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第70話「疑心への説得」

 ルビアンはようやく話を聞いてくれるようになった晶を見てホッとする。


 彼がのっそりと席に着くと、ルビアンは王都部隊を再編成する話をし始めた。


 ルビアンはどうしても王都部隊を再び蘇らせたかった。モルガンやアベンの失態によって多くの兵を失い、残っている王都部隊の者や、新たに入った者たちは諦めかけていた。


「なるほど。要はへまをやらかした元隊長たちによって王都部隊は解散寸前の状態で、そんな時にお前が潰れかけの王都部隊の隊長になったってわけか。ふはははははっ!」

「笑い事じゃねえよ。王都部隊が解散したなんて事をジルコニア側が知ったら、アモルファス本土を攻めてくるかもしれねえんだぞ。そうなったらお前らは今度こそ国から追い出されるぞ」

「そいつは脅しか? 王都が陥落すればジルコニアは全世界を制覇した事になり、ここもジルコニアの一部と認められる。そうなればむしろ助かるはずだ」

「何言ってんだよ! アモルファス軍が負けたら、ジルコニアの連中はお前らを裏切り者として全員を晒し首にするはずだ。あいつらは裏切り者に容赦はしない。仮に助かったとしても、お前らが逃げ出したくなるような圧政にまたつき合わされる事になるんだぞ。ずっとジルコニアに住んでたなら、それくらい分かるよな? 後でアモルファスの方がマシだったと思ってもおせえんだぞ」

「「「「「……」」」」」


 全員が静まり返ったように黙った。ルビアン以外は全員困った顔をしながら嫌な汗を流す。


 今までジルコニア本土で受けた仕打ちを思えば、満更嘘とも言いきれないからだ。だが王都部隊に入ればかつての祖国に対し牙を剥く事に、つまり同族同士で殺し合いをする事に彼らは抵抗を感じていた。


 無論、ルビアンもそれは承知の上だった。


「俺さ、女王陛下と知り合いなんだよ。もし王都部隊に入ってくれたら、移民に対する不当な扱いを禁止するように伝えるよ」

「本当か?」


 綺羅が真剣な眼差しをルビアンに向けた。


 彼らは選択を突きつけられた。甘んじて圧政を受け入れるか、新たな祖国で自分たちの道を切り開いていくかで。


「お前ら何惑わされてんだぁ!」


 晶が怒号を発して周囲の目を覚まさせようとする。


「こいつは俺たちをジルコニア軍にぶつけて同族同士で殺し合いをさせ、ネイティブアモルファス人だけ助けようって魂胆だ。騙されんじゃねえ!」

「ルビアンはそんな事をする人じゃありません。さっきだって体を張って私を助けてくれたんですよ。少しくらい信じてあげても――」

「うるせぇ! 俺はこんな奴信じねえ。ならお前だけ王都部隊に入れよ」

「……」


 助け舟を出した玉子までもが黙らされてしまい、周囲はすっかりルビアンに反発する空気となってしまった。この状況にルビアンは半ば諦めかけていた。


 ルビアンが店内の時計に目をやると、もうこんな時間かと後ろを向いた。


「そうかよ。じゃあもう勝手にしろ。お勘定」

「は、はい。ありがとうございました」


 ルビアンはアイスティーをごくごくと一気に飲み干すと、そのまま瞬間移動で彼らの元を去っていく。喫茶雲母の店内は重々しい雰囲気に包まれていた。


「晶さん、僕は王都部隊に行きます」

「綺羅、てめえ、裏切るのか?」

「いえ、みんなが王都部隊に入るべきかどうかを確かめるために探る必要があるというだけです。まずは僕が王都部隊に入って様子を見てきます」

「ミイラ取りがミイラになるんじゃねえぞ!」

「ええ、分かってます」


 その頃、ルビアンは女王の部屋でディアマンテが戻って来るのを待った。


 おせえな。でもそろそろ休憩時間のはずだ。


「! ルビアン、どうしたの!?」

「わりい、ちょっと伝えたい事があってな」

「手紙なら送ったはずよ」

「もう読んだよ。王都部隊の隊長になるのは構わねえ。でもいくつか条件がある」

「あたしに条件を突きつけるなんて良い度胸ね。まあいいわ、言ってみなさい」


 ディアマンテが女王の部屋にある自らの椅子に座り、上目遣いでルビアンを見つめている。それほど大した言葉は出てこない事くらい彼女にはお見通しであった。


「王都部隊にジルコニア系の入隊も認めてくれ」

「あんた正気?」

「いかれてんのは今の状況の方だろ。それにこのままじゃ、王都部隊を再編成してもまたジルコニア軍に捻り潰されちまうぞ。いくら俺でも少ない戦力で勝てるほど利口じゃない」

「……」


 ディアマンテは顎に手を当て目を瞑り思考を巡らせる。


 彼らがルビアンに大人しく従うとも思えない。移民とはいえ元は敵性外国人、このまま縛りつけておいてはいけないというの?


 彼女は移民を受け入れはしても信用はしなかった。


 その疑心が彼らに不利益を招いたものの、彼らを王国民として用いる勇気はなかった。そもそも移民自体を大臣たちが反対していた中、何代も前の国王が半ば強行する形となったため、これを取り止める事は先代の王たちの威信を傷つける行為であった。


 だが彼らを王国民として認めれば、大臣たちに不信任案を突きつけられる危険性もあった。


 この均衡をルビアンが破ろうとしていた事に彼女の心は痛んだ。


「――約束しなさい」


 さっきまで後ろを向きながらうつむいていたディアマンテがその小さな口を開いた。


「必ず勝って戻ると」


 彼女はルビアンに殺気とも言える気を発しながら覚悟を問う。


「ああ、必ず勝って戻る。だからさ――もしこの戦争に勝てたらジルコニア系の連中への不当な扱いを取り締まるって約束してくれ」


 ここでルビアンがやっと本音を突きつける。


 彼らが満足にこの国で生きていけるかどうか、ジルコニア系移民たちの運命は自らの手中にあると彼は知った。


 女王の部屋の扉の向こう側から指の関節を当てる音がコンコンと鳴った。


「相分かった。もう下がれ」

「おう、じゃあな」


 女王の部屋には彼女だけが残り、その沈黙が女王を迷いを象徴していた。彼らが活躍すれば……大臣たちもきっと。


「入れ」

「失礼します。女王陛下、さっきから何を話していらっしゃったのですか?」


 少し前から部屋の外にいたエメラが彼女に話しかける。


「独り言だ。なに、いつもの事だ。誰とて自分と相談したい事もあろう。して、何の用だ?」

「女王陛下、あなたに大臣たちから不信任案が出ています」

「! ――事情を聞こうか」


 ディアマンテは後ろを向きながら冷や汗をかくが、それを表情には出さなかった。女王とは孤独であり、みなに認められていながらみなに心を許されぬ存在。


 その覚悟が再び問われようとしていた。

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