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第63話「バルーンバトル」

 この私が2番目などありえない。そんなの何かの間違いだ。


 アンはそんな事を思いながらカーネリアを見つめた。


「お前、何者だ?」

「あたしはカーネリア・カルニス。食堂の接客係です」

「私が2番目とはどういう事だ?」

「1番早く食べたのはあたしなので、そう言ったまでです。ほんの僅かな差でしたけど」

「なら私と決闘しろ。このままでは気が済まない」

「あらあら、穏やかじゃないですねー」


 古来よりアモルファス王国では物事を決着させるための手段として決闘というものが存在する。


 だが物事を収めるだけではなく、交流の手段としても用いられているのが特徴である。


「表へ出ろ。お前とは決着をつける必要がある」


 ――私が1番であるべきだ。私が1番でなくなる時、それは私が死ぬ時だ。それ以外で1番を譲るなど、私のプライドが許さないっ!


「お前ら食ったばっかだろ。どうしてもやりたいなら一旦休んでからにしたらどうだ?」

「あたしが決闘しても良いの?」

「カーネリアに勝てる奴なんてそうそういないんだし、ちゃちゃっと片づけてこいよ」

「ふむ、良いだろう」


 2人が昼食を済ませてから少しばかりの時間が経過する。


 万全に動けるようになったところでカーネリアとアンの2人が食堂の近くにある広場へと移動すると、頭上に『魔力風船』を装備する。


 アモルファス王国の伝統的な決闘方法とは『バルーンバトル』の事である。


 お互いの頭上に魔力風船を装備し、先に相手に装備されている魔力風船を割った方が勝者というシンプルなものである。


 魔力風船は技が直撃しなければ割れず、これが割れるまでは頭から離れない仕様となっている。さらに装備されている魔力風船の効果により、これを割らない限り本体にダメージを与える事はできず、痛みを感じる事もない。


 広場にはそこそこの人数が集まっており、その中にはルビアンたちもいる。グロッシュとペリードは店の営業のため食堂に居座り続けている。


 カーネリアとアンはお互いを見つめ合った。


 ――この女、幾多の魔境を乗り越えてきた目をしている。油断はしないっ!


 アンは長剣を構えるカーネリアを見ただけで彼女の強さを見抜く。アンは聖槍の使い手であり、その聖槍を見たカーネリアもアンの強さを見抜き、手加減する気など微塵もなかった。


 どこの討伐隊かは知らんが、聖槍を操るこいつがただ者でないのは確かだな。


「それじゃー、バルーンバトルを始めるわよ。言っとくけど、周囲の建物を巻き込むような大技は禁止。良いわね?」

「「ああ」」


 ここまで息が合ってるのにどうして決闘なんてするのかしら。ますます謎だわ。


 流れでジャッジを務める事となったガーネがジト目で2人を見ながら思った。


「バルーンバトル、スタートッ!」


 ガーネが右腕のこぶしを開きながら前に出し、決闘開始を高らかに宣言する。


 2人は目にも留まらぬ速さでお互いの長剣と聖槍を打ち鳴らし合った。その様子を周囲の観客が黙って見守っている。


「ねえルビアン、アンが槍を剣みたいに使ってるけど、槍って突くためのものじゃないの?」

「いや、あれは正しい槍の使い方だ。槍は突くよりも叩いた方が威力が出るんだぜ。あの頑丈な聖槍で叩かれてみろ。防具を装備していたとしても頭蓋骨が陥没するぜ」

「へぇ~、槍って奥深いのねー」


 こいつっ! なかなか早いな。槍の動きが俊敏すぎてかわすのが精一杯だ。


 この女、食堂の接客係の割になかなか無駄のない動きをする。見事な長剣さばきだ。


「防戦一方だな」

「えっ、私には互角に見えるけど」

「さっきから攻撃を仕掛けているのはアンだ。カーネリアの長剣は聖槍よりも短い分距離を詰めないと技が当たらねえ。あれはかなりの戦闘訓練を受けているな。パワーもスピードもディフェンスも三拍子揃った完璧な動きだ」

「そこまで分かるのにパーティを追放されちゃうなんて、討伐隊って相当厳しいのねー」

「お、おう、そうだな」


 先ほどから長剣と聖槍の鳴らし合う音がずっと継続される中、観客たちは2人を固唾を飲んで見守っている。


 アンがカーネリアの魔力風船に向かって思いっきり聖槍を振り下ろすと、カーネリアがそれを横に向けた長剣で受け止める。聖槍の刃はカーネリアの魔力風船に触れる寸前である。


「ふーん、少しはやるようだ」

「あなたこそ」

「だがここまでだっ!」

「!」


 アンが聖槍を受け止めるのに集中しているカーネリアの足を蹴り、カーネリアが気づいた時には既にバランスを崩していた。


「しまったっ!」

「もう遅いっ!」

「クッ!」


 魔力風船の割れる音がすると、周囲は沈黙とそよ風の音に包まれた。


「そこまでっ! 勝者っ、アンバー・ベルンシュタイン!」


 歓声が沸く中、アンは勝ったというのに全く相手を許さないような顔だ。カーネリアは汗が額を伝い茫然としたまましりもちをついている。


「私の勝ちだ。()()()()()()()だったがな」


 アンはそう言うと後ろを向いて去っていく。


 カーネリアがゆっくり立ち上がると、そこにルビアンたちがやってくる。


「惜しかったな」

「ああ。お前、どこの討伐隊だ?」


 カーネリアが呼び止めるようにアンに問いかけると、アンは横顔を見せながら口を開いた。


「私はコリンティアの前衛を務めている」

「「「!」」」


 ルビアンたちが驚くと、アンは無表情のまま黙って去っていく。


 あの食堂、一体何なんだ?


 王都部隊を勝利に導いたルビアンといい、私と互角にやり合ったあのカーネリアといい、あの食堂はかなり面白いメンツが揃っているな。


 アンはそんな事を考えながら胸の鼓動が高鳴った。


 アンが広場から少しばかり離れた場所に居座っていると、そこに背が高く短い茶髪の軽装備をした男がアンに近づいてくる。


「やっぱりあんたが勝ったな」

「アジトにいろと言っただろう」

「そうかてぇこと言うなって。あの女もちょっとはやるみてえだけど、まだまだだな」

「お前の目は節穴か? 見てみろ」


 アンはそう言いながら自らの背中を男に見せた。


「……!」


 彼女の服装の背中部分が岩の破片で切り裂かれボロボロになっている。


「先に攻撃が決まったのは私だが、その直後に後ろから飛んできた岩の破片が私を襲っていた。魔力風船がなければ、今頃私の体はズタズタにされていただろう」


 あの女、この私をここまで追い詰めるとはな。


 彼女は人知れず笑みを浮かべながら王都を闊歩するのだった。

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