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第8話「追い打ち」

 数日後、ルビアンは激しい落ち込みようでベッドに座っていた。


 モンドホテルの自室から出なければならない日が近づいている。いくら宿泊費が安いとは言っても、稼ぎがない以上はいつか限界が来る。


 彼はそんな状況とおさらばするべく、モンドホテルに届いている求人募集の書かれた掲示板と睨めっこを始める。


 掲示板以外にも募集リストがあり、彼は毎日求人が届く度にそれを凝視する。


「どうだ? 求人は見つかりそうか?」

「いや、全然」

「お前の得意は回復だけか?」

「ああ、アルカディアに入った時も、回復以外は特に適性なしだ。あとは基本的な魔法が使えるくらいで、どれも戦闘の時には役に立たねえ」

「用心棒はどうなんだ?」

「それが――遠征時にアタッカーやってた奴が戻ってきちまったから、そいつらに役割を取られちまったよ。ったくこんな時にも役割なしか。モルガンの奴に追放されなけりゃ、こんな事にはならなかったのによ」


 ルビアンは日雇いの仕事がしばらく続いていた。


 だがどの仕事も日給が低く、モンドホテルの宿泊代金を支払うので精一杯であった。ルビアンがすべき事はあくまで『就職』であって、日銭を稼ぐ事ではない。


 戦争のない時期が続いたのか、どこの職場も人を必要としていなかった。人手が足りない場所は、どこも人を雇う余裕がない。


「そりゃ飲みたくもなるわな」

「あぁー、仕事見つかんねえよぉー」


 ――ルビアンは王都にある酒場、『コーラルバー』のカウンター席で現実を忘れようとするかのようにうつ伏せになり、酒に飲まれている状態である。


 店内は少し狭い場所であり、昼間なのか客もあまりいない。


 彼の目の前でグラスを拭いているのはアメジ・プラシオという男である。スポーツ刈りで紫髪のバーテンダーであり、ルビアンとは長いつき合いである。


 色んな人たちの愚痴を聞いてきたためか、対応には慣れている。


「なあ、今人員募集してるか?」

「してるわけねえだろ。うちはこれで精一杯だ。1人雇うのがやっとだよ――うちは裏で酒を造ってるんだけどさ、ずっと前までここは軍需工場に指定されて多くの酒を国から受注してたんだ。でも戦争がなくなってからは酒が売れねえ。あん時に戻りてえな」


 2人がそんな話をしていると、扉が開いてよく見知った顔が入ってくる。あのモルガン率いるアルカディアの面々である。


「いらっしゃい。おっ、モルガンたちか。久しぶりだな」

「10人だけど、席は空いてるみたいだな」

「ああ、この頃不況だからいつも空いてるよ」


 アルカディアのメンバーたちがルビアンに気づかないまま、少し広めのテーブル席にどっかりと座っていき、それぞれが自分の好きな酒を注文する。


「悪い、これからちょっと忙しくなる」


 アメジはルビアンに小さな声でそう言うと、水を得た魚のように裏からたくさんの酒を乗せたプレートを持ち、アルカディアの面々に配っていく。


 しばらくすると全員がほろ酔い、もしくはかなり泥酔している状態になり、カウンター席を除く場所はどんちゃん騒ぎになっていた。


 ルビアンは意識が遠くなりかけていた。酒を飲んでいたのか、段々と眠くなる。


 彼がもうここで寝ても良いやと思ったその時――。


「いやー、マジでルビアンがいなくなって良かったぜ」

「ホントだよ。あいつ回復しかロクにできねえくせに、モルガンとお近づきになるわ、後方から指示を出してくるわ、一度に全員に配る食料が少ないわで、マジでムカついてたんだよ」

「えっ、俺と全く同じ事思ってんじゃーん。お前エスパーか?」

「んなわけねえだろ。事実だよ事実」

「あたしも同感。モルガンもそう思うでしょ?」

「そう言ってやるな。あいつにもあいつの考えがあるんだよ」

「でもさー、エンポーのおかげであいつが要らなくなって無事に追い出せたんだぜ。ざまあみろってんだ。エンポーバンザーイ」

「「「「「エンポーバンザーイ」」」」」


 ルビアンの後ろからうるさいと思うくらいの愚痴が突き刺さってくる。


 アルカディアのメンバーたちの本音を聞いてしまった彼の酔いは一気に醒め、火山が噴火するように怒りが爆発する。


「うるせえええええぇぇぇぇぇ!」

「「「「「!」」」」」


 あまりの怒鳴り声に店内がシーンとなる。


「ル、ルビアン、い、いたのかよ!」

「ふーん、居場所をなくしてヤケ飲みしに来たってわけ?」

「ああ、そうだよ! 悪いかっ!? ヤケ酒しちゃいけないって法律でもあんのかっ!? ああん! さっきから黙って聞いてりゃ陰口ばっか叩きやがって、そんなパーティこっちから願い下げだっつーのっ!」


 彼はお代をカウンター席のテーブルに叩きつけると、そのまま逃げるようにコーラルバーから去って行く。


「……何よあいつ、あたしたちに嫉妬してるんじゃない?」

「そうそう。この最強パーティにいられなくなったのが恥ずかしいんだよ」

「だよな。あはははは」


 彼らはルビアンの1つ1つの言動が気に食わなかった。だが当の本人には何の悪気もない。それには理由があった。


 モルガンと距離が近かったのは2人が幼馴染だったためであり、後方から指示を出したのはより少ないダメージで敵を倒すためであり、一度に全員に配る食糧が少なかったのは次の補給路までの距離を計算し尽くした結果であった。


 だがその事に気づいていたのはモルガンのみであった。


 彼女はそれを仲間たちに話そうと思った事もあったが、今の状態ではまず聞く耳を持たない。そればかりか自分に牙をむいてくる可能性さえあったため、なだめるのがやっとである。


 ルビアンは王都の名街中を一直線に駆け抜けていき、モンドホテルまで戻ろうとする。彼はモルガンまでもが自分を裏切ったと本気で思っている。


 アルカディアのメンバーというだけで、その全てが憎らしく思える。


 彼はその悔しさと屈辱を噛みしめながら、横に流れる涙を拭きもしなかった。

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アメジ・プラシオ(CV:江口拓也)

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