第7話「追放の裏で」
モルガンは腹ごしらえにレストランカラットへと向かう。
店はそこまで繁盛しておらず、モルガンはすぐそばに厨房があるカウンター席に座る。彼女はルビアンと同様に遠征していたため、ここへやって来たのは久しぶりである。
厨房にはガーネ、グロッシュ、そしてこの短髪の青年、ペリード・テフロアイトがいる。彼はレストランカラットで雇われている従業員であり、調理と在庫担当である。
「あっ、モルガン、久しぶりじゃない」
「ガーネ、久しぶりだな」
「おっ、無事に遠征を終えてきたみたいだな。ちょうどオイラも今来たんだ。」
「ペリードもグロッシュも元気そうだな。いつもの」
「はいよ。ペリード、米持ってきてくれ。」
「はいはい。」
モルガンはいつものようにお決まりのメニューを注文する。彼女もまたここの常連なのだ。
彼女はアルカディアのリーダーでありながら単独行動を好み、仕事がない時は1人でいる事が多い。
彼女のファンは多いが、遠征での疲れやプライベートを考慮し、王都ではたとえ有名人であっても不用意に話しかけないのが暗黙のルールである。
「ほい、チャーハンできたぞ」
「おっ、美味そうだ。遠征の時はずっとここの飯食えなかったからな」
「――す、凄い勢いで食べてるね。しばらくは休みなの?」
「ああ、エンポーが普及してからはみんな楽にモンスターを倒せるようになったから、そのおかげでモンスターがあんまり出現しなくなってるみたいでな」
「昔と比べれば、結構平和な時代になったのね」
「あとはお隣さんだな」
その昔、王都を有する『アモルファス王国』は隣国である『ジルコニア帝国』と共に領土と資源をめぐる戦争に明け暮れていた。
そんな中、それを咎めるように強力なモンスターが次々と出現し、皮肉にもそれが原因で戦争は中止となっていた。停戦協定後は両国の討伐隊がモンスター討伐に明け暮れていたが、国内は比較的平和な状態となっていた。
だがモンスターが鳴りを潜めた今、国同士の争いを咎める要因がなくなっていた事をモルガンは心配していた。
「あぁ~、ジルコニアの連中ねぇ~」
ペリードがすぐに答えを言い当てる。彼は隣国の事情にも詳しい。
「平和は停戦期間の裏返しだからな」
「もう、嫌な事言わないでよ。ねえ、また人間同士で殺し合いとかしないわよね?」
「分からん。私は戦争が中止になってから討伐隊に入った最初の世代だ。だから人殺しは今の今までした事がない。だがそのおかげで討伐隊以外の仕事には就職できなかったから、私としては複雑な思いだったな」
「戦争があってもなくても、全員が生活できるわけじゃないのね」
ふと、ガーネが昔を思い出しながらうつむく。
いつになったら本当の平和がやってくるのやらと、どこか諦めている様子。平和なら平和で困る人がいる。結局はみんなないものねだりをしているだけなのだと悟る。
「そうだな。戦争中はどんな奴だろうと最悪作業員にはなれるからな。平和になったら作業員たちは一斉に失業だ。アモルファスが戦争をしたがるのは、失業率を下げるという公約を守るためでもあるからな」
「そういえば、さっきまでルビアンがいたけど、来る時に会わなかったか?」
グロッシュがルビアンの事をモルガンに尋ねる。ガーネもグロッシュもルビアンが追放された事を知らない。少しばかり躊躇っている様子のモルガンが口を開く。
「あいつならパーティから追放した」
「「「ええっ!」」」
3人が一斉に驚いた。まさかルビアンの幼馴染であれほど仲が良かったモルガンが彼を追放するとは思ってもみなかったからだ。
「何で追い出しちゃったんだ?」
「回復担当が要らなくなったからだ。それに他のパーティメンバーからも評判が悪かったからな。採用し続ける理由がなくなった今、幼馴染でも庇いきれないよ」
「ルビアンは今どうしてるの?」
「パーティを去った奴の事なんて知らん」
まっ、ルビアンが金に困ったら、真っ先に私を頼ってくるはずだ。
その時に私があいつをうちの家のハウスキーパーとして雇い、ゆくゆくはルビアンと結婚して専業主夫になってもらう。完璧な作戦じゃないか。
モルガンがこんな風に考えている事からも、彼女がルビアンを単なる諸事情だけで追い出したわけではない事がうかがえる。
全ては彼女の思い通りになる――はずだった。
「ふふふふふ」
「な、何で笑ってるの!?」
「い、いやっ! 何でもない! 気にするな!」
「もう、幼馴染が追い出されたってのに、よくそんな幸せそうな顔でいられるわね」
「でもモルガンの言いたい事も分からないわけじゃないぞ。俺も昔は討伐隊の前衛アタッカーやってたからな。パーティ内で活躍できなくなったら、人件費を考えれば追放もやむなしかもなー。でもまさかルビアンが追放とは、世知辛い世の中だ」
「心配するな。いざとなったら私が何とかする。ごちそうさん。お代、ここに置いておくぞ」
「うん、ありがとねー」
モルガンが笑顔で帰っていくと、ガーネはレストランカラットの雇用状況をグロッシュにうかがう事を思い立った。
ガーネはルビアンの事を気にかけていた。彼がパーティ内で最も苦労している事も知っていた。そんな彼をガーネは放っておけなかった。
「お父さん、確かこの前1人辞めたわよね?」
「あー、そうだなー。俺とガーネと今雇っているペリードの3人だけだから、時々店が繁盛する事を考えれば、あと1人は雇いたいところだなー。もしかして良い働き手でもいるのか?」
「一応心当たりはあるから、もしかしたら紹介できるかも」
「そうか。まっ、できれば辞めないでくれる奴が良いんだけどなー」
ガーネには1つ考えがあった。ルビアンの次の職場が決まるまでの間、彼をここで雇おうと思っていたのだ。この優しさが、モルガンの運命を狂わせる事になるとも知らずに。
それぞれの思惑が交錯する中、レストランカラットは今日も忙しくなるのだった。
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ペリード・テフロアイト(CV:間島淳司)