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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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変わりゆく者④

「父が引退する時、何人かの騎士団長候補の名が上がったんだ、勿論その中に俺なんかが入っている訳もない、俺はうちの騎士団ではまだ全くの若造だったからな。一度は別の人間が騎士団長になったんだが、ここでその新しい騎士団長が急死した」

「急死……?」

「あぁ、心臓の病だったらしい。あまりの急逝に周りは慌てふためいた、そしてまたすぐに新しい騎士団長が立てられたのだが、これもまた立ってすぐに事故に遭って身体の自由が利かなくなった」

「今度は事故ですか?」

「あぁ、馬からの落馬でな。そんなヘマをするような人ではない筈なのだが、不幸な事故だったとしか言いようがない」


 急逝に事故、なんだか不穏な感じだ。


「次に立ったのが俺の直属の上司だった。立て続けに2人も騎士団長が変わっては勿論仕事は滞る、ただでさえ騎士団長はやる事が多いのに目の回るような忙しさだ。俺は父の働く姿を見ていたからな、その上司にもいいように使われて、俺は騎士団長の右腕のように扱われるようになっていた。数年はそんな感じで働いていたのだが、上司も歳で疲労は溜まる一方、そのうち過労で体調を崩す事が増え、俺はその代理を務めて奔走した」

「あぁ、もしかして、それで……?」

「上司も頑張ったんだが、ついに倒れてその時に矢面に立たされたのが俺だった。立て続けの不幸、過酷な労働、また新たに新しい騎士団長を、という話になった時、俺は仕事も分かっているし若くて体力もある、ついでに元騎士団長の息子という意味でも使い勝手が良かったのだろうな、気が付いたらこの立場だ」


 彼の出世が彼の言うところの偶然の産物、というか棚からぼた餅的な出世だったのはなんとなく理解した。


「決して俺の望んだものではないのだが、なってしまったものは仕方がない、後はもうやるしかないと頑張ってはきたものの、こうも信用されていないのでは俺がこの立場に立っている意味とは……と考えざるを得ないな」

「騎士団長に推薦され、そしてその立場を与えられているのですから信用されていない訳ではないのではないのですか?」

「俺はお飾りみたいなものさ、俺が推薦されたのは本当に体力をかわれたのと、このたて続く騎士団長の不幸に巻き込まれたくないという考えの人間の押し付けに過ぎない」

「急逝、事故、過労ですものね……」

「騎士団長の息子というだけで出世に乗った若造めと揶揄する人間は未だに多い、そんな輩の上に立つ為にも俺は自分の仕事を投げ出せないし、きっちり務め上げなければならないのだよ。だからお前達に構っている暇などない……ないはずなのだがなぁ…………」


 叔父は大きく溜息を吐く。


「俺はエリオット王子にそれ程までに信用されていないのだろうか?」


 叔父は、今度はカイトを見やってそう言ったのだが、カイトは戸惑いの表情だ。


「え? いや、どうなんでしょうね……?」

「王子から何か聞いていたりはしないのか?」

「僕、あの人と話した事ほとんどないですし、自分があの人の子供だともあまり思っていないので、親子関係でそういう話をしているのかと聞かれても全く分からないです」


 またしても叔父はびっくり眼でカイトを見やる。


「どういう事だ? 王子は失踪から戻ってすぐ自分に子供がいる事を公言した。近いうちに我が子を王家に迎え入れると彼はそう言っていたのだぞ?」

「ちょ……止めてくださいよ! そんな話知りませんし、聞いてませんよ! それに僕、ランティス王家の人間になる気全然ないですから!」

「君はその為にこの国に来たのではないのか?」

「今僕がこの国にいる事をあの人は知らないはずです。僕があの人の子供だという事も公にしていないし、今後する予定もありません。僕はこの一年の留学期間が済んだら、普通にファルスに帰ります」


 叔父は戸惑い顔で「じゃあ、なんでわざわざこの国に来たんだ?」と不審顔を隠さない。


「この交換留学はマリオ王子の為だからですよ」

「マリオ王子の? この話しはアジェ王子からの提案だったと聞いているが?」

「貴方はアジェおじさんの事も知っているのですね」

「まぁ、それはな。彼がこの国の王子だと判明した諸々の事件に俺は散々巻き込まれたからな」

「では、マリオ王子が命を狙われていた事は……?」

「そんな噂は流れていたが……事実なのか?」

「その辺の話しは本当に何も知らないのですね……」


 叔父がどこまでの事を知っていて、何を知らないのかが分からない。カイトの父親エリオット王子は、やはり彼には何も話していないという事なのだろう。


「もし万が一ファルスで王子に何かがあった場合、疑われるのはファルス王国。王子は既にランティスにいる時点から命を狙われていたというのに、そんな事になっては困る、だからカイトはこちらに送られたのですよ。王子と交代でランティスにやって来た私達は人質のようなもの、カイトはいざという時の為の保険のような役割なのです」

「確かに交換で留学している王子の身に何かがあれば残されたファルスの留学生がその矢面に立たされるのは必然だな、はは、まさかたかが交換留学にそんな思惑があるとは思っていなかった。王子の留学は病気療養的なもので、他意はないと思っていたのだが、物騒な裏があったのだな」

「本当に貴方は、何も知らなかった……?」


 「あぁ、全くな」と叔父は首をふった。


「しかも自国の王子を他国の人間に守ってもらうとは、全く我が国は一体何をしているのだろうな情けない。だが腑に落ちないのはお前の存在。王子の息子だけが来たのならばいざという時にお前達の言う通りに保険の役割も果たすだろう。だが、お前は違うはずだな、メリア王家のユリウス王子?」

「私は王子ではありません、貴方もそれは分かっているはずです。母は王家と完全に関係を断っている、そもそもメリアは王政を廃止しようとしているのに、そんな事を言っても意味はありません」

「それでも長らく存在が隠されていたエリオット王子の隠し子がメリア王家の人間と関わりを持っているというのは、どう考えてもあまり好ましい展開ではないな」


 叔父は難しい顔でそんな事を言う。けれどある意味これは想定内の話でもある。彼がメリアを嫌っている事は知っていた、むしろ今までそれを言い出さなかった事の方が不思議なくらいだ。


「私はあくまでファルスの一国民としてカイトの護衛に付いています。メリアとの関係を疑われるのは心外です」

「例え俺がお前の言葉を信じたとしても、いざという時に人の考える事は大体同じだぞ。ランティスの人間はお前を信じない、お前にメリア人の血が流れている限りな」

「ランティス人は皆馬鹿ばっかりなんですか?」


 ふいに傍らから声を上げたのはカイトだ。


「だから僕は嫌なんですよ、ランティスに来てからこんな事ばかり。自国至上主義は結構ですけど、その人間の個を見もせずにメリア人だからファルス人だからと頭からこういう人間だと決めてかかる。僕はそういうのは大嫌いです」

「はは、なかなか言うな小僧。顔はそうでもないが、そういう物をはっきり言う所は王子によく似ている」

「嬉しくないです、僕はあの人嫌いですから」

「嫌い? 父親を嫌っていて何故わざわざここへ来た? そんな風に思うのならファルスで大人しく暮らしていればいいものを」

「困っている人がたくさんいたからですよ。けれどその中に僕の父親は入っていない。僕の大事な人達を傷付けるような奴を父親だなんて思いたくもなかったけど、僕の中に流れるこの血が役に立つならとそう思って来ただけです」


 カイトは怒ったように叔父に断言する。叔父はその言葉にまた戸惑い顔だ。


「僕には生涯を誓った番相手がいます。それは貴方達が毛嫌いしているメリア人です。これを言えば貴方はもしかしたらお前はメリアに懐柔されているとでも思うのかもしれませんが、そんな事はどうでもいい。僕は好きな人と一緒にいたいだけ。それを邪魔する人達がいて、僕達を放っておいてくれないから僕はここへやって来た。正直ランティスのごたごたなんてどうでもいいんですよ、だけどこの国が崩壊すればその火の粉は僕にも降りかかってくる、ひいては僕の大事な人にまで……僕はそれが許せないだけです」


 「これはまた驚いた」と叔父は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「王子の息子はランティス嫌いのメリア贔屓、これはますます持って厄介だ。王子の政策転換も相まって王家の信頼も失墜しそうな勢いだな」

「ランティスの考え方が古いんですよ、敵を作らなければ国を存続できないような国、そもそもおかしいと思わないのですか?」

「ふん、お前達はそんな事まで知っているのか?」

「知っているというより、実体験で差別を受ければ分かります。自分達が一番でそれ以外は全員それより下、そんな感覚は狂っている」

「だけどな、その中にいるとそれはそういうモノなのだと人は錯覚するようになる。それが多数を占めれば尚更にな」

「視野が狭い」

「それが我が国の今の現状なのだよ。ランティスは閉じられた国なのだ。井の中の蛙、大海を知らず、まさにそれだ」

「変えようとは思わないのですか?」

「王家の人間が率先してそれを行っているというのにか?」


 叔父は俯き首をふる。


「いや、それは今までの話だな。正直俺は王子の今回の方向転換は歓迎していたりもするのだよ」

「そうなのですか?」

「ただ、やり方が乱暴すぎる。王子は他人の意見を聞こうとしない、それでは周りが付いてこない」

「その周りが敵だらけだとしたら……?」

「俺も王子に敵認定されているという事か?」

「例えばの話ですよ」


 「さも有りなん、と言った所だな」と叔父は溜息を零した。


「俺は王子に苦言を呈する事が何度もあった、王子には嫌われているのだよ」

「苦言……?」

「俺は兄貴とは違ってメルクードには留まらず各地を回る巡回騎士だった。色々な場所へ派遣されて色々なものを見てきた。その中でおかしいと感じていたのはメリア人への扱いだった……」

「……え?」


 正直意外な言葉に驚いた。まさか彼の口からメリア人を擁護するような言葉が出るとは思わなかったのだ。


「少し長くなるが俺の話を聞く気はあるか……?」


 叔父が真っ直ぐこちらを見やる。私は「それは勿論」と頷いた。



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