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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
運命に祝福を

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変わりゆく者③

「あの時の貴方の恫喝は本当に怖くて忘れたくても忘れられません。普段温厚な父が私達の前で怒りを露にした姿も、母が泣いて頭をさげる姿も私は忘れられないのです……貴方は私達家族を疎んじている、私はそれを覚えています」

「そう思うのなら黙って無視すればいいものを……だが、お前達は何やら俺に用事があるようだな? そっちの小僧は……っと、小僧などと言っては失礼だったな、そちらの君はエリオット王子の御子息なのだろう?」

「聞いていらっしゃったのですか?」

「ああ、お前達が私を訪ねて何度か我が家を訪れている事は聞いている。何の用事かは知らないが、面倒事はごめんだぞ」


 過去の記憶とは裏腹に叔父は淡々と返事を返して寄こす。そこには怒りも憎しみも感じられず、時間が全てを解決したのか、それとも遠回しな拒絶なのかと私は考える。


「私の話を聞いてもらえますか?」

「聞くだけなら聞こうじゃないか、さぁ、お前達、いい子で遊んでおいで。悪戯いたずらするんじゃないぞ」


 叔父の言葉に子供達は元気よく返事を返して駆けて行く、彼は子供達に余程好かれているのだろう。叔父のこんな姿は正直意外だ。

 私は彼は子供嫌いなのだと思っていた。両親と叔父との言い合いの最中、泣き出した母を守るように前に出た姉を叔父は一瞥のもと振り払った。転がされて大泣きをする姉を見て父は更に怒り狂ったが叔父は姉に対して謝罪の言葉を口にする事はなかった。叔父のその態度は『子供』にと言うよりは『メリア人の子供』に向けられた態度だったのだと改めて感じずにはいられない。


「ここでは落ち着いて話もできない、ついて来い」


 そう言って、彼はのそりと家の奥へと私達を導いた。私達は慌ててそれに続く。

 叔父は、人の上に立つ騎士団長という立場の人間だ、父もそうだが、そういう人間は他人の前ではよほど気を許した相手の前以外では、どんな時でもきりっとしているものだ。けれど彼は何故だか少し覇気がない。

 騎士団長という仕事が大変な事は父の姿を見ていればよく分かる、だがそれにしても彼の顔色はすぐれないし覇気もない、私はそれが気になった。

 家の中は外の喧騒を思えばとても静かで少し寂しいくらいだ。叔父は私達を彼の自室であろう部屋に通し椅子にかけるように促した。

 その部屋は綺麗に片付けられていて、あまり物の置いていないシンプルすぎるほどに生活感のない部屋だった。


「それで、お前達、俺に何の用事だ?」

「単刀直入にお聞きします、現在ランティス王家では色々な問題が起こっているというのは事実ですか?」

「はは、本当に単刀直入な上に藪から棒だな。お前達はそれを聞いて一体どうする? ファルス人であるお前達には関係のない話だろう? 下手に首を突っ込むような事はするな、そんな話、端から聞けばお前達がファルスからの間者だと疑ってくれと言っているようなものだぞ?」


 溜息を零すように叔父は苦笑する。確かに私のその言葉は率直過ぎると言われてしまえばその通りなのだが、彼に嘘は吐くべきではないとそう思うのだ。下手に遠まわしに尋ねるより、いっそ率直に尋ねた方が彼は答えてくれるのではないかとそう思ったのだ。


「ついでに言えば、俺がその話をお前達に話せば俺がランティスの裏切り者だと糾弾されかねん内容でもある、もし本当に何かが起こっていたとしても、俺はお前達にそんな話しはしやしない」

「それは、やはり何かが起こっているという事で間違いないという事ですね」

「ノーコメントだ、聞きたい内容がそんな話なら、俺には話すことは何もない、帰ってくれ」


 叔父は面倒くさそうに首をふった。


「だったら何故貴方は私達の話を聞こうと思ったのですか?」

「お前が兄貴の息子だからだ。兄貴から何か伝言でも託されたのかと思ったが、そういう訳でもなさそうだしな、そういう話でないのならお前達に与えられる情報はこちらには何もない」

「父から何かを託されていると思いましたか?」

「兄貴とはもう長い事顔も合わせていない、それこそお前達家族がこの家に初めて挨拶に来て以来だから10年以上だ。そんな折に何か話したげに兄貴の息子がやって来れば、それは何かしらの伝言を託されてきたのかと思うだろう」

「貴方はそれを聞く気がある……?」

「内容によるな」


 彼の瞳は真っ直ぐこちらを見据えている。私の言動全てから何かを見出そうとするように、その瞳の前で嘘は吐けない鋭さがある。


「私は確かに父からの伝言を預かってきています」

「ほう?」

「父からの伝言は一言だけ」

「もったいぶらずに言ってみろ」

「私はお前を信じている……と」


 私の言葉に叔父は眉根を寄せて瞳を逸らすと「はは、全く兄貴らしい物言いだな」と、掌で顔を覆うようにして自嘲するような笑みを零した。


「貴方には父のこの言伝の意味が分かりますか?」

「あぁ、恐らくはな……ファルスという国は怖い国だな、一体どれだけの情報を掴んでいる?」

「まだ、掴んでいる事実はそれほどある訳ではありません」


 掌で顔を覆ったまま、叔父は「そうか」と一言呟いた。


「貴方は私達家族を憎んでいる、母の母国であるメリアという国も、もしかしたらこの国ランティス自体も……」

「あの時の俺を見ていたお前なら、そう考えるのは妥当だな」

「けれど、今私はこうやって貴方と話していて、貴方からはそれ程の憎しみを感じない。先程おじい様の叔父さんという方にも暴言を吐かれましたが、貴方はそんな事はしなかった。貴方は何かを知っていて何かに苦悩している、それは私の気のせいでしょうか?」

「お前は本当に兄貴によく似た息子だな、まるで昔の兄貴を相手にしている気分だよ」


 ようやく叔父は顔を上げて、瞳は真っ直ぐこちらを見据える。


「お前達はそれを知って一体どうする?」

「お手伝いできる事があるのならば、お手伝いをさせていただきたい」

「内政干渉だな」

「私はそうですね、けれどカイトはエリオット王子の一人息子です」


 叔父の瞳がカイトをちらりと盗み見る。


「まだ子供だ、こんな事に巻き込むな」

「巻き込んできたのはランティスの方ですよ。昨年、ファルスでは大きな事件がありました、それはファルス王国転覆を目論むような物だったのです。そして、その裏で動いていたのがランティスの商人……」


 「ほう」と、彼は片眉を上げた。


「その話には興味があるな、話せ」


 それは武闘会の事件、ランティスの商人が持ち込んだ爆薬、そして何故か騎士団員を中心に蔓延っていたファルス至上主義の宗教団体。その背後にはやはりランティスの商人の影が見え隠れしていた。

 ランティスは人種差別の激しい国だ、そんな考え方がファルス至上主義の宗教団体の上にも蔓延っていて、どうにもその気質はランティス人に通じるものがある。


「結局その商人はどうなった?」

「ランティスに戻ってからはもう足取りが掴めなかったそうです。その辺は現在こちらで調査が進んでいるはずですが……?」

「そんな話、俺は聞いていない」

「おかしいですね、そんなはずはないのですが」


 私は戸惑い、叔父は険しい表情で腕を組んだ。こちらとしてもそんな話しは寝耳に水だ、調査にあたっているのはカイトの父親エリオット王子で、ランティス王家自体なのだから、当然その話は騎士団長である彼の耳に入っているものと思っていたのに、これは一体どういう事だ?


「その調査は誰がしていると?」

「……エリオット王子ですよ」


 私の言葉に叔父は大きく目を見開く。


「王子が? 何故……? いや、その話が本当ならばそんな話が俺の耳に入ってこないのはどう考えてもおかしいだろう?」

「けれど、それは事実なのです。エリオット王子はカイトに会いに来たその足で、我が国ファルスの国王陛下にその事件の概要を聞かされ事件の解明を約束した。私はそのように聞いています」

「確かに昨年王子は一度失踪騒ぎを起している、その後帰ってきた王子は人が変わったように政治に介入してくるようになった、それはそのせいだったのか?」


 叔父の戸惑いがこちらにまで伝わってくる。それに対して私も困惑してしまう。何故彼はここまで何も知らないのだろうか? それともこれは彼の演技……? いや、けれど彼の態度にそんな嘘のような物は感じられない。


「それまで、王子は国の政策には関わっていなかったのですか?」

「いや、そういう訳ではない、が、失踪直後から王子の政策の方向性が今までと180度変わった、俺達はそれが不思議で仕方がなかったのだが、王子がそうやって政治に対して方向転換するような事がその時にあったと言う事だな?」


 叔父は何も知らなかったというような表情でそんな事を言うのだがまるで意味が分からない。王子は叔父を信用していないという事なのか?

 確かに叔父には黒い疑惑がある、これはそれに関係しての事なのか?

 叔父はまた困ったように首をふった。


「はは、こんな話を他国の人間に聞こうとは、俺のランティス騎士団長という立場は一体何なのだろうな……」


 叔父の表情はまた自嘲の笑みだ。


「ひとつ聞いてもいいですか?」


 私の問いに叔父は「なんだ?」とそっけなく返して寄越す。


「父から聞きました。ランティスでの出世は年功序列、叔父さんの騎士団長就任はその年功序列を外れて少し早い出世だったとか? 何か理由があるのですか……?」

「ふむ、確かにそうかもしれないな……俺のこの出世はある意味偶然の産物なのだよ」

「偶然の産物?」


 「あぁ……」と叔父は頷いて語りだす。



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