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第62話「激辛大盛りカレー」

 その頃、ルビアンは食堂で常連たちと世間話を楽しんでいた。


 サーファ、アクアン、サーペン、アメジの4人が来店している。


 この時は激辛カレーや大盛りカレーがブームとなっており、それが食堂内の話題を独り占めにしていた。食堂の危機をどうにか乗り越えた事にルビアンは喜びを感じていた。


「うわっ! 何だこの辛さ」

「ヒエー! 注文するんじゃなかった」


 常連たちが興味本位で注文した激辛カレーに撃沈していく。ジョッキに入っていた水はあっという間になくなっていた。


「だからうちはジョッキで出してんだよ」

「それ言いたかっただけでしょ」

「へへっ、ばれたか」


 ルビアンがガーネに向かって笑ってみせる。その光景を見ていたカーネリアはグロッシュからお玉を奪うと、大盛りの米の上に激辛カレーのルーをドバッと入れ、それをカウンター席に持っていく。


 食堂の同僚たちや常連たちはカーネリアを心配しながら見つめている。激辛でしかも大盛りだからだ。激辛大盛りカレーは燃え上がるように真っ赤な色で染められている。


「――うむ、美味いぞ。さすがはグロッシュだ。辛味の中にも旨味が凝縮されている」


 カーネリアは激辛大盛りカレーをものともせず終始同じペースで食べ続ける。


 スプーンが見事にカラになった皿の上に置かれ、これが食事終了の合図となった。


「ご馳走様。グロッシュ、時間内に食べ終えたら賞金がもらえるんだったな」

「ああ、賄いじゃなければな」

「ふふっ、それは残念だ」

「カーネリアが常連じゃなくて良かったぁ~」


 ガーネがホッと胸をなで下ろす。食堂は制限時間内に激辛大盛りカレーの完食に成功した者には無料の上賞金を出す事になっている。


 ――そこに1人のクールビューティーな女性が入ってくる。そのポニーテールの髪は黄色とオレンジを足して2で割ったくらいの色であり、オシャレな軽装で端っこのカウンター席にのっそりと座る。


「アン、久しぶりじゃない」

「ガーネか、久しぶりだな――この店は水も出さないのか?」

「あっ、ごめんなさい。すぐ用意するねー」

「ガーネの知り合いか?」

「うん。昔よくうちに来てくれていた討伐隊の人。とっても強いのよ」


 アンバー・ベルンシュタイン。コリンティアのメンバーの1人であり、そのクールな表情と洗練されたボディバランスが道行く人を虜にする。


 電気系の魔法と炎系の魔法を得意とする前衛アタッカーであり、彼女の聖槍から繰り出される炎を帯びた雷は全ての敵を焼き尽くすと言われたほどだ。


 魔法攻撃もできるが、どちらかと言えばカーネリアと同様に魔法を使った物理攻撃の方が得意であり、コリンティアのエースとして活躍している。


「アンバー・ベルンシュタインだ。アンと呼んでくれ」

「俺はルビアン・コランダム。よろしくな」

「ああ、よろしく」


 ルビアンだと――確か一般市民でありながら圧倒的劣勢から逆転し、王都部隊を勝利へと導いた男と聞いているが、まさかこいつなのか?


「アンは王都部隊にいるんじゃねえのか?」

「いや、私はアモルファス軍においてはジャスパー総督率いるアモルファス島総督部隊の所属だ。王都部隊にもうちのメンバーの半数が所属している」

「同じ討伐隊なのに別の部隊になる事もあるんだな」

「即席で作られた王都部隊と伝統ある総督部隊とでは勝手が違う。総督部隊はどの能力も一定水準をクリアしている者でなければ入れない」

「それより1つ聞きたい事がある」


 アンがいつになく真剣な表情だ。彼女はカウンター席から身を乗り出すと、ルビアンに向かって質問を投げかける。


 ルビアンは王都部隊ばかりか総督部隊でも有名になっており、密かに彼の動向に注目する者も少なくなかった。


「なっ、何だよっ!?」


 ルビアンがビビりながら一歩後ろに下がりのけぞった。それほどにまで彼女が発している殺気のようなものを激しく感じたのだ。


「激辛大盛りカレーがあると聞いたがそれは本当か?」

「あ、ああ。100ラピスはするぜ。でも制限時間内に完食したら無料になる上に賞金100ラピスだ。悪くねえだろ?」

「ほう、やはり噂は本当だったようだ。ではその激辛大盛カレーをくれ」

「「「「「ええーーーーっ!」」」」」


 周囲が一斉に驚く。カーネリアは冷静なまま腕を組んでいる。


 グロッシュが激辛大盛カレーを用意すると、周囲が注目する中アンの目の前にそれは置かれた。


 カレーの米の量は人の頭より少し大きいくらいであり、今にも皿からルーがこぼれそうになっている。


 アンの右手にはスプーンが渡され、彼女にはそれが剣のように見えていた。


「制限時間は20分、この砂時計にある砂が全部落ちた時点で米粒が1つでも残ってなければクリアよ。じゃあ、よーい、スタートッ!」


 アンがその細身な体に似合わず冷静な顔のまま物凄い勢いで食べ始める。


 ジョッキに入った水は少しずつ減っているが、カレー自体はまるでものともしていない様子。彼女はそのまま10分もかからずに激辛大盛カレーを食べ尽くし、おしぼりで悠々と口の周りを拭いている。


「ふぅ、久しぶりに手応えのあるものを食べられた」

「ふむ、さすがは総督部隊に所属しているだけの事はある。あたしには及ばなかったが、あれを2番目に速く完食するとはな」

「2番目? それはどういう意味だ?」


 アンはカーネリアのルビアンへの囁きをしっかりと聞き取っていた。


 彼女は1番でなければ気が済まない性分であるために聞き捨てならなかった。そんなアンの目がカーネリアへと向いた。


 2人はまるで惹かれ合うようにお互いを見つめるのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

アンバー・ベルンシュタイン(CV:井上麻里奈)

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