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第54話「砦を死守せよ」

 既に外では戦闘が始まっていた。


 剣と刀が鳴らし合う音や魔法攻撃による爆発音が夜空へと響き、それがいつもの平和な海岸が戦場と化した事を示していた。


 ルビアンとカーネリアは前線へ向かおうとするが、クリソはその場から一向に動こうとしない。いや、動けないのだ。


「クリソ、何でそこにいるんだよっ!?」

「この砦には古代文字を翻訳するための資料があるの。離れられないわ」

「んな事言ってる場合かよっ!」

「もしこの砦が陥落したら当分は翻訳なんてできなくなるわよ。それでも良いの?」

「クッ……」

「ルビアン、ここは砦を守るしかないようだ」


 カーネリアが冷静にルビアンをなだめ、この砦を守る事を決意する。


 彼女は岩壁の魔法を使い、手から魔力を放出すると魔力の光が岩の壁へと変わっていく。


 砦の周りには岩でできた壁が次々と敷き詰められ、外から見た姿はまさに要塞と言えるものであった。


「――すげえな」

「これで当分は時間稼ぎができる」

「ふーん、なかなか粋な事してくれるやないか」

「「「!」」」


 少し遠くから声が聞こえると、ルビアンたちは砦と真反対の方角へと首を向けた。


 そこには最前線の兵士たちを倒して進軍してきたジルコニア軍の姿があった。そこには2人の将軍が堂々とした姿でその場に佇んでいる。


 長石加里(ながいしかり)。ジルコニア軍四天王の1人であり、茶色の短い髪を風になびかせ、細身の体よりも長い槍を持ち、それをルビアンの前へと向けている。


 正面突破が大の得意であり、龍殺しと呼ばれる鋭い長槍で多くの上級ドラゴンを葬ってきた。


 その後ろにいる大男は大剣を構え、それをカーネリアの方へと向けている。


 尾久玄武(おぐげんぶ)。ジルコニア軍四天王の1人であり、ガタイの良い力持ちな男だ。スキンヘッドでオニキと同じくらいの大きさであり、まるで山を前にしているような威圧感がある。彼には一切の感情がなく、常に無表情のまま大剣を振り回して戦うのが特徴である。


「オレ、アイツ、タオス」

「分かった。ほなうちはあの赤髪の可愛い少年を狙うわ。砦から動こうとしないっちゅう事は、あの岩で囲まれた砦になんかあるんやろ?」

「いや、これ自体はただの砦だぜ――」

「問答無用っ! どりゃあああああっ!」


 加里がすぐに彼らの狙いを見破り、その長槍で炎をまといながらルビアンに突撃する。


「ぐわあああああっ!」


 ルビアンが砦を守っている岩壁に激突する。これが加里の必殺技、一点突きである。


「どうや? うちの一点突きの味は?」

「ぐうっ!」


 こいつっ……つえぇ……今までの敵と格が違う。一体何もんだ?


「ルビアンっ! 大丈夫かっ! ハッ――」


 カーネリアが咄嗟に自らの長剣を横に構えて太刀を受けとめる。


「あんたの相手は玄武や。仲良くしたってやー。まっ、仲良くなる前に死ぬやろうけどな」

「言ってくれる」


 カーネリアが玄武を振り払い長剣に魔力を込めると、それを加里と玄武に向かって思いっきり打ち出す。ルビアンはその間に起き上って回復魔法を自らに施した。


「ぐうっ!」

「……」

「「!」」


 加里には少しばかり効いたが、玄武にはほとんどダメージが入ってない事にルビアンとカーネリアが焦り顔になる。


「何だこいつ……攻撃がまるで効いていないだと」

「今のはちょっと効いたわー。でも玄武には効かんで。玄武は鋼のボディとハートの持ち主や。その程度の攻撃やったら跳ね返せるんや」

「クソッ! 何か良い手はねえのかよっ! あれっ、クリソはどこ行った?」

「応援を呼びに行った。ここは2人で食い止めるぞ」

「おいおい、ただでさえ戦力で負けてるってのによー」

「あれは味方を見捨てて逃げてしもうたかもしれんなぁー。この勝負もろたで。どりゃあああああっ!」


 加里の一点突きがまたルビアンに直撃する。


「ぐわあああああっ!」


 ルビアンがまたしても砦に激突し、次々と岩壁が壊れていくが、ルビアンはすぐに立ち上がって回復魔法を自らに施した。


「あんたを弾にして砦の岩を壊すのもおもろいかもしれへんなー。でももうさすがに――」

「ならやってみろよ」

「なにっ! もう回復したっちゅうんか?」

「ああ、今度はこっちの番だ」


 ルビアンがフラムを加里に向かって投げようとバッグから取り出そうとする。


「攻めるん遅いわ」

「ぐわあああああっ!」

「はぁはぁ――これでどうや? さすがにもう無理やろ?」


 加里が攻撃を決める毎に段々と疲弊し息が上がっていく。彼女は肩で息をしており、その長槍を杖代わりにしなければ立てないほどであった。


「どうした? もう終わりか?」

「!」


 さっきからどないなってるんや。やっつけたと思ったらもう復活してるやないか。やばい、これ以上はうちの体力が持たへん。


「そっちが来ねえならこっちから行くぜっ!」


 ルビアンがまたバッグからフラムを取り出そうとする。


「まだまだぁ!」


 加里は残りの力を振り絞って一点突きをルビアンに直撃させる。


「ぐわあああああっ!」


 またしてもルビアンが砦の岩壁の激突する。


「もう一発来るか?」


 はぁはぁ。な、なんや。一体何が起きてるんや。まるでゾンビやないか。このままじゃこっちの体力が――まさかっ!


「やっと気づいたみてえだな」

「お前、まさか最初から一点突きを受け続けようとしたんか?」

「ああ、思ったより早くへばってくれて助かったぜ」


 一点突きはその絶大な威力に加え、相手の防御力を無視する貫通能力まで持っている強力な技である。だがこの技には欠点があった。


 それは使う度に体力を著しく消耗するという点である。


 ルビアンは様々な回復魔法を駆使する事でこの技を何度も使わせ、加里の体力消耗を狙っていた。これこそルビアンの最も得意とする持久戦略である。


「分からねえなら教えてやる。これは自動回復の魔法だ」

「自動回復の魔法やとっ!」


 自動回復の魔法は文字通りダメージを受けた瞬間から体力が全回復するまで自動で回復し続ける永続魔法である。


 ルビアンはわざと一点突きを受け続け、自動回復の魔法と回復の魔法を重ねて使用する事ですぐに無傷の状態に戻っていた。加里の体はもう動かなかった。一点突きを使い続けた反動で立っているのが精一杯であった。


 ルビアンが今度はフラムをバッグから取り出してそれを構えた。

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読んでいただきありがとうございます。

長石加里(CV:佐倉綾音)

尾久玄武(CV:玄田哲章)

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