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第68話「揺れる心」

 ルビアンは食堂の調達係か王都部隊の隊長かで揺れていた。


 彼にとって食堂はもはやただの住処ではない。かけがえのない居場所なのだ。


 だがこのまま王都部隊の隊長として王都を、アモルファスを守らなければ食堂の未来はない。王都が占領されれば、間違いなく食堂も危機に瀕する事は分かっていた。


「――でも分からないわね。何故女王陛下が王都部隊に拘るのか」


 クリソが壁に向かって素朴な疑問を呟くと、ルビアンはすぐに女王の意図を察した。


 王都部隊がなくなったら、多分女王の立場がやばくなるんだろうな。でも王都部隊にはアルカディアもコリンティアもいねえ。主力なしの部隊でどうやって戦えっつうんだよ!?


 ――王都部隊の再編成にはいくつかの大きな課題があった。


 アモルファス島に住む討伐隊の面々の内、能力の高い者は全て総督部隊に組み入れられており、王都部隊には討伐隊の中でも下位に位置する者たちばかりで構成された数百人程度の『戦力』しか残っておらず、アクアンやサーファもその中にいた。


 更には早い段階で複数回の招集という事もあり、戦死を恐れて王都部隊に入りたがらない者もいた。


 この絶対的な戦力と人数の少なさにルビアンは頭を抱えた――。


「わりい、ちょっと風に当たってくる」


 ルビアンは突然の隊長就任を受け入れられなかった。


 頭を冷やそうとそよ風が拭いている外に出ると、そこで首が痛くなるまで空を見上げていた。


 彼にとっては必ずしも食堂を守る=国を守るとは言えず、食堂さえ無事であればそれで良いというものだった。だが女王の事も気がかりだ。


「やっ、やめてくださいっ!」

「とっととジルコニアに帰れっ!」

「きゃあっ!」

「てめえは俺たちの敵だ。国に帰らねえとぶっ殺すぞっ!」


 1人のジルコニア人女性を3人のアモルファス人の男たちが取り囲み、殴る蹴るの暴行を繰り返しては帰国を要求している。


 ジルコニア人は布切れのような和服を着ており、男たちはラフな格好をしながら親の仇のように彼女を見つめている。


 両国の間では戦争中の国に属する者を敵性外国人と見なし、軍が戦闘に勝てば嫌がらせをし、戦闘に負ければ暴行をという行為に及んでいた。


 これは国内外で問題となっており、戦争が長期化するにつれて敵性外国人への被害が増大するばかりであった。


「何の騒ぎだ?」

「ジルコニア軍の代わりにこの女にお仕置きしてるところさ。お前もやるか?」

「遠慮するぜ。ていうかお前ら大人のくせにこんな事してて恥ずかしくねえのかよ?」

「なっ、何だとてめえ! やんのかこらぁ!?」

「上等だ。やってやるぜ」

「「「どりゃああああっ!」」」


 ルビアンが男たちにボコボコ殴られている。


「がはっ!」


 ルビアンはその場に倒れた。


「こいつ弱っ! もう行こうぜ」

「けっ、大した事ねえな」

「あーあ、つまんねーの」


 男たちはルビアンをボコボコに殴り倒した後でスッキリしたのかその場を去っていく。


 ジルコニア人の女は倒れているルビアンに駆け寄って心配そうに抱き抱えようとすると、ルビアンがムクッと起き上がり、見る見るうちに体についていた傷や土汚れが消えていく。


「ふぅ、やっと立ち去ったか」

「あの、大丈夫ですか?」


 声をかけてきたのは和田玉子(わだたまこ)という白髪に赤い首飾りをつけたおかっぱ頭のジルコニア人女性である。


 彼女は突然起き上がったルビアンに驚きつつも彼に声をかけた。


「それはこっちの台詞だ。ちょっと待ってろ」


 ルビアンが回復の魔法を施すと、玉子の全身の傷が癒え、彼女はすぐに立ち上がると顔から笑みがこぼれていた。


 アモルファス人にも優しい人がいるのだと彼女は安心を覚えた。


「あ、ありがとうございます」

「このご時世に外出するなんて、あんたも勇者だな」

「はい。買い物をしないと生きていけないので。回復が得意なんですね。治るのも病院に行った時より凄く早いですし……あっ、えっと、私は和田玉子と申します」

「ルビアン・コランダム。よろしくな」

「はい」


 玉子の腹が空腹を訴えるように鳴った。


「あっ!」


 玉子の顔が赤く染まり、彼女は慌てて腹を押さえる。


「良かったらさ、うちの食堂に来いよ」

「ええっ!? でっ、でもっ、さっきあんな目に遭ったばかりですし」

「心配すんなって。何かあったら俺が守ってやるから」

「えっ! ――はい」


 玉子はまたしても顔が赤くなる。緊張が続く中、彼女はルビアンの誘いに応じた。ルビアンが玉子を食堂に案内する。


 玉子は久々のジルコニア料理である焼き魚定食に喜びを隠せなかった。


 ジルコニア米を使ったモチモチした白米、これを使った料理はアモルファスではレストランカラットにしかなかったからだ。


「ふーん、つまりアモルファス王国内にいるジルコニア人たちは、みんなジルコニアの『圧政』が気に食わなくて移住してきた人たちばかりって事なのね」

「はい。私もその1人です。なのに……みんな私たちがジルコニア人というだけで目の敵にするんです。私たちは誰とも戦争していません。それだけは分かってください!」


 誰とも戦争をしてない――そういえば、王都部隊にはジルコニア人が全然いなかったな。


 そうだ……まだアモルファスにはジルコニア人の討伐隊がいるじゃねえか。


 そいつらを誘って王都部隊を再編制すれば――まだ勝機はある。


「玉子、後でジルコニア人たちの溜まり場に案内してくれねえか?」

「は、はい……構いませんけど」


 ルビアンの思いもしない提案に玉子はきょとんとする。


 王都の南門の周囲にはアモルファスに住むジルコニア人たちが大勢集まり住居を構えていた。


 そこはジルコニア街と呼ばれ、戦争が始まる前はここからジルコニアの産物を買う事ができたが、今は敵対するかのようにジルコニア街の境界には見えない壁ができていた。


 ルビアンは玉子に案内され、そこへ向かうのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

和田玉子(CV:花澤香菜)

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