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運命に祝福を  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章:二人の王子

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恋慕④

「あれ何だろう? 何か人だかりができてる」


 仕事に向かい詰所で今日の仕事の確認を済ませてユリウス兄さんと連れ立って歩いて居ると、大きな伝言板に何故か人だかりが出来ているのに気が付いて、僕達はその人だかりへと目を向けた。


「ん~よく見えないですが、何かの募集ポスターかな?」


 ユリウス兄さんは瞳を細めるようにして遠目にそのポスターの内容を確認して「あぁ!」と一言頷いた。こういう時、背の高いユリウス兄さんはとても便利だ、僕には人だかりで内容までは全く見えない。


「これ、あれですよ。私達と一緒に行く人を募集しているみたいです」

「一緒にって、メルクードに?」

「そう。父さんが人を募るような事は言っていたけど、どうやら試験もやるようですね」

「試験……僕も?」

「いや、カイトは確定でしょう? お前が行かなきゃ話にならない」

「他の人は試験があるのに、僕だけパスなの? いいのかな?」

「それで言ったらたぶん私も試験はないでしょうから、いいんじゃないですか?」


 費用は全て国持ちで他国を訪問、学ぶ事もできるとあってその募集に興味を示す若者はどうやらとても多い様子だ。


「俺も受けてみようかな」

「若干名って何人だよ?」

「試験って何やるんだろうな? 実技試験ならともかく紙の試験だと俺は無理かも……」


 あちこちから様々な声が聞こえてくる。その声を横耳にしながら僕達は今日の勤務先に向かう。

 ユリウス兄さんは分団長なので行き先が同じでも兵卒である僕とはやる仕事が違う、兄さんは指示する側で僕達は指示される側。それぞれ持ち場が違うので兄さんと別れて現場に向かうとまた昨日のあの嫌味なアルファ、トーマス・トールマンが居て、僕はつい顔を顰めてしまった。

 向こうもこちらに気付いたようで、何故かこちらに寄って来る。今日は取り巻きはいないようだが嫌いな人間に寄って来るその神経が分からない。


「おい、お前」

「なんですか?」

「昨日のアレは何なんだ? アレは何かの合図なのか?」


 あぁ、そういえば昨日は話途中で例の信号弾を見て、僕はツキノの元に行ったのだったと思い出す。


「貴方には関係のないことです」


 ふいっとそっぽを向くと、彼は気を悪くしたのだろう苛立った様子で「おい!」と僕の肩を掴んだ。僕はその腕を振り払いきっと彼を睨み付ける。


「何なんですか? それを知ってどうするんですか? 知った所で貴方には関係のない話ですよ!」

「だったらお前には関係があるって言うのか! アレは騎士団で使ってる信号弾の一種だろ! 平の兵卒であるお前に何の関係がある!」

「僕の大事な人に何かがあったって合図ですよ、もういいでしょう! 聞いたってどうせ貴方には分からないでしょう!」


 男の顔が微かに歪む、もう本当に一体何なんだ!?


「どういう事だ? 何でそんな信号が上がるんだよ、そいつ一体何者だ?」

「だから貴方には関係ないって言ってるのに……」

「こそこそ隠すから気になるんだろう! そいつは何だ? お前の番相手だとでも言うのか?」

「だったら何だって言うんですか? それこそ関係ないじゃないですか!」


 もう段々相手をするのも面倒くさくなってきた。いい加減絡むの止めてくれないかな。


「お前はまだ番持ちじゃないはずだろう!」

「近日中になる予定なんで放っておいてください」


 僕のその言葉に彼は何故か激高したようにかっと顔を朱に染め、再び僕の肩を掴み「そいつは誰だ?」と問うてくる。


「本当に何なんですか!? 関係ないでしょう!」


 ふいにまた昨日と同じ彼のフェロモンの薫りが降り注ぐ。けれど、やはりそれは僕には風で飛ぶ程度にしか感じられず、僕は彼の腕を振り解いた。


「フェロモンで屈服させようとする、そういうやり口、僕は嫌いです!」

「なんで効かない……?」

「は?! そんなの、貴方のフェロモンが大した事ないからに決まってるでしょう!」

「ふざけんなっ! 大体お前は俺の事をベータ呼ばわりしたりして生意気なんだよ!」

「だったらわざわざ突っかかってこないでくださいよ! こっちだっていい迷惑だ!」


 こんな何の得にもならない言い合いをしていても何の益もないというのに、彼は僕に喧嘩を売り続ける。


「そんなに僕が目障りなんだったら僕は間もなく消えるんで、どうぞ好きにしてくださいよ」

「あぁ?! どういう意味だ!」

「そのままの意味ですよ! 僕はもうじきランティスに渡る、その後の事は分からないけど、たぶんメリアに嫁ぐ事になるでしょうから、僕がここにいるのはあと少し。望み通りに消えてなくなりますから、後はどうぞ好きにやってください! そもそも何でわざわざ僕に絡んでくるんですか! 目障りなんだったら寄って来ないでください!」

「な……ランティス!? メリアに嫁ぐってどういう事だ!」


 もう本当に彼が何にこんなに興奮しているのか意味が分からない。


「言葉そのままの意味ですよ。僕の番相手がメリアの出なので、僕はメリアに嫁ぎます。それ以外の何でもないですよ」

「お前は、俺のオメガだろう!」

「は? ……はぁ!?」


 突然何を言われたのか分からず僕は硬直する。今、この人何言った?

 「ちょっと、こっちに来い」と引き摺られるようにして、僕は人気のない方へと連れて行かれる。いやいやいや、これやばい奴じゃね? 何がどうしてそうなった?!


「ちょっと離してください! 嫌ですよ! どこに連れ込むつもりですか!? 僕がオメガだからって、そういうのれっきとした犯罪ですからね!」

「喧しい、少し黙れ!」

「黙って、何かされるのなんかごめんですよ! 僕にはちゃんと番相手がいるって言ってるでしょう!」

「そいつは、まがい物だ」

「馬鹿言わないでくださいよっ! 僕とツキノはちゃんと『運命』です!」


 段々に育ってきたとはいえ、僕の体はオメガらしくないというだけで、やはり同年代の少年と変わらない。年上だと思われる彼の力は強く、僕は壁に押し付けられた。


「ツキノ……ツキノ……どっかで聞いた事があるな。まぁ、そんな事はどうでもいい。俺はお前を見て、俺の運命だとそう思ったんだ、だからお前は俺の『運命』なんだよ」

「冗談は大概にしてくださいよっ! それに僕はオメガを格下扱いするような人間、普通に考えたとしても願い下げです!」

「俺の妻になったら、もっと丁重に扱ってやる」

「だから、願い下げだって言ってるでしょう!」


 僕の平手が彼の頬で小気味のいい音を立てた。まさか殴られるとは思っていなかったのだろう、彼は僕の腕を掴む手に更に力を加えた。


「面白い、お前には俺のフェロモンが効かない、今までどんなオメガだってこうすればイチコロだったんだがな」


 また、微かにフェロモンの匂いが増した。その匂いはどうにも不快で僕は顔を顰めてしまう。


「最っ低!」

「最高の褒め言葉だな」


 にいっと口角を上げるように笑った男の顔は醜悪で、僕はどうにかこの場から逃げ出す算段を頭の中で巡らせる。僕にはこいつが理解できない、関わるだけ時間の無駄だ。


「おい、トーマスもうその辺にしておけ。その子は俺の親友の弟みたいなものでな、そういう事をされると俺が困る」


 そこに現れたのイグサルさんで、僕は『助かった』と思ったのだが、彼の僕を掴む手は弛まない。


「イグサル、お前には関係ない。ベータのお前には俺達の関係なんて分かりはしない」

「確かにバース性の人間の事なんぞ、俺に分かりはしないが、そいつが困ってる事だけは見れば分かる」

「これは駆け引きだ、口で何を言った所でこいつは喜んでる。オメガは強いアルファを求める生き物だからな」


 なんという勝手な言い草、僕の周りにはアルファの人間が多いが、ここまで身勝手なアルファは初めて見た。

 イグサルさんも呆れたように「俺にはそうは見えないのだがな」と呟いて僕を見やるので「そんな訳ないでしょう!」と僕は思わず叫んでしまう。

 イグサルさんはその言葉を聞いて「だよな」と呆れたように肩を竦ませた。


「本人もこう言っている、いい加減に離せ。さもないと俺も手を出さん訳にはいかなくなる」

「ベータの人間が偉そうに。トールマン家の恥さらしが、俺に勝てるとでも思っているのか?」

「俺と同じ平の兵卒をやってるくらいだからな、お前がたいした事ないことくらいは分かってる」

「なっ……!」

「武闘会、一回戦でさっくり負けたんだろう?」

「あれは運が悪かっただけだ! 俺の相手にはアルファが何人もいた、ベータ相手だったら絶対負けなかった!」

「まぁ、世の中ベータの次に多いのがアルファだし? こういう特殊な職種にアルファが多いのは仕方のない話だよな。そんなアルファの中でお前は下の方だったって事だろう?」


 彼の顔は怒りで紅潮し、ようやく彼は僕を掴む手を放してくれた。トーマスはイグサルさんを睨み付ける。


「言っておくが、今は勤務中、騎士団員同士の私闘も禁じられている。やるなら今日の仕事が終わってからだぞ」

「ふん! 分かっている、逃げるんじゃないぞ!」

「それはこっちの台詞だな」


 腹立たしげに行ってしまったトーマスの後姿を見送って、僕はイグサルさんに頭を下げる。


「ありがとうございます、助かりました」

「まぁ、あんなのでも一応身内だしな。不祥事を起されると俺が困るんだ。気にするな」

「トールマン家って大変そうですね」

「まぁなぁ、なんせ身内のほとんどがバース性で自己愛が強い。自分達が特別だという事も分かっているから余計にな。俺に言わせりゃ何が特別なんだか分からんのだけどな。それにしてもトーマスの奴がお前に目を付けるとはなぁ。あいつは好きな子ほどイジメたがる子供なんだよ。えらいのに好かれたな、カイト」

「いい迷惑です」


 どちらにしても僕とツキノはきっと近日中には結ばれるはずだ。僕は昨日のうちに噛んでもらえていたらと思わずにはいられない。

 今日はちゃんと家に寄って、チョーカーの鍵を持ってツキノの元に帰ろうと思う。



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