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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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再会①

 目の前にいた男はまさか背後から敵が現れると思っていなかったのか、あっけなく前につんのめった。

 男が手に持った武器を、その手を踏みつけ遠くに蹴り飛ばす事で取り上げた俺はそいつを上から抑えつけた。


「領主様はどこですか!」

「まだ、奥です。カーティスさん、ここは俺らで何とかしますので領主様をお願いします!」


 自警団の2人はそう言って、俺達に……いや、正しくはじいちゃんに道を開けてくれた。強盗はぱっと見て4人くらいいたのだが、そのうち2人は既に彼等が撃退済みだったのだろう、傷を抑えて蹲っているので、じいちゃんは一言「任せました!」と屋敷の奥へと踏み込んで行く。

 俺は抑えつけた男を拳で潰してじいちゃんのあとを追う。屋敷の奥からも人の争うような声と物音が聞こえてきた。


「領主様!」

「おぉ、じいさん、早かったな」


 領主様の口調は呑気だったが、その場は騒然としている。複数の覆面の男に囲まれるようにして領主様はそこに立っていた。いつも威風堂々としている領主様の髪が乱れている。

 深夜の急な襲撃だったのを物語るようにラフな格好の領主様は「助かったわ」と笑みを見せた。


「老いぼれ一人増えた所で、何が変わる事もない」


 覆面の男の一人が自分達を鼓舞するかのようにそんな事を言うのだが、じいちゃんをただの老いぼれ呼ばわりした人間で、後で後悔しない奴なんていないんだからな!


「坊ちゃん達は?」

「アジェと奥に避難させた」

「さようですか、暴漢はこいつ等で全部ですか?」

「恐らくな」


 淡々とした状況確認、こんな時でもじいちゃんは冷静だ。領主様も動揺を見せる事なく受け答えしているの見ると、領主様もこういった修羅場の場数を踏んでいるのだろうなと推測される。あまり歓迎した事ではないけれどね。


「でしたら、こいつ等を成敗すれば問題ないですね」

「あぁ、思う存分やって構わん」


 じいちゃんは「さようですか」と、踏み込むが早いか剣で目の前の男2人を薙ぎ倒した。


「こいつ等たぶん素人だ、加減しないとすぐに死ぬぞ」

「領主様はお優しい事ですな。けれど私、悪人には手加減という言葉、持ち合わせておりませんので……」


 その言葉通り、その後の戦闘はもう完全にじいちゃんの独壇場だった。じいちゃん、年寄りの冷や水って言葉知ってる? あんまり無茶すると、また腰にくるんだからな。

 しばらくすると、その場には屍のようになった男達が累々と呻き声をあげて転がっていた。俺、出番なかったな……


「ノエル、奥の様子を見て来てください」


 じいちゃんと領主様はそんな男達を嬲るようにして、一纏めに端へと追い込んで行く、ホント容赦ないよね。

 俺はじいちゃんの言葉に頷いて、領主様が守っていた奥の部屋へと続く扉を開けた。

 奥からは物音ひとつしない。しんと静けさが広がっているのは奥方様達が息を潜めているからだろうか?


「奥方様~? ツキノ~?」


 俺が声をかけながら奥へと進んでいくと、ある部屋の扉が微かに開いた。


「ツキノ~? そこにいるの?」

「ノエル、来るなっ!」


 扉の向こう側からツキノの声が聞こえた。あれ? 今、来るなって言った?


「ツキノ~、もう大丈夫だよ、出ておいで」


 俺は安心させるようにそう言って歩いて行くのだが、部屋の扉は細く開いたままそれ以上に開きはしなくて、首を傾げる。


「ツキノ~?」


 扉に手をかけ、その取っ手に触れると目の前を鋭利な刃物がひゅんと横切った。


「つっっ……」


 条件反射で避けたけど、あっぶねぇ……俺は扉から距離を計るように飛び退いた。でも、これあれだ、あんまりよくないやつだ。


「そこに誰かいるんだなっ!」

「お前は逃げろ! ノエルっ、っく……」


 またしてもツキノの声が聞こえるのだが、その声は誰かに抑え込まれてでもいるかのようにくぐもっている。これ、絶対誰かいる、しかもツキノ捕まってる。そこにいるのはツキノだけなのか、それとも他にも人がいるのか、助けを呼んだ方がいいのか、俺の頭の中はフル回転だ。だけど……


「そういう訳にはいかない事くらい、分かってるよね!」


 絶対そこに誰か、しかもツキノが逃げろと言う程度には悪い奴がいるのを分かっていて逃げるなんて選択肢、俺には無い!

 その部屋は屋敷の奥、俺は入った事がない部屋だ。中がどうなっているのか分からないので、中の様子は想像もできない。


「中の人、もうあんた達の仲間は捕まったよ、観念したら?」


 部屋の中から返事はない。中にツキノがいるのは確実だろう、あとは誰だ? 奥方様? ロディ様? 先代の領主様達の姿も見ていないけど、そこにいるの?

 続く沈黙、俺はじりじりと扉の死角へと移動する。細く開いたその隙間からでは、外の様子などほとんど分かりはしないだろう。けれどこんな人質を取られた状態では、どうにも対応のしようがない。

 月明かりの下、そばだてた俺の耳に、その時何かが壊れる派手な音が聞こえた。


※ ※ ※


「王子、本日は私が護衛承ります」


 ダニエルさんと共にやって来た自称(ツキノ王子)の護衛は何人かいた。隊長がダニエルさんで、その下に数人。今日は昼間にダニエルさんが来ていたので、夜はどうやら交代らしい。っていうか、この人の名前なんだっけ? 俺、人の名前覚えるの苦手なんだよな……


「ありがとう、ご苦労様。だけど夜まで護衛の必要ってある? 寝ずの番とか、あんた達が消耗するばっかりじゃないの?」

「王子は少し自覚が足りない、貴方は自身の命が狙われている事をもっと自覚するべきです」


 生真面目そうな男はそう言って、俺のあとを付いてくる。う~ん、正直ちょっと窮屈なんだよなぁ……


「ツ・キ・ノ、もしかして今から風呂?」

「あ? そうだけど、付いてくんな」


 実を言えばこの領主様の屋敷には温泉があるのだ。しかも広い。いわゆる家族風呂というやつだ。


「俺、背中流すよ?」

「いらん!」

「ツキノいつも自分は男だって言ってるだろ? 男同士だって言うなら別に一緒に入ってもよくない? 裸の付き合い大事だよ?」

「お前は俺を男だと思ってないんだろう! そんな奴と一緒に風呂なんて入れるか!」


 こうやって気軽に話せるようになってから、ロディは本当に図々しい。こんな男と裸の付き合いなんて、死んでもごめんだ。


「ケチだなぁ」

「どこがだ!」

「ロディ様、軽口だとしてもそういう発言は控えていただきたい。王子は我が国にとって大事な御身、そう軽々しく肌を晒すような事はなさいません」

「堅いなぁ、俺はもっと砕けた仲になりたいんだけどなぁ」

「ロディ、お前は砕けすぎだ。そもそもお前、俺とそれ以外の奴の前で態度違いすぎだろ! なんだよそのちゃらい感じ『こんなロディ様見た事ない』ってノエルも困ってたぞ!」


 そうなのだ、この男何故か俺の前ではいつでもこんな感じなのだが、領民の前では二重三重に猫を被って領主のできた息子を演じきっている。あの真夜中の出来事のあとから、俺の前では彼はそんな猫を捨て去ってしまったのだが、その猫かぶりしか知らないノエルは戸惑いを隠せずにいる。


「ツキノはうちの領民じゃないしね、猫かぶる必要もないかな……って」

「俺は前のお前の方がまだマシだった!」

「全然会話もしてくれなかったくせに、よく言う」

「俺は、俺に関わってくんな! って言ってんだよ!」


 伯父であり領主であるエドワードおじさん、そしてその妻アジェおじさん、俺は2人が好きだけれど、どうにもこの息子だけはいただけない。

 何の許可もなく唇を奪われた俺は彼との距離をずっと測っている。けれどそんなものはお構いなしでぐいぐいやってくるこいつが俺は嫌いなのだ。


「ツキノ、冷たい……」


 言葉は少し俺を非難するような口調だが、表情はへらっとしていて彼が別に俺の言葉に傷付いたりしていない事はすぐに分かる。ホント、なんなんだろうな、こいつ。

 俺はロディを無視して風呂場へと向かう。そんな風呂場の前には護衛の人が立ってくれるので、ある意味ちょっと安心できる。


「はぁ、極楽……」


 湯船の湯を掬って、湯船に零す。本当にここの風呂は気持ちいい。1人で入るには勿体ないくらいの広さだが、如何せん俺の身体は男とも女とも言い難く、誰かと一緒に入る事ができないのだ。もちろんロディとなんてもっての外だ。


「ふふ、カイトとなら一緒に入れるかな……」


 早く来ないかな、と俺はまた片手で湯を掬い流す。カイトの来訪はもう間もなくだ、俺はそれが嬉しくて仕方がない。久しぶりの逢瀬、また彼と抱き合える。

 カイトを抱きたいのか、抱かれたいのか、どっちかと問われるとどちらかは分からないのだけど、カイトと抱き合って眠るのは昔からの習慣で、俺は彼のその匂いと感触を思い出してしまう。

 発情はオメガの専売特許だが、それに誘発されるアルファの側にも発情がない訳じゃない。つつつ、と指を身体に沿わせて俺は自身の身体を撫で上げた。

 もう既に一年も前の記憶を何度も何度も反芻しながら、カイトの身体を思い出す。


「それにしてもこれ……驚くかな……」


 ふと、我に返って己の身体を顧みる、目線を下げればそこには一年前にはなかったはずの肉がどんと存在を主張している。本当にまさかこんな風に育ってしまうとは思わなかったのだ、身長は一ミリも伸びていないのに、そこだけは重量を増して、俺はそれを見ないように風呂に顔の半分まで浸かるようにして身を沈めた。

 正直、この肉とても重いのだ。けれどそれは増量を続けるばかりで減ってくれない。俺の摂取してる栄養全部そこにいってるんじゃないか? という増量ぶりに俺は息を吐く。


『ツキノ君、あのね、嫌なのは分かるんだけど、やっぱり下着は付けた方がいいと思うよ?』


 アジェおじさんにそう言われたのは、ここに来て半年くらいが経った頃だった。女装は断固として拒否していた俺だったので、おじさんは女物の服を勧めてくる事はなくなっていたのだが、それでも少し困った顔でそっと手渡された女物の下着。そうブラジャーだ。

 女物は絶対嫌だと拒否した俺だったのだが、それでもアジェおじさんは『目のやり場に困るから!』とそれを俺に押し付けた。

 そんな物を着けた事もない俺はどうしようもなく困惑したのだが、着けてみれば意外と無駄にでかい肉は固定されて動きが楽になった。けれど、それに伴いその重さが肩紐にかかって、とても肩が凝るようにもなった。


「これ、どうやったら減るんだろう……」


 俺は溜息しか出てこない。ノエルはたぶん俺がこの胸を気にしている事が分かっているようで、あえて俺には何も言ってこないのだが、村の男達の視線はどうしてもその胸に集まって、本当に嫌だ。

 普段は大きめな服で隠すようにしているのだが、ラフな格好でふらふらできないのは本当に苦痛で仕方がない。ごろごろしていても寛げないし、落ち着かないので本当に困る。

 俺はその胸を自身の腕でむにゅっと押し潰して溜息を吐いた。柔らかくて気持ちよくはあるのだけど、自分に欲しいわけじゃないんだよな、こういうのは……


「はぁ、考えてても仕方ねぇや、出よ」


 ざばっと湯から上がって寝巻きに着替え、浴場を出ると護衛の男は扉の前に相変わらずの様子で立っていた。そしてその隣には何故かロディも座り込んでいる。

 俺は眉間に皺を寄せた。


「お前、何なんだよっ!」


 ロディはそ知らぬ顔で「別に……」と笑う。俺は髪をがしがし拭いていたタオルを肩にかけて、彼を無視するように部屋へと戻った。本当にあの男は訳が分からない。

 部屋に戻ってベッドに転がる。今日は月も大きくてやけに明るい。

 例の書斎から持って帰ってきた本を幾つか傍らに、ぱらぱらと捲っているうち俺は睡魔に襲われ、俺はそのままうつらうつらと眠りに落ちていった。


 目が覚めたのは、部屋の外で大きな物音が聞こえたからだった。続いて、聞こえてきたのは人の争うような声と、悲鳴。

 何事が起こったのかと、慌てて飛び起き外を窺うと「王子はそこで待機していてください」と護衛の男に言われてしまった。

 そのまま彼は様子を見に行ったのだろう、人の気配が消えた。

 俺はイリヤから持ってきていた自身の剣を傍らに寄せる。よほどの事はないと思うが念の為だ。


「ツキノ~? 大丈夫?」


 そこで次に響いたのはロディの声。実を言えば俺とロディの部屋は割と近い。そしてロディの部屋の奥の方に領主様夫妻の寝室がある。俺が部屋から顔を覗かせると、ロディは周りを警戒するようにこちらへと駆けてきた。


「何があった?」

「さぁ? とりあえず親父が様子を見に行ったけど、ツキノは念の為こっち、母さんと一緒に奥の部屋にいてくれる?」

「あ? 何か事件があったんなら、俺も行くに決まってんだろ!」

「ツキノは分かってないなぁ、何かあったんなら狙われてる可能性が一番高いのはツキノなんだから、ツキノが身を隠すのは当然だろ」

「ざけんなっ、俺はそういうこそこそしたのは断じてごめんだっ!」


 ロディは俺の言葉に困惑顔で苦笑した。


「はは、本当ツキノは困った子だね。だったら言い方変えるよ、ちょっと様子見てくるから母さんの事守ってて。母さん荒事は得意じゃないから、怖がってる」

「だったら息子のお前が守ればいいだろう?」

「だから俺は様子を見てくるって言ってるのに……」


 俺とロディが押し問答を続けていると、護衛の男が戻ってきて「王子は部屋で待機していてくださいと言ったはずですよ」と叱られた。どうして皆して俺を無能扱いするんだ! 俺はそれが解せなくて不貞腐れる。


「何があったんですか?」

「侵入者があったようです、領主様が皆で奥に避難しておくように、との事でした」

「侵入者……? 数は?」

「そこまでは、ちょっと……」


 ロディは怪訝な顔をしながらも「分かった」と頷いて俺の腕を引いた。



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