ドラゴンに魅せられて
何か聞こえた気がした。自分はもう死んでいる筈だが。死んでも思考できるようだ。すぐに飽きそうだと思ったが、瞼の感覚がある。生きているようだ。それも飽きたが目を開ける。開けなくても同じだ。
病院ではないと思う。赤い空があるからだ。暖かい風に煙と火の粉が舞っている。ここが病院と言えばまず違うと思うかもしれない。やっぱり病院だろうか。自分は生きているし。刺された傷の治療が必要だ。運ばれのなら納得できる。
死に損なったか。次だ。次も通り魔に期待しよう。事故でもいい。死ねば終わりだ。大して面白くもない世界だ。いつ死のうが、関係ないだろう。世の中は勝手に回る。
しかし身体に固い感触がある。日本の怪我人に対する扱いではないと思う。布団もない。ベットすらない。やっぱり病院ではないと思う。服も違うし。
のんびりと空を見る。病院ではないとしたらここはどこだろうか。煙と火の粉が舞っている。火事でも起きたのだろうか。何か声が聞こえる。人の声じゃない。
グオォォォ!
空に赤い線が飛んでいく。映像で見た、太陽のフレアみたいな色だ。映画の撮影だろうか。自分がここにいる理由がわからないが、見ものだ。起きて見物しよう。
身体を起こす。斜面の草原で寝ていたようだ。屋外病院ではないのが確定した。ここが病院なら訴訟が起きるだろう。右も左も見るが、草である。
これが映画の撮影なら面白い。映画場に香りや温度を足すべきだ。映画で売ればすぐに有名になるだろう。その臨場感かあまりの不快度で訴訟が大量に起きるだろう。熱いし煙臭い。
赤い線が飛んでいった方を見る。左手下の奥だ。結構遠いところにある森から出てきた。森の中に何かいる。
あれはドラゴンだろうか。ドラゴンだ。ドラゴンだと思う。
家一軒では済まない大きさだ。高さは歩道橋位だろうか。上半身が見える。翼と頭も見えた。赤黒い。横顔はトカゲやワニのように見える。
そのドラゴンが火を吹いて飛び立っていった。作り物なら凄い。だが違うだろう。あんな風に火を吐けるわけがない。
あの声は転移すると言っていた。転移した。ドラゴンのいる世界に。人間よりも強大な存在だ。人間が吹けば飛ぶような存在だ。
ドラゴンが真上を飛んでいく。雄大だった。全身が見えた。トカゲよりは太い胴体に黒い腹、大きな赤黒い翼でおの巨体を飛ばしている。ありえない。だが飛んでいる。
斜面を登ってドラゴンの姿を追いかける。
いつかは死ぬからと思っていたが、考えが変わる。あれを殺してみたいと思ってしまった。
死ぬならいつでもできる。
もはや世界が違う。面倒な世界ではない。異世界だ。
いつかは飽きるかもしれないが今は飽きていない。
やりたいようにやろう。
地球よりは面白そうな世界だ、あんな化け物は無理そうに見えたが、異世界だ。殺し合いができたらどんなに幸せだろう。
ドラゴンは青い空と樹海らしき森の彼方に消えていた。
あの声は何と言っていたか思い出す。
スキルが発現したと。ごちゃごちゃ言っていたが、『破綻せし探求者』になった。対象の情報がどうのと言っていた。俺は破綻してるんですか。そうですか。
手を見る。再構築がどうとか言っていたが別にいい。生きているのだから。
後ろを振り返る。焼かれた森が目に入る。大家事ではない。ある程度収まっている。
何故ドラゴンがあそこにいたかはそこに行けば分かるだろう。
死んだら死んだで別にいい。
行こう。
俺は歩き始めた。
ーーーーー
森に入り、ドラゴンのいた場所の向かっているが、森の中は静かだ。何かいそうだが何もいない。木が地面に根を張っていて少し歩きにくい。
茶色の靴も履いていた。スニーカーに近い。
服は灰色の無地だ。ゴワゴワする。
少し歩いて森が拓けた。村がある。良い眺めだ。
木の家は全部壊れている。人らしきものも死んでいる。らしきは黒コゲだからだ。上半身しかない。少し歩くと他も見つかる。
死体、死体、死体だらけだ。黒コゲではない死体もある。真っ二つだ。血と内臓が飛び散っていた。どんまい。
子どもも女も死んでいる。ここにいた奴らは全員死んだのではないだろうか。可哀想に。
ドラゴンに滅ぼされた理由は分からないから不運としか言いようがない。ざまぁ。
あまりの悲惨さに笑ってしまった。こんなの見たことがない。不謹慎だが咎める奴もいない。そしてこれ以上笑う理由もない。やめた。
好都合だ。
火事場泥棒をしよう。手持ちがないからだ。盗まないという選択肢はない。
ーーーーー
物は死体の近くにある武器や一部が壊れた家や崩壊した家から掘り出して見つけた。
マントと長剣、ナイフ、金属の胸当てとバッグを着けた。保存食と革の水袋もあった。布の服と布をいくつか集めた。
他にもあったが他の装備はつけられそうにないし、物が多い。自分の身は一つだ。悔やまれる。
金もあった。袋に入れた。金貨、銀貨、銅貨らしきものが二種類ずつあった。儲けだ。金貨を優先して集めていく。
金貨を寄越せ!
死体は放置だ。バラバラの死体だらけだ。見た目も匂いも酷い。
邪魔だ!
金を持ってないか確認して捨てる。チッしけてやがる!
時間をかけすぎるのもよくないから泥棒を辞める。
長剣だが、落ちていた青白いやうを選んだ。鉄ではない。何かはわからないが軽い。
構えて剣を振る。狙った通りに振れたので振っていく。問題はなさそうだ。鞘に入れて革紐を肩にかける。
装備は整った。
森の中に道がある。そっちにいく。人里にたどり着く必要が出てきた。情報が欲しい。
最後に振り返って見る。
金の無い俺の為に滅びてくれてありがとう。お陰で助かった。
可哀想ではあるが面白くも思ってしまう。死んでしまったのだ仕方ない。死体も多すぎるから葬れない。どんまい。
南無。
じゃあ行こう。
俺はその場を後にした。
ーーーーー
森の中を出たが。視界に広がったのは草原だ。道があるからそこを進んでいく。
途中で小説やアニメであったステータスや鑑定を唱えて見たが何も現れなかった。異世界なのにないのか。クソが。
道を歩く。何もないから飽きそうだと思ったが、これが飽きない。
ドラゴンを見たせいだろうか。
世界が変わったせいだろうか。
それもあるが、人間がゴミのようにされていて嬉しいのだ。
あんなのが自分の世界にいたら世の中はもっと簡単になっていただろう。
草原から何か出てきた。ツノの生えた兎だ。
こっちに向かってくる。
突進がいつ当たるか手に取るように分かる。剣を両手で振り下ろした。
兎は文字通り真っ二つになって死んだ。
「ハハッ!」
殺意を持っていた。殺されて当然だ。笑ってしまった。斬った感触が薄い。剣のおかげだろう。
断面は血と内臓だ。何かある。黒く光っている。
剣でほじくりだした。石だ。布で包んで拭く。
黒曜石に近い。魔石だろうか。バッグに仕舞う。
また道を歩き始める。見渡す限り草原だ。気分が良い。
ーーーーー
しばらく歩いたら日が沈む。夜だ。構わず歩く。
月と星のせいで明るい。歩きながら干し肉を食べた。しょっぱい。
困った。まだ草原だ。木があるところまで行き、登る。何もいないことを祈る。
寝られるか知らんが寝よう。
ウォォーン
狼もいるようだ。飽きなそうだこの世界。
いいね!
ーーーーー
朝だ。うとうとしながらだったから寝た気はあまりしないが調子はいい。回りを見てから木から降りる。
行こう。
疲れてはいないが歩くのは飽きた。
異世界なんだからもっとなんか出てこい!
抑圧から解放