第95話「戦争の終結」
ルビアンは探索水晶を使い、火山の最深部に埋まった邪神の石版を探す。
アタッカーたちは次々と攻撃を繰り出すが、いくらダメージを与えてもすぐに回復してしまう。これではとてもきりがなかった。
「なんで邪神の石版を掘り当てる必要があるんや?」
「ヒュドラーの魔力は無尽蔵だ。でもおかしいんだよ。生物なら魔力は無尽蔵じゃないはずなんだよ。だから俺は理由を考えた。もしかしたら、どこか別の何かから供給してもらってるんじゃないかってな」
「もしその想定が当たってるんやとしたら、あのヒュドラーがこっちを狙っている事にも説明がつくな」
「あいつは俺たちの思考が読めるんだ。だから俺がこの説を思いついた途端にこっちを攻めてきた」
ヒュドラーがルビアンを追いかけ、追いつこうとしていた。
だがそこにアタッカーたちの攻撃が炸裂する。
ヒュドラーの目先がディアマンテたちに向いた。
彼女らはヒュドラーの攻撃をかわしながら反撃を繰り返している。
「桃、ここを真っ直ぐに掘ってくれ」
「了解なのです」
「ルビアン、ヒュドラーがこっちに来るで」
「ったくしつけーな。あの5人を相手にしながらここまでやって来れるなんて大したもんだ」
「感心してる場合かっ!」
綺羅がツッコミを入れながらもルビアンたちは地面を掘り続けた。
桃はドーム状のバリアをピラミッド状に尖らせるとそれを高速回転させ、ドリルと同じ要領で地面を高速で掘り進めた。防御魔法に精通した彼女ならではの応用である。
「カーネリア、今ここがやられたら桃が生き埋めになっちまう。絶対に守りきってくれ」
「分かった」
カーネリアは巨石の魔法を使い、巨大な岩をヒュドラーと挟んだ場所に置いた。
ヒュドラーは執拗に巨石を打ち破ろうと強力な爪を使い巨石を削っていくが、それをディアマンテたち5人が必死に止めようとする。
彼女らは巨石の上に陣取り、ヒュドラーの攻撃を少しでも遅らせようと猛攻を続けた。しかしそれでもヒュドラーは巨石を破壊し続ける。
「桃、まだかっ!?」
「あと少しです!」
間に合ってくれ。この巨石が破壊されれば終わりだ。
ヒュドラーがついに巨石を破壊する事に成功した。そしてヒュドラーの爪がルビアンたちに襲いかかる。
「ちっ!」
アンがルビアンたちの盾となって吹っ飛ばされた。
「「「「「!」」」」」
「アンっ!」
ヒュドラーの爪にはアンの血がへばりついている。次は自分が盾になろうとディアマンテが守りの態勢に入った。
すると、穴の奥から桃が急いで戻ってくる。
「ルビアン、発見しました。邪神の石版です。別のアイテムも一緒についてきましたけど」
「よくやったぁー! 偉いぞっ!」
「えへへ、その水晶のおかげなのです」
「ディア、光の魔法をこの石版にぶつけてくれ」
「相分かった」
ディアマンテが手の平から強烈な光を出すと、その光に反応するように邪神の石版がサラサラととけ始め、段々とその姿が砂のように消えていく。
「光の魔法が効いている」
「やっぱりな。こいつは光に弱いんだ。だから太陽が届かないように雲で日光を遮断してたんだ。そしてこいつの無尽蔵なエネルギーの源こそ、この邪神の石版だったんだ」
ヒュドラーが苦しそうにもがき苦しみながらも最後の攻撃を繰り出した。
「無駄だ。お前の攻撃は――妾には届かぬ」
邪神の石版が消滅すると同時にヒュドラーの体もまた、攻撃がディアマンテに命中する前に砂の如くサラサラと散っていくように消滅する。
しばらくすると、ヒュドラーの姿は跡形もなくなり、黒い雲は日光と入れ替わるが如く消えていき、再び海の水が大地へと戻り、そこは再び海底となった。
やっとの思いでヒュドラーとの戦いは決着し、全員がホッと胸をなで下ろした。
「ルビアン、よくぞヒュドラーの弱点を見破った。見事である」
「あの黄金の石版が大きなヒントになったんだよ」
「黄金の石版?」
ディアマンテがきょとんとした顔で首を傾げた。
「ああ。考古学者の人が言うには、黄金の石版は光の魔法を発動するために必要なアイテムだったらしくてさ、3人の勇者は聖なる武器の力を結集させて、ヒュドラーを倒すのに必要なアイテムをその場で作ったんだ。でも邪神の石版は消滅しなかったから、それでヒュドラーの体だけが残った」
「なるほどな、そこまで見抜くとは大したものだ」
「アンっ! しっかりしろっ! アンっ!」
「「「「「!」」」」」
ルビアンたちがその必死に叫ぶカーネリアの声に反応し、9人が心配そうな顔のままその場に集まってくる。
アンの体からは5本の爪で切り裂かれた跡が残っており、瀕死の重傷を負っていた。桃がエンポーをかけても傷が一向に回復せず、血は止まらないままであった。
ヒュドラーが持つ魔力の爪は回復をも防ぐ呪術の魔法がかけられていたのだ。
「そんなっ! 全然回復しないのです!」
「済まない……みんな……私はもうここまでらしい」
「馬鹿言うなっ! まだお前と決着をつけていないんだぞっ!」
カーネリアは泣き叫びながら心からアンの生還を願った。彼女の涙がアンの体にポタポタと落ちる。
だが彼女の願いも空しく段々とアンの息が浅くなっていくばかりである。アンは最後の力を振り絞りながらかすれ声で話し続けた。
「カーネリア……私のために泣いてくれるのか?」
「当たり前だろっ! お前は大事な仲間だっ!」
「――もし戦争がなかったら、お前とは友達になれたかもしれないな。ああ……平和な時代に……生まれたかった」
アンはそう言い残しながら涙を流した。
「だったらよ、これから平和な時代を作っていけば良いじゃねえか」
「!」
彼女の最期の言葉を打ち消すかのようにルビアンが言い放つと、彼女の体を蝕んでいた傷が徐々に癒えていく。
「ふぅ、呪術の魔法が傷に込められてたから、回復するのが難しかったぜ」
「エンポーでも回復できなかったのに、一体どうやって回復したのです?」
「回復の魔法だと呪術の魔法に邪魔されるし、解除の魔法だと強すぎる呪術の魔法を解除できなかった。だからこの2つを合体させたんだよ。名づけて回復解除魔法だ」
「そうかっ! 合体魔法はそれぞれの魔法効果を倍増させる相乗効果がある。合体魔法の作用を利用して、解除の魔法を強化したわけだな?」
「ああ、目論見は成功だ。もう大丈夫だぜ。アン」
「ルビアン……」
アンが顔を赤らめながらルビアンの名を呼ぶ。この時からアンはルビアンの事を忘れられなくなった。
こうしてこの勝者なき戦争は終結したのだった。
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