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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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再会②

「え? ちょっと! 親父さん助けに行かなくていいのか!?」

「親父がそう言ったんなら1人で大丈夫だ。それよりも単独行動は危険だ、母さん、あとはお爺さまお婆さまも心配だ、一緒に来い」


 そう言ってロディは俺を引き摺るようにして歩き出す。そのうちに外の喧騒はますます激しくなって、遠くで鐘のような音まで響き始めた。


「なぁ、本当に行かなくていいのか?」

「侵入者の数がはっきりしないけど、向こうには使用人も寝泊りしてるし、親父がいれば数人の侵入者くらいならどうという事もない。非常用の鐘も鳴ってるし、自警団もすぐに飛んでくるはずだから、問題ない」


 けたたましい鐘の音、これは自警団を呼び出す為の合図だったらしい。この町の自警団は小さな田舎の自警団にしてはちょっと豪華なメンツが揃い踏みだ。一度だけ顔合わせ的に会合に招待された事があるのだが、聞けば結構な数の元騎士団員がいる。

 それはその昔、俺の養父がここルーンで働いていた時に、養父の下で働いていた部下達の何人かが、この土地で家庭を持ち、この町に残ったからだと聞いた。

 よくよく話を聞いてみれば元騎士団長までいて、本当に耳を疑う。その人は養父の配下ではなかったらしいのだが、なんでそんな人がこんな田舎で暮らしているのかと思わずにはいられない。

 因みにノエルの祖父は元副騎士団長で現在もこの町の自警団で参謀として君臨している。

 屋敷を奥へと進んで行くと別棟がある。そこでロディの祖父母は静かに隠居生活を送っているのだが、その別棟の手前でアジェおじさんと、元領主様ご夫妻が不安そうな表情で身を寄せ合っていた。他にも何人か側仕えの使用人もいて、俺達が来た事に気が付くと「何があったの?」と問いかけてくる。


「どうやら侵入者があったみたいだ、数はまだよく分からない」

「エディは? 戻ってこないけど、大丈夫なの?」


 顔面蒼白のアジェおじさん、そうだよな、心配だよな、当たり前だ。


「うん、だからツキノを頼む。俺、様子見てくるから」


 そう言ってロディは俺をアジェおじさんに押し付けた。なんだよ、さっきと言ってる事違うじゃねぇか! こいつやっぱり俺を避難させる為に引き摺ってきたんだな!


「俺も行く!」

「駄目だって言ってるだろ! 相手は何者かも分からないのに、君みたいな無防備な子、悪党の中に放り込んだらどうなるか、少しは自分で考えろ!」


 そう言って、彼は何故か俺に上着を羽織らせる。あ? なんだよ、これ!

 文句のひとつも言おうとしたのだが、ロディはそのまま駆けて行ってしまい、残された俺は憮然とする。


「まぁ、あの子もお年頃だから、色々と目に毒だったんだろうね。ほらツキノ君はちゃんと着て」


 そしてアジェおじさんにまでその上着をきちんと着る事を促される。確かに俺の格好はシャツに短パン一枚だった訳だけど、寝る時くらいいいじゃねぇか。一日中あんな窮屈な下着つけてられるか! ついでにロディの上着でか過ぎんだよ、腹立つな、もう!

 着込んだ上着の袖をまくって、俺はロディの駆けて行った方を見やる。


「ねぇ、おじさん、行っちゃ駄目?」

「できればね、ここにいた方がまだ安全だと思うよ」


 不貞腐れる俺を宥めるようにおじさんは言うのだが、やっぱり俺は納得がいかない。


「俺は皆の足手纏いにはならない!」


 俺の叫びにおじさんは困ったような表情を浮かべる。


「でしたら王子、私と共に参りましょう。私は貴方の護衛、貴方の御身は私が守る」


 護衛の人がそう言って俺を見やった。名前忘れちゃったけど、この人もしかして凄くいい人?


「危ないですよ、わざわざそんな危険にツキノ君を放り込む事はありません」

「安心してください奥方様、私はこれでも選ばれてここまでやって来た王子の護衛です、危険な目になど合わせません」


 おじさんは少し躊躇うような表情は見せたのだが護衛の人のその言葉に「そこまで言うのなら……」と、言ってくれた。俺は剣を握りなおし、表へ向かって駆け出した。護衛の人も俺のあとを付いてくる。


「ありがとう。最近、俺、完全に女扱いでこんなんばっかだったから、ホント助かった」

「それでも、わざわざ危険に飛び込むような真似など本来するものではありませんよ」

「俺はこれが俺のせいだとして、誰かが傷付くのは絶対に嫌だ。1人で逃げて守られて、自分だけ助かって何の意味がある!」

「その考え方は自身の命を縮めます」

「俺はそんなに柔じゃない!」

「それでも、選択は慎重にされた方がよい時もあります。まぁ、この場合好都合でしたが……」


 好都合? え? なに……?

 思う間もなく肩を捕まれ口を塞がれた。


「だから言ったのですよ、貴方は狙われている自覚が足りない、とね……」

「んぐっ……」


 何で?! こいつ俺の護衛のはずだろ!


「ここまで辿り着くのは大変でしたよ、まさかファルスの中でもこんな辺境の地に身を隠しているなどと思いませんでしたから。しかも、まさか半陰陽とは思ってもいなかった」


 男は俺の胸を鷲掴む、くそっ! 痛ってえんだよ、この野郎!

 幾ら心の中で悪態を吐いても、塞がれた口から漏れるのは呻き声ばかりで、俺はその手を外そうともがくのだが、男の腕は外れない。


「殺してしまうには惜しい顔と体をしているのだがな、恨むならお前を生んだ親を恨む事だ」


 俺の護衛を名乗っていた奴等は全員俺の敵だったのか? それともこいつだけが……?

 いや、そんな事考えてる場合じゃねぇ! 俺は俺の口を塞ぐ男の手に噛み付いた。


「ぐっ……この!」


 噛んだ掌をそのまま返すように頬を張られて、俺は蹲る。口の中に血の味が広がる、きっと口の中のどこかが切れたのだろう、けれどそんな事に構ってられない俺はぎっと男を睨み上げた。

 ざけんなっ! そう簡単に殺られてたまるか!

 その時、表の方から聞こえてきた足音に、今度は俺を羽交い絞めにして、声を上げさせないよう首を腕で締め上げながら、男は俺を空き部屋へと引きずり込んだ。

 苦しい、こんな時はこの体格差が恨めしい、そのまま持ち上げられてしまえば俺の足はもう地面に着きもしない。

 息ができない、意識が霞む……その時、聞こえた俺を呼ぶ声。この声はたぶん間違いなくノエルの声だ、なんであいつがここにいるのか分からないが、ここは危険だ。

 男は片手で俺の首を背後から締め上げ、部屋の扉を細く開けて外の様子を窺う。開いたもう一方の手には剣が握られている。このままではノエルが危ない。


「ノエル、来るなっ!」


 辛うじて出た声。あいつまで危険な目に合わせる訳にはいかない。

 ノエルは俺のその言葉に「もう大丈夫だよ」と声をかけて寄越すのだが、そっちが大丈夫でも、こっちは大丈夫じゃねぇんだよっ! 俺の方からはノエルの姿は見えないし、男の腕も弛まない。

 その時、男が扉の隙間から剣を振るった。


「そこに誰かいるんだなっ!」


 威勢のいいノエルの声が聞こえる。だから来るなって言ってんだろうが……


「お前は逃げろ! ノエルっ、っく……」

「そういう訳にはいかない事くらい、分かってるよね!」


 あぁ……お前ってそういう奴だっけ。どうしよう? どうすればいい? このままじゃ、俺だけじゃなくノエルまで危ない。


「中の人、もうあんた達の仲間は捕まったよ、観念したら?」


 生憎こいつは外の奴らとは別なんだよな……薄れる意識の中、男の腕を掴む。部屋の奥にある窓の外で何かが動く気配を感じた。

 男は扉の向こうのノエルに気を取られていて気付いていないようだが、あれは……?

 そんな事を考えていたら、窓が外側から派手な音を立てて割れた。どうやら、外から何かで破壊されたっぽいんだけど、目は霞む上に暗闇でよく見えない。

 男は慌てたように、窓の方へと視線を投げる


「やっぱり、あんたちょっと怪しいと思ってたんだよな」


 そんな事を言いながら窓枠を乗り越えてきたのは領主の息子ロディだった。


「な……お前、表に向かったはずじゃ……」

「行ったさ、そんでもってあんたの事親父に聞いたら、あんたは来てないと言われたんで、慌てて戻ってきた」


 そういえばさっき、ノエルが来る前にも足音が聞こえていた、アレはこいつの足音だったのか。


「おかしいよね、あんたは親父に奥で避難しておくように言われたって言ってたのに、親父はそんな話は聞いてないって言う。そもそも親父に会ってないなら、なんで侵入者がいるって分かったんだろう? まるで、侵入してくる奴等がいる事をあらかじめ知っていたみたいだ」


 ロディはひたひたとこちらへと近付いてくる。


「生憎うちの親父は侵入者に臆する事も、その辺の雑魚に負けるような人間でもなくてね、全員殺して証拠隠滅、ツキノの殺害は侵入者によるもの……とでもするつもりだったのかもしれないけど、全員綺麗に返り討ちだから、あしからず」

「ちっ、使えない奴等だ……」


 男は舌打ちを打って、壁を背にじりっと下がった。そうだよな、これで形勢逆転、扉の向こうにはノエルがいる、こいつにはもう逃げ場がない。けれど、男の腕は弛みもせずに俺の首を締め上げて俺は息ができずに呻き声をあげた。


「アリバイ作りは無駄になったが、こいつさえ始末できれば俺の任務は完了だ。はは、祖国には帰れないかもしれないが、まぁ、仕方がないか……」


 その時、扉の外からばたばたと幾つもの足音が聞こえてきた。誰か増援が来たのかもしれないけれど、俺はそれ所ではなく男の腕に爪を立てた。男の腕に爪は食い込むのだが、その腕はやはり弛まない。男はもうここで死ぬ事も覚悟しているのだろう、まさに死なば諸共という感じだ。


「ツキノぉ、そんな所で遊んでないで、ちゃんと抵抗しなきゃ」


 そこに響く呑気な声。俺は声の主をまじまじと見詰めた。


「カイ……ト……?」

「おじさんも、僕の大事な番相手放してくれないかな? そうじゃなきゃ、僕、手加減できないよ?」


 声は呑気に耳に響くが、これはかなり怒っているのが俺には分かる。


「ガキが何人増えた所で、一体何が……」

「放しなさいと言っているのです」


 次に入ってきたのは、ユリウス兄さん。でも何で? 何で2人がここにいるんだ?

 しかも兄さんの登場と共に一気に部屋の中にアルファのフェロモンが充満する、実は俺もさっきからやってたんだけどさ、ホント兄さんには敵わない。この人ホントに化け物だ。

 基本的にはこのフェロモン、ベータ相手にはほとんど効かない。いや、効いているのかもしれないけれど、鈍感な奴には本当に効かない。けれど、兄さんのフェロモンは別格だ、全解放すれば誰もが平伏する王者の風格で周りを威圧する。


「な……お前はなんだ……」

「名乗るほどの者ではありませんが、その子は私の弟です。放しなさい!」


 誰もが動けず立ち尽くす中、兄さんだけが無表情につかつかとこちらへ歩みを進めて、俺の首に回していた男の腕を捻り上げる。俺が咽こんで蹲ると、俺の傍らにはすぐにカイトが駆けつけて「大丈夫?」と俺を抱き締めてくれた。


「カイト、何で……?」


 息がまともに出来ずに涙目で呟くように俺が言うと、カイトは「ツキノに会いたくて、来ちゃった」と笑みを見せた。


「まさかこんな事になってるとは思わなくて、ツキノが無事で良かったよ」


 あぁ、カイトだ。本物だ……

 俺は思わずその首に腕を回して抱きついた。会いたかった、本当にこの一年会いたくて仕方がなかったんだ。

 カイトも最初は驚いたような様子だったのだが、そのうち俺の背中に腕を回してあやすようにぽんぽんと俺のその背を叩いてくれた。


「完全にいいとこ持ってかれたんだけど、あんた達、誰?」


 ロディが少し不機嫌そうに言葉を投げる。あぁ、そういえば居たんだっけ? 忘れてた。

 俺はカイトに腕を取られるようにして立ち上がる。


「俺の番相手のカイトと向こうは義兄のユリウス兄さん」

「ツキノ、この人は?」

「伯父さん達の一人息子のロディだよ。お前は近寄らなくていいから!」


 俺はカイトを隠すように俺の後ろへと押しやる。こいつは何だか危険な匂いがするんだ、俺にも散々やらかしている、カイトにまで何かされたら堪らない。

 とは言っても、俺の背中にカイトが隠れる訳もなく、カイトはきょとんと首を傾げた。


「それにしてもツキノ、なんか縮んだ?」

「あぁ!?」

「ツキノが縮んでいるんじゃなくて、あなたが伸びているんですよ、カイト」


 男を縛り上げながら、苦笑するようにユリウス兄さんが言う。


「あれ? そうなんだ? 周りの身長差がほとんど変わらないもんだから、気付かなかったけど、僕、伸びてる?」

「間違いなく私と同程度には伸びてますよ」


 俺は向かいあってカイトを見上げた。うん、これ完全に伸びてるわ。もう追い付ける気がまったくしない。俺とカイトの身長差はついに頭ひとつ分を超えてしまった。

 「そっかぁ、気付かなかったなぁ……」とカイトは笑みを零す。悔しいけど、もういい、俺は諦めた。


「ねぇ、ところでさ、さっきから気になってるんだけどツキノのその服、ちょっとツキノには大きすぎない? しかも足、その絶妙な丈、僕の居ない所で誰彼構わず色気ふりまくの止めてくれる?」

「あぁ? ちゃんと下、ズボン履いてるぞ?」


 上着を捲り上げるようにして、短パンを見せると「そういう事しちゃ駄目!」と、カイトに叱られた。解せぬ。


「これ、上着はロディのだから大きいのは仕方がない」

「なんでツキノがあの人の上着、着てるの?!」

「知らねぇよ、着せられたんだから仕方ないだろ」

「だったら僕の上着着て、ツキノが他の男の上着着てるのはすごく嫌。なんか彼シャツみたいでホント嫌!」


 彼シャツって……俺だって好きで着てる訳じゃねぇっての。俺はしぶしぶ上着を脱ごうとするのだが、脱いで前を寛げた途端、カイトの視線が胸にきた。お前もそういう反応なのかよ、世の男どもと変わらねぇな。


「ツキノ、それ……」

「うん、なんか育った」


 それ以外に言いようのない俺はぶっきら棒に言って、上着をロディに返そうとしたらカイトに「駄目!」と止められた。いや、脱げって言ったのお前だろ?


「もう、何なの! それ! さっきちょっと柔らかいなって思ったけど、もうもっちもちなの!? 何なの!」

「俺の胸を餅みたいに言うな」

「駄目、そんなの他人に見せたら絶対駄目!」

「だったら俺にどうしろと……」

「とりあえず、着替えて! なんでそんなに中、薄着なんだよ!」

「もう、寝る所だったんだから当たり前だろ、俺の寝巻きなんて昔からこんなもんだっただろうが」

「知ってる! 知ってるけど! そんな格好で外出ちゃダメっっ!!」


 激しいカイトの拒絶にあって、俺は自室で着替えるハメに、全く何なんだよ……

 そして、俺が着替えて彼等のもとに戻ると一連の事件はあらかた解決していた。




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