第80話「戦いの前兆」
モルガンはいつもより遅い歩み足でアジトの扉を開けた。
そこには退院したばかりのメンバーたちが4人揃っており、全員がリーダーの帰りを待ちわびていた。全員が揃う事は少ないが、それでもメンバー間の仲は良かった。
モルガンの他にはオパル、オニキ、スピネ、オブシディがおり、残りのメンバーはアルカディアの資金調達をするべく仕事に参加している。
遠征にも武器やアイテムの購入にはお金がかかるため、討伐隊は誰かにパトロンとなってもらうか、遠征以外の時に討伐隊を代表して別の仕事をして資金調達をするのがセオリーであった。
現在のアルカディアにはパトロンがおらず、メンバーは半数が訓練をし、半数が出稼ぎに行くのがパーティの習わしである。
「みんな聞いてくれ」
「どうしたんだよ?」
「実は……王都部隊の再編制で、私たち全員が……外された」
「「「「!」」」」
その場にいた全員が絶句した。アルカディアは資金不足に陥り、王都部隊に所属していた事で給料をもらっていたのだが、それがなくなった事が告げられたのだ。
「――嘘だよな? そんなはずはないだろう。俺たちだって立派な戦力だぜ。ちょっと今から王都部隊の隊長に文句言って来ようぜ」
「その王都部隊の隊長だが――ルビアンなんだ」
「「「「!」」」」
またしても全員が絶句するが、今度は絶望ではなく怒りが彼らの心を支配した。
オパルが本を閉じながら肩を落とし、オニキは両腕の筋肉をプルプルと震わせ、スピネは歯を食いしばり、オブシディは鋭い眼光となりながら共通の敵を恨んだ。
だがモルガンは怒りだけでなく悔しさすら感じていた。
そこに2人の部外者が入ってくる。
「邪魔するわよ。ふーん、結構良いアジトじゃん。あなたたちにはもったいないかな」
「もう、本当の事言ったら駄目だよ」
「ジェイ、スフェン、何でここに?」
彼らの前にはジェイ・ダイト、スフェン・チタナイトの2人が玄関近くに佇んでいる。
ジェイは薄い緑色の長い髪をなびかせ、その長身と魔性の漂う笑顔が特徴的な女性であり、戦いになると聖杖を出現させ、幾多の敵を地獄へと誘ってきた。
スフェンは少し小さめの体で黄金に輝くショートボブと両腕に装備されているガントレットが特徴の女性であり、ジェイとは対照的に小柄でボーイッシュである。余計な一言で相手を怒らせる事があり、普段はお調子者だが戦いになると一定時間の間自らを無敵化して敵に突撃するインファイターである。
ガントレットは防具ではあるが魔力を注ぎ込む事でパンチの威力を高める事ができる。
2人共コリンティアのメンバーではあるが、残酷極まりないジェイに対してスフェンは比較的良心的な方である。
「あーしらは総督部隊の一員としてここへ来たわけよ」
「そうそう。君たち全員を総督部隊の一員として雇いたいんだ。今確か資金繰りで困ってるんでしょ。だったらうちで働きなよ」
「貴様ら一体どういうつもりだ?」
オブシディが怪しんだ顔で彼女らを睨みつけ前へ出た。
「どういうつもりも何も、人数が足りないから総督部隊の人数を集めているわけ」
「私たち総督部隊は部隊を3つに分けて戦うつもりなんだ。1つは補給に、1つは国防に、1つはダイヤモンド島の奪回に使うの。君たちは補給に回ってもらおうかなと思って」
「俺たちが補給部隊だとぉ?」
今度はオニキがずかずかと前へ出ながら彼女たちを睨みつけた。
特に能力の高い者は攻撃に、中堅クラスの能力を持つ者は防御に、能力のない者は補給に回る事が軍でも討伐隊でも常識であったために彼らは憤慨した。
「補給なら足を引っ張らなくても済むでしょ」
「モルガン、こんな奴らの言う事なんか聞く必要ねえぞ。俺たちを好きなだけこき使って、使い物にならなくなったら始末する気だ」
「……分かった」
「まっ、そう言う事だ。だからとっとと――」
「私たちを補給に回してくれ」
モルガンは真剣な目つきで言った。
つまらないプライドを持ち続けたのが敗因である事をルビアンに教えられたモルガンは恥をかくと分かりつつも総督部隊へ入る事を決断する。
「おいモルガン。何言ってんだよ!」
「このままじゃロクに遠征にも行けないし、みんな怪我から復帰したばかりだ。それに仕事ばかりじゃ訓練もできないままだ。私たちは訓練に時間を費やしてもっと強くなるべきだ」
「けどよ……」
モルガンの言葉にオニキはほとんど何も言い返せなかった。
「ジャスパーに報告しておいてくれ。よろしく頼むと」
「ふふっ、なかなか素直じゃない。その堂々とした姿、嫌いじゃないわ」
ジェイがモルガンを見下げながら彼女の顎を持ち、自らの顔を至近距離まで近づけた。
「私の事はどう扱ってくれても構わない。だが仲間にだけは絶対手を出すな。もし万が一の事があれば、その時は総督部隊を内側から崩壊させる。いいな?」
「随分と良い度胸ね。ますます気に入ったわ。ふふっ」
「用も済んだ事だし、私たちはこれで帰るね。じゃあねモルガン、戦争が終わったら、今度デートしようね! あはははっ!」
ジェイは意味深な笑みを浮かべ、スフェンはデートの約束を持ちかけるとそのまま後ろを向いて扉を開けると、表に繋いでいた移動用のペガサスに乗り、そのまま猛スピードで去っていった。
モルガンたちは何をしに来たんだと言わんばかりだ。
ようやく安息の時間がやってきたと思ったその時だった――。
「「「「「!」」」」」
遠くで大きな爆発音が鳴り、アルカディアのメンバーたちは警戒の表情を崩さないまま外に出ると、頭をキョロキョロとさせながら辺りを見渡した。
「! みんなっ! あれを見ろっ!」
モルガンが爆発した場所から出る煙を指差した。
「王都の港か?」
「ああ、きっと何かあったんだ。私たちも行くぞっ! みんな出撃の準備だっ! オパル、他のメンバーにもこの事を伝えてくれ」
「分かったわ」
アルカディアのメンバーたちは急いで王都の港へ向かうべく武装をし始める。オパルは赤い魔力のエネルギーを腕に込むと、それを空へと撃ちだした。
それが大きな音を出すと共に赤色の狼煙となり、それが他のメンバーたちにも伝わっていく。
「……ん? あれは?」
「オパルが私たちを呼んでる。アジトに戻るよ、アナテ」
「うん、分かったよ、ブルカ」
アルカディアの面々が全員揃うと、彼らはそのまま王都の港へと向かう。
アモルファス王国の運命をかけた戦いが、今ここに始まろうとしていた。
第4章終了です。
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第5章を書く上でのモチベーションになります。
第5章で追放1年目終了となりますが、第6章から少しペースを速めます。
ジェイ・ダイト(CV:小清水亜美)
スフェン・チタナイト(CV:福山潤)




