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第57話「生存への活路」

 ルビアンはその妙な威圧感を持っている老人に近づく。


 モルガンはその様子をジッと見つめており、カーネリアは修復の魔法で元に戻った皿を何事もなかったかのようにキッチンへと運びながらもルビアンを気にしている。


「見りゃ分かるだろ」


 ルビアンが言った。目の前で見せたのだから当然だ。老人は小柄の男性で痩せこけていたが、歩行には杖を必要としないほどの力強さがあった。そんな彼がルビアンを見ながら静かに口を開く。


「直してほしい物がある」

「直してほしい物?」

「ああ、この石版なんだができるか?」


 老人がバッグから取り出したのは紫色のバラバラになった石版である。全部で数十個に割れており、石板の所々に見えている古代文字がルビアンには不思議に思えた。


「――これどっから持ってきたんだ?」

「これは貰い物だから詳しい事は分からん。修復の魔法を使えば何か分かるかもしれんと思ってな。わしはこれを直せる者をずっと探していたのだ。どうか直してはくれんか?」

「分かったよ」


 老人が早く直すように勧めながら頭を下げると、ルビアンが言われるままにその石版を直すべく手をかざし、修復の魔法によって紫色の石版がその鮮やかな光沢を放ちながら直っていく。


 直ってみれば丁度ルビアンの両手で持ち上げられるくらいの大きさの石版となった。


「おお、ありがとう。おかげで助かった」

「確か修復の魔法を持ってる人ってなかなかいないんですよね?」


 カーネリアが接客態度を維持したまま老人に尋ねる。


「ああ、わしの知る限りだと、その若造以外には知らん」

「では修復料金をいただきます」

「おいおい、値段の交渉はしておらんぞ。だからこれはただに――」

「ひいっ!」

「お客さん、仕事には対価がつきものである事をご存じないのですか?」


 カーネリアが長剣を石版に向けながらにっこりとした笑顔のまま氷のように冷えきった声で尋ねる。料金を払わなければ石版を壊すと言わんばかりである。


 カーネリアの殺気を察したルビアンは他人のふりをしながらキッチンへと戻っていく。彼にとって彼女を抑えるのは管轄外である。


「わっ、分かった。金なら払おう。いくらだ?」

「では1万ラピスでどうです?」

「いっ、1万ラピスっ!」

「無論、ランチ代とは別料金です。それとも石版をさっきの状態に戻しますか? もっとも、さっき以上にバラバラになるかもしれませんけど、対価を支払えないのであればそれも仕方ないかと」


 こいつっ、何であんな笑顔で怖い台詞を吐けるんだよ!? ったくこいつが敵じゃなくて本当に良かったぜ。


 ルビアンはカーネリアの交渉術に敬服すると共に恐れおののく。老人はあわあわと口を開けながら全身の力が抜けたようにその場にペタンと座る。


「くぅ~、もってけドロボー!」


 老人はバッグからありったけのお金と光沢を放った宝石を出して置くと慌てて逃げ帰った。


「ありがとうございましたー」


 通貨であるラピスと補助通貨であるラズリの他、宝石も通貨の代わりとして扱う事が認められており、宝石を通貨の代わりに貯め込む者もいる。


「わりぃ事しちまったな」

「ちゃんと確認したはずだぞ。修復の魔法を使える者が数えるほどしかいないのであれば、物を直せるというだけで相当な希少価値があるのだから、これくらいの対価を取っても問題はないはずだ。これで食堂の危機に備えられるな」

「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ。カーネリア、次からは適正価格を決めてから交渉しろよな」

「分かった、そうする。だがルビアンも甘すぎるぞ。もっとこの能力でお金を――」

「それだっ!」


 ルビアンが何かを思いついたような顔で叫んだ。


 2人は食堂の仕事の他、修復の魔法を使った修理の仕事で稼げるのではないかと考えた。つまりは副業である。


 ルビアンはグロッシュに修理の仕事を掛け持ちする許可を貰い、さらにガーネからはエンペラーポーションの値段よりも安い料金で回復の魔法を使う仕事も勧められる。


 モルガンはこのムードの中で完全に置いてけぼりであった。


 ルビアンがガーネやカーネリアと親しくなっていくのが解せなかった。彼女にとってそのような光景を見せられる事は敗北にも等しい屈辱である。


 稼げるかどうかは不安だけど、今日からやってみるか。何で今まで思いつかなかったんだろうな。フリーで日銭を稼いでる時は当たり前のようにやってたのにな。


 ルビアンがそんな事を考えていると、モルガンが真剣な眼差しで彼に近づいた。


「ルビアン、1つ仕事を頼みたいんだが――」

「断る」


 台詞を言い終える前に彼が言葉を遮った。


「まだ何も言ってないだろっ!」


 彼の早すぎる回答にモルガンが思わずツッコミを入れる。


 ルビアンとしてはモルガンとは距離を置きたかった。王都部隊でアルカディアの面々と顔を合わせるだけでもかなり気まずい。


「どうせロクな事じゃねえだろ」

「古代文字の翻訳ができる者を紹介しただろう」

「はぁ~」


 ルビアンが空気の抜けた風船のようにやる気をなくし、近くにあるテーブル席に座るとそのまま顔を横向きにして木製の四角いテーブルに突っ伏した。


「何故ため息を吐く?」

「お前とつき合うのが心底嫌だからだよ……!」


 ルビアンがつい本音をそのまま吐き出した。すると、モルガンの目から涙がボロボロ流れてくる。彼女は信じられないと言わんばかりに口と鼻を手で押さえた。


「うっ……ううっ……私はただ、ルビアンに幸せになってほしいだけなんだ……仕事を発注して……少しでも貢献したいだけなのにっ……」


 その場の空気が一瞬でとてつもなく気まずくなる。


 モルガンにとって愛する者から拒絶される事は胸を刃物で刺されるよりもずっと痛いのだ。ガーネもモルガンもルビアンを冷たい目で見つめている。


 男性陣たちも何やら気まずい表情であった。

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