第94話「起死回生の一手」
ルビアンのカウントダウンが残り5秒を切った。
彼はバリアが解除される瞬間だけ、直撃している攻撃を一時的に全て跳ね返せる事を知っていた。そのタイミングで作戦攻撃を仕掛ける事を目論んでいたのだ。
「ゼロッ! 今だっ! 解除しろっ!」
「分かったのです!」
桃が仕掛けていたバリアが解除されていく。
その直後にワンナイトパーティの全員が動き出した――。
まずは頼が植物の魔法を使い、地面から植物を生やしてヒュドラーの9つの首を縛る。ヒュドラーが毒の息を発した。しかし植物は一向に枯れなかった。
「植物が枯れないのです」
「なるほど、そういう事かいな」
植物の魔法によって生えた植物にはルビアンの手が添えられていた。彼は自動瞬間回復の魔力を植物に込め、それによっていくら攻撃を受けても植物が常に回復し続けるようにしたのだ。
「ダメージを受けるよりも回復のペースの方が早ければ枯れる事はねえんだよ。今だっ! 全部の首をはねちまえっ!」
「待っていたぞこの時を」
「ああ、目覚めたばかりで悪いがまた眠ってもらうぞ」
アン以外のアタッカー5人が一斉に攻撃を仕掛けた。
加里の一点突き、カーネリアの長剣に岩をまとった長剣から繰り出される岩石剣、ジャスパーの爆破剣、ディアマンテの王剣から繰り出されたロイヤルスラッシュ、翡翠の死神の鎌が次々とヒュドラーの首を切り落としていき、9つ全ての首を切り落とすと、胴体が強く光り、切り落とされた首が次々と再生しようとしていた。
「今だっ! フラムを投げろっ!」
ルビアン、綺羅、桃、頼の4人が一斉にフラムを再生しかけている首元に投げた。
フラムが直撃した事で首の再生に遅れが生じたばかりか首の内部まで焼き焦がされ、再生ができない状態になっていたのだ。
「どうやらここはセオリー通りみてえだな」
「ああ、再生場所を炎で焼かれたら、焼かれた場所が邪魔で再生ができない。考えたな」
「まあな。ずっと後衛でモンスターを観察いていた甲斐があったってもんよ。すぐに再生するモンスターはこれで対処してたんだよ。アン、あの胴体をぶち抜いてやれ」
「ああ、任された」
アンはこの攻撃中ずっと力を貯め込んでおり、炎の魔法、雷の魔法に加え、氷の魔法の魔力までをも使い、その火力を増していた。
「いくぞっ! フリーズフレイムボルト!」
アンの姿が一瞬で消えると、彼女はヒュドラーの胴体にまですぐに到達し、渾身の一撃をクリーンヒットさせた。
ヒュドラーの胴体は燃えており、そのまま動かない状態となっている。
「やった……のか?」
「もう生きてはいないはずだ。私の攻撃は様々な種類の魔法を込めるほどにその威力を増す。ルビアンたちが時間稼ぎをしてくれたおかげで、火力を最大にまで上げる事ができた」
ルビアンたちがホッと胸をなで下ろしたその時――。
「「「「「!」」」」」
ヒュドラーの胴体が紫色の光を放ち空中へ浮かんでいく。
真っ黒な胴体としっぽだけだったが、胴体の下からは足が、首があった場所の真下からは5本の指と凶悪な爪を持った腕が生え、背中からは巨大な翼が生えた。
そして最後に今までよりずっと長く太く力強い首と頭が生えてきたのだ。その鋭い眼光と彫りの深い頭はルビアンたちを震え上がらせた。
海蛇のような姿はもうそこにはなく、恐ろしくも禍々しい究極体のドラゴンとなっていた。
ヒュドラーが雄叫びを上げ、その風圧だけで周囲が吹き飛ばされそうな勢いだ。
「何だとっ! ヒュドラーが……復活した」
「それだけじゃない。さらに強くなっている」
「ああ、古文書に書かれてあった通りだ」
「倒したと思ったら、さらに狂暴化したって書いてあったからな」
「どういう事なのです?」
「ヒュドラーの事が書かれてあった古文書には、確か3人の勇者が倒した後、さらに狂暴化して復活したって書かれてあった。恐らくあの心臓部が攻撃を受けると、慌てて生命エネルギーを活発化させるんだ」
「どっ、どうするんですかぁ? このままじゃやられちゃうのですぅ!」
「桃っ! 防壁の魔法だっ!」
「はっ、はいっ!」
ヒュドラーが紫色の光線を勢いよくルビアンたちに放った。
桃は咄嗟に先ほどと同じく防壁の魔法を展開するとドーム状のバリアが現れた。
「「「「「うわああああああっ!」」」」」
すぐにバリアを破られると全員が吹っ飛ばされ、海の水があった場所を転がり回っていた。
「か、貫通能力だとっ! しかも技の威力まで上がっている」
全員攻撃を防ぎきれなかった影響からか、体力は既に限界を超えていた。そこに全体回復魔法の魔力が降りかかると全員が体力を回復する。
「ルビアン……」
カーネリアがルビアンの名を呼ぶ。彼はまだ諦めていなかった。
ルビアンがその目でヒュドラーを睨みつける。ヒュドラーもまたルビアンを睨みつけた。その間に再び全員が立ち上がる。
「ルビアン、もう撤退するべきではないか?」
ディアマンテがルビアンに尋ねた。彼女は立場上このまま戦い続けるよりも王国民たちを守る事を優先したかった。
だがここで従うルビアンではないとみんな分かっている様子だった。
「いや、俺は諦めねえ!」
ルビアンは古文書の内容を必死に思い出そうと目を閉じた。
思い出せ。古代人たちがヒュドラーを倒せたなら、俺たちにだって倒せるはずだ。確か黄金の石版が光り出して、それでヒュドラーを――ん? 光? もしかしたら!
「――ディア、あいつを倒せるかもしれねえ」
「何か思いついたのか?」
「ああ、みんな協力してくれ」
ルビアンが周囲に向かって呼びかけると、みんな1人ずつルビアンに向かって安心したような笑みでコクッと頷いた。
「あの邪神の石版を探してくる。古代の王冠と始祖の宝珠と一緒に埋まってるはずだ」
「掘り出し物なら得意なのです」
「俺も探し物にうってつけのアイテムを持ってきた。一緒に探そうぜ」
「はい」
ルビアンはアタッカー5人にヒュドラーを引きつけておく事を命じると、カーネリア、綺羅、桃、頼と共に埋まってしまった邪神の石版を探そうと火山へと向かった。
ヒュドラーはその狙いに気づき執拗にルビアンを狙い始めた。
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