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第55話「耐え抜いた持久戦」

 ルビアンがフラムで反撃を開始する。だが加里は疲弊していて動けない。


 カーネリアは玄武に押され気味であった。


 鋼の鎧と怯む事なく一心不乱に突撃してくるその俊敏な猛攻はカーネリアにとっては脅威でしかなく、岩石系の魔法がほとんど効かないのも不利をとっている要因であった。


 彼女にとっては相性最悪の相手だ。そんな中、ルビアンの手からフラムが放たれた。ルビアンの数少ない攻撃手段であるアイテム攻撃が加里を強襲する。


 ――加里は防御の構えを取り目を瞑った。


 だが彼女自身の身には何も起きておらず、彼女が恐る恐る目を開けると、そこにはダメージを受け、体から煙がモクモクと上がっている玄武の姿がある。


「オレ、アイテムコウゲキ、ニガテ」

「何やと!」

「なるほどな。あいつに物理攻撃は全然効かねえけど、魔法攻撃やアイテムなら別ってわけだ。あいつらの狙いも分かったぜ」

「どういう事だ?」

「あの2人がコンビを組んでいるのは、あのデカブツの苦手な魔法攻撃やアイテムを持っている奴をあの女が引き受けるためだったんだよ」


 クッ! 玄武の魔法防御の低さを隠すためにあいつを一手に引き受けたっちゅうのにっ! これじゃ完全に足手まといやんけ。


 加里がコンビの弱点に気づかれた事で焦り顔になり、汗が額を伝っている。


 ……ん? あの男、笑っている。何のつもりだ? ……この大勢の足音……まさかっ!


「あと30秒で俺たちを倒せなきゃ、お前らは援軍の餌食だ。どうする? まだやるか?」


 ルビアンが剣を加里に構えながら長期戦に応じるかどうかを尋ねる。


「クッ! 玄武っ! ここは一旦退くで! 分が悪すぎるわ。退けっ! 退けえっ!」

「オレ、ザンネン」


 加里と玄武がワイバーンに飛び乗るとそのまま遠くへと飛んでいき、他のジルコニア軍の兵士たちも逃げるように船へ乗り去って行く。


 ルビアンたちの後ろから王都部隊の援軍が駆けつけてくる。


「援軍を呼んできたわ。あれっ? 敵はどうしたの?」


 クリソがきょとんとした顔でカーネリアに尋ねる。


「敵ならルビアンに恐れおののいて逃げていったぞ」

「ルビアン、状況を説明しろぉ」


 アベンが冷徹な顔でルビアンに尋ねる。砦を守るように張り巡らされている岩壁にも疑問を持っている様子。


 ルビアンはありのままを全て話した――。


 彼の耐えに耐えて反撃の機会を待つ持久戦略は相手に消耗させるためだけのものではなく、総合戦力では不利と見ていた彼は援軍が来る時間稼ぎをも兼ねていたものだった。


 だが戦いのセオリーには大きく反していた。情勢が不利な場合は砦を放棄して援軍がいる方向へ逃げてから迎え撃つのがより安全な方法であった事がアベンの疑心を煽る。


 ルビアンにとって古代文字の翻訳はダイヤモンド島の情報を得るための唯一の手掛かりであった。


 だが文学や考古学に興味のないアベンにそれが伝わるはずもなく。


「ふん、なるほどなぁ。だがてめえらがここに居座ったせいでわが王都部隊から多くの死傷者が余分に増えたぁ。どう責任を取るつもりだぁ?」


 アベンは厳格な態度でルビアンの処遇を問う。


 彼にとってコリンティア以外の功労者は邪魔でしかなく、隊長である自らの地位を脅かしかねない存在でもあった。ルビアンはその中でもかなり目立っている方であったため、アベンからはかなり前からマークされていたようである。


「アベン、ここの兵長に戦力を残すように指示したのはあたしなの」

「いや、セオリーに従わなかったのは俺の責任だ。今生きている奴を全員回復させるよ」


 ルビアンは負傷した兵士に駆け寄り、その場で全体回復魔法を発動すると、王都部隊の兵士たちが見る見るうちに回復していき、傷があった患部が高速で塞がっていく。


「「「「「おお~っ!」」」」」


 元気を取り戻した兵士たちが嬉しさのあまりはしゃぎ始める。


 これによってアベンはルビアンを咎めにくくなった。


「アベン、今回は許してあげて。この砦には戦力を費やしても守るべきものがあったの」

「てめえのくだらん趣味のために危うく全滅の危機とはお笑いだぁ。まあ、いいだろう。今回はクリソに免じて勘弁してやるぅ」


 あのルビアンとかいう男、ジルコニア軍の四天王2人と互角に渡り合うとは――奴もなかなか隅にはおけんな。しばらくは様子を見させてもらうとするか。


 さすがはアルカディアにいただけあって一筋縄ではいかん男よ。


 アベンが増援部隊を解散させ、それぞれの持ち場へと戻らせた。


 ルビアンは岩壁だらけの砦をこじ開けて中へと入り、翻訳に必要な資料が全て無事である事を確認するとホッと胸をなで下ろす。


 ルビアンが何度もぶつかった衝撃からか、床には紙の資料がばらばらに落下している状況だ。それらを3人が拾い集めると、クリソがいつものように椅子に座り翻訳作業を始める。


「じゃあ分かったら食堂まで使いを寄越してくれ」

「分かったわ。でも、よく守ってくれたわね」

「大事なものなんだろ?」

「ええ。戦争中とはいえ、やはり研究はうちでしたいものだわ。アベンがここにいないと研究はさせないって言うから、仕方なく資料室ごと引っ越してきたのよ」

「あんたも大変だな」


 ルビアンがクリソに同情しながら部屋中の資料に目をやると、そこにはコリンティア総出で集めてきた古文書の数々が揃っている。


 中でも彼の興味を引いたのは、強大なドラゴンに立ち向かう剣と鎧を装備した者たちが力強く描かれた迫力ある古代の石版であった。


 その石版には見覚えのある存在が移っていた。

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