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第6話「黒い珠の正体」

 その頃、王都にある宝石店にて――。


 モルガンはケルベロスからもぎ取った黒い珠を調べてもらっていた。宝石商はこれを興味深い目で宝石用ルーペを通して観察している。


 宝石店には世界中から集めた様々な宝石が揃っており、宮殿に住まう貴族たちの御用達となっている。討伐隊がモンスターを倒して手に入れたアイテムの中は、稀に珍しい宝石などのアイテムが見つかる事もあり、モルガンは資金難になる度にここで宝石を売っていた。


 だがそれは昔の話――今となっては未発見の宝石かどうかを調べてもらう形で利用している。


 彼女の名はクリス・トバライト。王都を代表する宝石商の店長にして宝石鑑定師である。


「ふむ、これはブラッドパールだな」

「ブラッドパール! あの伝説の宝石か?」

「ああ、膨大な魔力を持った宝石でな、モンスターに憑りつき、憑りついたモンスターが持つ全ての能力が格段に上がるんだが、野心や食欲といった本能までもがむき出しになって狂暴化するという困った特徴を持っているんだ。よくこんな珍しい代物を手に入れたものだ。どこにあった?」

「数日ほど前に倒したケルベロスが持っていた。額にはめ込まれていたものをもぎ取ってやった」


 何? 額にあった? そんなはずはない。仮にもこのブラッドパールをあのケルベロスが装備するはずがない。


 クリスはどこか不審な点を感じていた。


 だが馬鹿正直なモルガンが嘘を吐いているとも思わなかった。ますます謎は深まるばかりで進展がないという結果にクリスは難しそうな表情になる。


「危険を顧みないところは相変わらずだな。だが妙だ。ケルベロスは邪悪と感じる物を積極的に避ける習性がある。なのにこれが額にはめ込まれているというのは不自然だ」

「本当だっ! 私はこの目で見たんだ。ケルベロスの額で禍々しく光るこのブラッドパールを」

「君を疑っているわけではない。だが詳しく調べる必要がある。しばらくこれを預からせてくれないか? もしモンスターの手に渡れば大変な騒ぎになる」

「分かった。よろしく頼む」


 モルガンが宝石店を立ち去ろうと扉の方を向いた時だった。執事らしき人がガチャッと扉を開けると、そこに1人の女性が入ってくる。


「エメラお嬢様!」

「ごきげんよう。モルガン、また宝石を売りに来ていたのですか?」

「いえ、手に入れた宝石の鑑定をしてもらっていただけです」

「ふーん……ん? それは何?」

「ブラッドパールです。お嬢様がこれをご覧になるのは初めてかと」

「興味深いですね。これ、いくらで売って下さるのかしら?」

「これは私の所有物ではありませんので、許可を取るのでしたらモルガンにお聞きになってください」

「そう。モルガン、これをわたくしに譲ってくださいませんか?」

「駄目ですっ! これはとても危険な物なのです。モンスターがこれを持てば、狂暴化して暴れだす可能性があるのです。どうかお許しを」


 モルガンがエメラに対して頭を下げてお願いをする。


 彼女の一家は代々エメラの家に仕えてきた一族であり、アルカディアの資金までをも工面してもらった事があるため、エメラに対しては頭が上がらない。だがエメラの身の安全を考えれば、ここは渡さない方が吉と考えた。


「ふーん、それを聞いてますます気に入りましたわ。10万ラピスでどうです?」

「! 10万ラピスですか?」


 ――アルカディアのリーダーである彼女にとっては願ってもない提案だった。


 アルカディアは討伐隊の中で最も活躍しているパーティではあった。


 だがその遠征の多さ、パーティメンバーの多さ、その1人1人に装備品を惜しみなく使い込む消費の激しさ故に度々資金不足に陥っていた。ルビアンに退職金を払えなかったのはそのためである。


 10万ラピスは王都の平民の平均年収の5倍である。


 もしこれが手に入れば当分はパーティメンバーたちや今まで世話になった人々に楽をさせてやる事ができると考えたが、もし何者かによってブラッドパールが悪用されれば、エメラの身に危険が迫る可能性も高くなる。


 エスメラルド家以外にも王族の座を狙う一族は多く、ブラッドパールが盗まれればそれがそのままエメラたちに牙をむく事は明白であった。


「何でしたらアルカディアのスポンサーになってあげても良いですよ」

「……申し訳ありませんが、お譲りするわけにはいきません。私にとっては10万ラピスよりも、お嬢様の安全の方がずっと大事でございます」

「!」


 エメラは驚いた。金で買えないものはない。そう信じて疑わなかった彼女の中にある常識を始めて覆されたのだ。


「どうしても無理なのですか?」

「はい。お許しください」

「お嬢様、私からもお願いです。これはあまりにも危険すぎますし、しばらくはこれの出所を調べる必要がありますので、どうかお許しを」

「――分かりました。じいや、帰りますよ」

「はい、お嬢様」


 エメラが帰っていくと、モルガンもクリスもホッと胸をなで下ろす。


「よく断れたな」

「お嬢様のためだ。何か分かったら教えてくれ」

「ああ、少し長くなると思うが、待っていてくれ」


 モルガンはそのまま王都の郊外にあるアルカディアのアジトへと戻っていく。


 彼女の脳裏にはルビアンの顔が浮かぶのだった。

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クリス・トバライト(CV:田村ゆかり)

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