第59話「古代の謎」
翌日、ルビアンの元に一通の手紙が届いた。
送り主はクリソからであった。何でもダイヤモンド島の歴史書の一部を翻訳する事ができ、特に気になっていたページの翻訳が終わったのだとか。
「クリソが翻訳できたってよ」
「そうか。なら営業が終わったらすぐ行くか」
「ああ、ようやく謎が解けるな」
ルビアンとカーネリアは店の営業が終わると、期待に胸を膨らませてすぐにクリソがいる研究室兼東海岸砦へと赴く。
砦の中に入ってみれば、そこには研究資料の紙が散らばっており、疲れた様子で机に突っ伏している様子のクリソがいる。
いかにも徹夜しましたと言わんばかりに目の下にクマができ、目はトローンとしていてもうこれ以上は何も話せそうになかった。
「翻訳はできたか?」
ルビアンがクリソに尋ねた。すると、クリソは黙ったまま左方向を指差し、ルビアンたちがその方向に目をやると、そこには現代語訳されたページのみの翻訳された紙が置かれている。
「――余程眠いみたいだな」
「そっとしておくか」
ルビアンとカーネリアは彼女を気遣い放置したまま翻訳文書を呼んだ。
「えっと、なになに」
――それは数千年前の事、人々は石版の力を使う事で便利な生活を手にしながら平和に暮らしており、その栄華はずっと続くものと思われた。
しかし、その平和がある日を境に終わりを告げた。
玉座を狙う何者かが強力なモンスターを生み出そうと石版の力を悪用し、瞬く間に王都が巨大なドラゴンによって壊滅した。
「これを描いた時点で数千年前の出来事って事は、今からだともっと昔って事だな」
「そうだな。しかも当時のダイヤモンド島の街を王都と呼んでいるという事は、ダイヤモンド島は古代アモルファス王国の首都だったんだ」
そのドラゴンは海蛇のように見えた事からヒュドラーと名づけられたが、あっという間に隣の街にあった帝都までをも破壊しつくし、古代文明は一夜にして滅びた。
人々は西のアモルファス島、東のジルコニア列島へと逃げ延びた。
古代文字の翻訳の紙はここで終わっている――。
この時点でまだページの半分しか翻訳しきれていなかった事が、古代文字の翻訳がいかに困難を極めるかを示していた。
「「!」」
「これって」
「ああ」
「つまり王都も帝都も元々は1つの島にあったんだ。ここからは推測だが、分離した2つの国は協力して何らかの方法でヒュドラーを倒した。だが共通の敵がいなくなってからは覇権を争うようになった。そう考えると説明がつかないか?」
「なるほどな、全ての始まりはヒュドラーだったわけだ」
ルビアンたちは仮説を話し合った。クリソは座りながら気持ちよさそうに眠っている。
「おねんねの邪魔をしちゃ悪いな」
「そうだな、もう帰ろう」
ルビアンがカーネリアの腕を掴み、瞬間移動で食堂へと戻っていく。
そこにさっきから扉の前にいたアベンが入ってくる。彼は厳しい表情をしながらもその翻訳された紙をジッと見つめているのだった。
「おっ、帰ってきたな」
「グロッシュ、どうした?」
「実はさ、そろそろこの鍋が古くなってきちまったから、鮮度の魔法で新品に戻してもらうと思ってたんだ。是非頼むよ」
「任せとけって」
ルビアンは鮮度の魔法を使い、古くなった鍋の鮮度を次々と戻していき、あっという間に鍋が新品同然の状態へと戻っていく。
彼のおかげで買い替える必要もなく、廃棄コストもゼロに抑えられていたために経費削減に大きく貢献していた。
「――今日も繁盛しなかったな」
「ああ、ジルコニア料理がたったの1種類じゃなー」
「みんな他の飲食店に行っちまったよ。軍需工場化された店はどこも安いからな」
「ルビアン、明日一緒に買い物に行ってくれない?」
ガーネがもじもじとしながらルビアンにお願いをする。名目上は仕事だが、それ以外に彼と2人きりになりたい気持ちもあった。
ガーネはルビアンがどれほど店に貢献しているかを間近で見てきた。
いつしかルビアンと一緒にいる事が彼女にとっては当たり前になっていた。
「ああ、良いぜ。ここんとこずっと買い出しをガーネに任せっぱなしだったからな」
「ふふっ、じゃあお願いね」
ガーネがルビアンに抱きついた。久しぶりのこの感触がたまらない。
その様子を見ていたカーネリアは顔がムッとなって2人に近づく。
「あたしも一緒に行く」
「何言ってんのよ。買い出しは2人いれば十分よ。カーネリアは店で接客。看板娘が2人共いなくなっちゃったら余計にお客さんが来なくなっちゃうでしょ」
「はぁ~、仕方ないなー」
先手を打たれたカーネリアはしぶしぶ彼女に『主導権』を譲ってしまった。
ガーネは赤茶色のポニーテールに控えめだが形の良い胸、細身でありながら力強いところがルビアンの男心をくすぐっていた。
翌日、2人はアモルファス島からからかなり離れた街、『コイヌール』へと赴いた。
ガーネは一度行った事があるため、ガーネがルビアンの腕を掴んで瞬間移動する事に。
コイヌールはアモルファス王国の植民地の1つであり、香辛料やスパイスが豊富に採れる街である。仕入れた商品を買う事もできたが、輸入品は高いために極力手を出さずにいた。
「いつもここで買ってんのか?」
「ええ。直接買った方が安いんだから」
ガーネが自慢気な顔でルビアンに抱きつきながら一緒に歩く。
ルビアンは恥ずかしそうにしながらも彼女の甘えに応じ続けるのだった。
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