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第89話「償いと復興」

 ガーネは悲しさや虚しさを一身に背負いながらも決意する。


 またあの時のように平和な食堂を取り戻したい。落ち込んでいても仕方ないんだと自らに言い聞かせるように心の中で呟いた。


「あなたたちは……上の命令に従っていただけなのよね?」

「ええ……言い訳にしかならないけど」

「ならあなたたちも立派な犠牲者よ。でも責任は取ってもらうわ」

「「……」」


 加里も翡翠も黙った。一体どんな罰を下されるのやらと。


「2人にはしばらくうちで働いてもらうわ。それがみんなへの償いよ」

「……ああ、任せろ」

「了解した。これからよろしく頼む」


 ガーネは2人を殺したいとまでは思わなかった。家族を失う悲しみをこの2人の家族にまで体験させるのはむごい仕打ちと考えたのだ。


 そんなガーネの優しいところにルビアンはホッと笑みを浮かべた。


 こうして加里と翡翠はジルコニア軍を辞め、ジルコニア軍四天王はここに消滅した。


 2人共名目上は捕虜という事になっており、その事はジルコニア側にも伝わっていた。


「ルビアン、うちらしばらくは王都の建物の修繕作業を手伝う事になってるから、食堂を手伝う事はできひんねん」

「女王陛下からの命令だ。申し訳ない」

「それは良いんだけどよ、2人は料理できんのか?」

「「もちろん」」


 加里も翡翠も真顔で答えた。


 カーネリアはため息を吐きながら壁に手を当てて落ち込んだ。


 ジルコニアでは女性が家事育児をするのが当たり前である。2人は攻略した土地にジルコニアの文化を伝える入植の担当でもあったため、料理にはかなり精通している。


「そう落ち込むなって。カーネリアも十分役に立ってるんだからさ」

「ルビアン……」


 カーネリアが顔を赤らめてルビアンの名を呼ぶ。


「ちょっとルビアンと2人にしてもらえる?」

「あ、ああ」


 ルビアンはきょとんとしながらもガーネと2人きりになり、加里、翡翠、カーネリアは食堂の外へ行き、修繕の作業を手伝う事に。


「ルビアン、どうしてまた食堂を復活させようと思ったの?」

「――ここは俺の唯一の居場所だ。グロッシュもペリードも、俺を食堂の一員として認めてくれたし、ガーネが雇ってくれなかったら、俺は野垂れ死にしてたかもしれないしさ、それに2人が生きた証をなくしたくないっていうのもある」

「確かにそうね。悲しいけど、ここで諦めたらお父さんに怒られそう」

「ガーネ、俺、何があっても必ずガーネを守ってみせる。だから安心してくれ」

「えっ!」


 ガーネは顔を赤らめ雌の顔になる。あまりの恥ずかしさにルビアンを直視できない。


 ルビアンは心の支えを必要としていた。だがそれはガーネも同じだった。


 2人の距離が徐々に近づいていく。


 ルビアンとガーネは目を瞑り口づけを交わした。


 ずっと抱き合ったまま離れようとしない。この時間がずっと続けば良いのにと2人は願いながら少し距離を取った。


「……ふふっ、しょうがないわね。もうここまできたら最後まであなたにつき合ってあげる」

「ガーネ、今は深刻な食糧不足に陥ってる。この食堂はみんなの生命線になるはずだ。だから準備を進めていてくれ」

「ええ、分かったわ。ルビアンはどうするの?」

「俺はもうひと仕事あるからさ、いつ戻るか分かんねえけど待っててくれ」

「うん、待ってる」


 ガーネが安心したような笑顔で頷いた。ルビアンは食堂から出るとカーネリアを連れて東海岸へと瞬間移動する。もう出撃の覚悟はできていた。


「やっと来たか」

「わりいな。遅れちまった」


 そこには総督部隊と王都部隊の生き残りが揃っていた。いつ出撃する事になっても全くおかしくない様子だ。ディアマンテも王剣をその手に持ち、自ら先陣を切る覚悟ができていた。


 アルカディアのメンバーたちは全員王都の修繕に駆り出されており、彼女たちはジルコニア系を始めとした移民たちと共に街の整備を始めていた。


 全員が高台に上っているディアマンテに注目する。


「皆の者、よく聞け。我々はこれからダイヤモンド島を取り返す。もう知っている者もいるとは思うが、ジルコニア帝国丞相、花崗御影をここで倒しておく必要がある」


 周囲が騒めき、彼らの多くはようやくダイヤモンド島奪取の目的を知る。


「今ダイヤモンド島を取り返さなければ、アモルファスどころではない。この世界そのものが滅びてしまうほどの重大な危機となろう。そうなる前に、花崗御影を倒す!」

「「「「「おお~っ!」」」」」


 ディアマンテが理由の詳細を伏せながら説明する。彼女が王権を空に向けると、それに共鳴するかの如く、兵士たちが雄叫びを上げ全軍の士気が高まっていく。


 ルビアンのそばにカーネリア、アン、ジャスパー、ディアマンテが集まってくる。


「――いよいよ決戦だな」

「ああ。ジルコニア軍はもうほとんど戦力が残ってないはずだ。これだけいればダイヤモンド島の攻略はできるだろうけどさ、攻略するのが先か、ヒュドラーが復活するのが先か、それが問題だ」

「仮に花崗が古代の王冠を持っているとすれば、もう復活させていても不思議ではないと思うが」

「今になっても復活していないって事は、復活には相当なエネルギーがいるって事だ」

「エネルギーだと?」

「ああ、モンスターは宝石によってその力を解放する。まだあいつらがブラッドパールを持ち合わせているとしたら」

「まずい事になるな」


 アンが油断ならぬ表情を崩さないまま最悪の事態を予測する。


 3日前までの戦いによってエンポーを使い切ってしまい、王都が復興するまではしばらく補充もできない状況だ。ディアマンテがルビアンを呼び出したのは、その回復の速さと豊富な回復魔法を持っているからである。


 ディアマンテの号令と共に全員が戦艦に乗り込み、ダイヤモンド島を目指す。


 最後の戦いがここに始まろうとしていた。

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