わらない彼は、見た目は少しだけ大人びて見える。ただ、話してみると、中身は相変わらずだな、というのも分かるのだけど。


「お、ウィルもいるじゃん、久しぶり」


 喧々諤々と言い合いをしている、カイトとイグサルさんの会話に嫌気がさしたのか、ツキノがひょこひょここちらへやって来たのだが、そんなツキノを見てウィルが怪訝な顔で首を傾げた。


「んん……ツキ、兄?」

「なんだよ、たかだか一年で俺の顔まで忘れたのか? 薄情な奴だな」


 常に人の顔など覚えないツキノのどの口がそれを言うのか、と俺は思わなくもない。


「ツキ兄って、もしかしてツキ姉だったの? オレ、聞いてないんだけど……」

「あ? ツキ姉ってなんだよ、ふざけんな。俺は男だ」

「えぇ……」


 ウィルは戸惑い顔で俺とユリ兄を見上げ「見たら分かるって、こういう事? どうなってんの?」と首を傾げた。ウィルは本当に変わっていくツキノを全く見ていなかったんだな。まぁ、見ていなかったならこういう反応なのも仕方がない。


「ツキノは間違いなく男なのですけど、女でもある、という事ですよ」

「言葉は分かるんだけど、意味が頭に入ってこないのはオレが馬鹿だからなのかな?」

「そんな事はないと思いますよ、身近にいなければこういうの、分かりませんよね。ツキノは両性具有、つまりどちらでもあるのです」

「男だけど女?」

「外見女っぽくても男!」


 内容は同じなのだけれど、ツキノにとっては意味が大きく違うようで、少し不貞腐れたように彼は言った。


「それで、そんなツキ兄にイグ兄が一目惚れ?」

「まぁ、そういう事ですね」

「ホント、いい迷惑!」

「外見はどう見たって女なんだから仕方ないだろう!」


 そこにロディ様が参戦してツキノは「あぁ!?」と声を荒げる。もう、なんでそこでそういう事言っちゃうかな、ロディ様。

 ツキノが怒るのなんて目に見えてるのに。


「何だか賑やかだと思ったら、お客様がたくさんだね」


 そこに現れたのは領主様の奥方様アジェ様だ。


「あぁ! なんか、どっかで会った人……えっと、どこだっけ?」

「ふふ、久しぶりだね、ウィル君。イリヤではお父さんに会わせてくれてありがとう」

「あぁ! そうだ! 剣豪の奥さん!」

「……剣豪?」


 今度はロディ様が怪訝顔だ。それにしても、ウィルと奥方様はどこで会ったんだろう? まさか顔見知りだとは思わなくてビックリだよ。


「って事は、あの剣豪の人もいるの?」

「いるよ、今仕事中だけどね」

「ちょっと母さん、父さんが剣豪って何の話? 確かに、強いの知ってるけど、なんでそんな風に呼ばれてるんだ? 俺、全然知らないんだけど!」

「お父さんはイリヤではちょっとした有名人だからね、ふふ」


 奥方様は嬉しそうに笑い、ロディ様は戸惑い顔だ。


「兄ちゃん、剣豪の息子?」

「は? あ……まぁ、そうなのか……?」


 ウィルの問いかけに、ロディ様はますます戸惑い、眉間に皺を刻む。


「兄ちゃん、俺と遊ぼうよ!」

「はぁ!?」


 ウィルはロディ様に飛びついて、ロディ様はうろたえる。ウィル、本当にお前はぶれないなぁ……


「ロディ、お友達がたくさんできて良かったね。皆、うちの子と仲良くしてあげてね」

「友達って……ちょっと母さん!」


 奥方様はふふふと笑って「ゆっくりして行って」と屋敷へと戻っていく。ロディ様の戸惑いは増すばかりのようだが、割と皆マイペースで、誰もそんな事には構っていない。ロディ様、ちょっと不憫。


「皆いい人ばっかりなので、ロディ様もすぐに仲良くなれますよ」


 ウィルはロディ様の腕を取って振り回している。カイトとイグサルさんはまだなにか言い争いをしていて、ツキノとユリ兄は少しだけ難しそうな顔で何か話し合いをしているのだけど、どこに混ざるべきかな……と俺は少しだけ小首を傾げた。


※ ※ ※


「それでは、やはり彼等はメリア人ではなかったのですか?」


 領主様のお屋敷、その一室でそう問いかけると、領主様は少し難しい表情を見せて無言で首を振った。


「メリア人なのか、そうでないのか……そうだとも、違うとも言えないのが正直な所だ。現在うちの自警団が詳しく調べてはいるが、昨晩も言った通り身分証はメリア人の物しかなかったのだよ。ただ、商人の方は明らかに不自然に全員赤髪なのはおかしいと調べてみたら、全員水で流せるような染料で髪を染めていた事が分かった。彼等の供述も一貫して『自分達はメリア人』というモノで、それもそれで不自然にしか聞こえない。こうなったらもう奴等の身元、徹底的に調べ上げるしかないな」

「彼等を手引きした、自称ツキノの護衛達は……?」

「ツキノを殺害しようとしていた奴以外は身の潔白を訴えている。実際の所、彼等はあの非常事態の鐘の音を聞いてうちに駆けつけ、強盗捕縛の手助けもしてくれていてな、疑いたくはないのだが、まだどうにも……」


 領主様はそう言って、頭を抱えた。


「ちなみに、そちらに関しては彼等の赤髪は染料などではなく、全員自毛だった」

「ツキノを襲った男もですか?」

「あぁ、全員調べた。彼等は自分の身の潔白の為なら、と進んで調べさせてくれたよ」

「ツキノを襲った男のその後の自供は……?」

「だんまりだな、仲間もなんであいつが……という感じでしきりに首を捻っていた。ところでユリウス、お前は確か昨晩少し気になる事を言っていたが、あれはどういう事だ?」


 領主様が真っ直ぐこちらを見やる。


「私にもまだ詳しい事は分かりません。私自身その話を聞いたのはつい先日なのです、なんの裏付けも取れてはいませんし、そういう事があったという話を人伝に聞いただけで、詳しい事はなにも……」


 自分はこの話を父の弟であるリク叔父さんから聞いたのだ。それはメリア人の戸籍を奪い取っているメリア人難民をランティスへと引き入れているブローカーがいる、という話だ。

 しかもその話しはもうずいぶん昔の話で、それが事実であるのならば現在その取り上げられたメリア人の戸籍は相当数になっているはずだ。

 ブローカーはメリア人の戸籍を取り上げて、一体何をしているのか? そしてその戸籍はどこへ行くのか?


「それは誰に聞いた? もっと詳しい話を聞く事はできないのか?」

「私はその話を叔父から聞きました。けれど叔父はとても忙しい人で、なかなか会う事ができません」

「お前の叔父……昔、会った事があるような気がするな。名前は?」

「リク・デルクマン。現在ランティス王国騎士団長をしています」


 領主様は「あぁ、あの男か」と頷く。


「知っているのですか?」

「少し言葉を交わした程度だがな。ふむ、だったら少し奴等を使うか……」

「奴等? 誰ですか?」

「黒の騎士団だよ、お前も知っているだろう?」

「えぇ、まぁそれは……」


 本当はあまりこの話を公にしたくはなかった。叔父には黒い疑惑がある。彼と話してその疑惑は間違っていると思いはしたが、それでも彼を完全に信じきる事はまだできない。


「あいつ等に繋ぎを取ってもらうのが何より一番早い。ついでに、その話しの裏付けもあいつ等ならすぐに取れるだろう……ん? その辺はもうやってたりするのか?」

「いえ、そこまでは……」

「だったら善は急げだ、ツキノとカイトを呼んで来てくれ」

「2人を? 何故?」

「呼べば分かる」


 領主様に言われた通り、別室にいた2人を呼び出すと領主様は「ふむ」と一言頷いて「おい、そこにいる奴出て来い」と、どこか宙に向かって声を掛けた。その領主様の行動で、自分には合点がいった。黒の騎士団と繋ぎを取ろうと思ったら、ツキノとカイトに付いている彼等に接触するのが一番手っ取り早い。


「何すか、大将? あんまりほいほい呼び出さないでくれって、オレ、前に言いましたよね?」

「別にいいだろう、これも仕事のうちだ。今日は一人か?」


 天井板をずらすように顔を覗かせた黒髪の男は、苦虫を噛み潰したような表情を見せるのだが、領主様はそんな事を気に止めた様子もない。


「相方はボスに事件発生の報を出している所ですよ」

「いや、サクヤの事じゃなくて、カイトの方の護衛は?」

「あぁ……あいつ等は今、今回の事件の取調べを覗いている所ですよ」

「ちょっと使いを頼みたいんだが、余剰人員はいないか?」

「そんなのいる訳ないでしょう。ここにカイトが留まるってんならいざ知らず、数日中には帰るんでしょう? 人員は割けませんよ。あちこちで事件が多すぎて、こっちも最近はすっかり人手不足なんでね」

「そこを何とか……」

「無理です、無理無理」


 領主様は難しい顔で「そうか……」と息を吐く。


「ルークさん、本当に駄目ですか? 確かカイトにはセイさん達3兄弟が付いてるはずですよね?」

「あぁ、まぁな。うちの若手で一番の精鋭部隊だからな」


 カイトに付いているのは私にとっても幼馴染の3兄弟だ。諜報に特化した黒の騎士団において、攻撃性も加えた彼等は諜報に留まらない完全なる護衛要員だ。

 表向きのカイトの護衛は私とイグサル、ミヅキの3人なのだが、そこに彼等3人が加わっての6人体制だ。


「ルークさん、ツキノとカイトの警護はこちらで何とかしますので、領主様に手を貸していただく事はできませんか?」

「んん? 一体オレ達に何をさせようって言うのさ? 話を聞くくらいはするけど、駄目な時は駄目って言うよ?」

「ランティスのリク騎士団長に繋ぎを取って欲しい、あと……」


 領主様が言葉を続けようとしたその時、ルークさんが微かに眉根を寄せて「それは無理」と言い切った。


「なんでだ? お前等ならそのくらい容易い事だろう?」

「確かに繋ぎを取る事自体は簡単だけど、駄目。その人ボスから敵認定されてるから」

「え!? 何でですか!?」


 思わず、大きな声を上げてしまう、それくらいに自分は驚いたのだ。彼等の言うボスというのはファルス国王陛下の事だ。彼はもう既に叔父の事を『敵』だと認識していると彼は言うのだ。


「坊の手前あんまり言いたくないんだけどさ、あの人、どうもメリア人奴隷を買い漁ってるっぽいんだよね……」

「メリア人奴隷を……?」

「そう、メリアから流れてきてる不法移民の人達。買ってどうしてるのか、まだよく分かってない、っていうか現在調査中なんだけど、あの人真っ黒だから坊ももう近寄らない方がいいよ」


 そんな話しは聞いていない。彼に話を聞いた時、叔父は確かにメリア人に対して同情的な態度だったのに彼はその裏で奴隷売買をしていたと言うのか?


「それは、本当に事実なのですか?」

「仲間で買ってる所を見た奴がいるからね、間違いないよ」


 俄かには信じられない。自分の血の気がさぁっと引くのが分かる。


「ユリウス兄さん……」


 カイトが心配そうな表情でこちらの顔を覗き込む。私はそれに力なく首をふる事しかできなかった。





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