第52話「譲れない拘り」
その頃、ルビアンは女王の部屋へと瞬間移動していた。
ディアマンテと対面したルビアンは表情が固まっている。半分は失望、半分は呆れだ。あろう事か食堂を軍需工場に選んだ事にルビアンは静かに激怒する。
一方でディアマンテも逆らう者には厳格であり、ルビアンが直談判へ来た事はすぐに分かった。食堂のジルコニア料理はついにジルコニア米を使ったチャーハン類と白米の定食のみとなってしまった。
ジルコニア産の海老の在庫が底を尽きてしまい、エビピラフがメニューから消えた。それだけでもルビアンには耐えがたい苦痛であった。
何とかしてチャーハンだけでも守り抜きたいルビアンは女王への直談判を思い立ったのだ。
「ディア、うちの食堂を指定軍需工場から外してくれ」
「何故だ?」
ディアマンテは後ろを見ながらルビアンに問いかける。彼女は召使いたちによって服装の装飾をしている最中であった。
「メニューも値段も決められちまったら、うちがうちじゃなくなるんだよ。あんたにとってアモルファスが大事であるように、俺にとっても食堂が大事なんだよ」
「軍需工場となれば兵士たちが進んで食堂へ来てくれる。経費が足りない時は国から補助金が出るのだぞ。それでも拒むと?」
「ああ、そのつもりだ」
この男、一体何のつもりかは知らぬが、何故そこまで食堂に拘る?
ディアマンテは不思議がっていた。多くの食堂や居酒屋は軍需工場に指定された途端に飛び上がるように喜ぶ。需要が増える事で生活を保障されるからだ。
だがルビアンだけは違った。彼はガーネたちの食材への拘りに感心を寄せており、彼もまたアルカディアで食料調達をしていた頃から食材への拘りを捨てきれず、信念を曲げなかったために食材を確保できなかった事がある。
他のメンバーから度々空腹を訴えられ、次第に陰口を叩かれるようになる大きな要因となっていた。
彼はガーネたちと良好な関係になったきっかけが食材への拘りであるという事実を食堂の軍需工場化によってむげにされる事を恐れていた。
もう居場所を奪われたくない。これがルビアンに行動を起こさせた。
「……勝手にしろ」
「じゃあ外してくれるんだな」
「今回はこの前の功績に免じて引き受けてやるが、食堂が潰れても妾は知らぬぞ。今は古代と違って全王国民に社会保障を施す余裕がない。軍需工場に指定される事のありがたみを知る日がやってくるかもしれんぞ」
「その時はその時だ。じゃあな」
ルビアンが瞬間移動で食堂へと戻っていく。
宮殿内では今日も様々な陰謀が交錯するのであった。
食堂に戻ったルビアンはこの事を同僚たちに伝え、食堂は指定軍需工場から外される事となった。彼らは閉店時間を迎えると久々にコーラルバーへと赴く。
「おっ、いらっしゃい。レアキャラのお出ましだなー」
久しぶりに会ったアメジがルビアンの訪問を珍しがる。
「流行ってそうにないみてえだから同僚を連れてきてやったってのに、今日は随分流行ってんだな」
「――もしかして就職したのか?」
「ああ、今はレストランカラットで働いてるよ」
「マジかよっ!? どこへ行っても嫌われまくりなルビアンが就職かよっ! はははははっ! 明日は雪でも降るんじゃねえか?」
「うるせえ。さっさと注文させろっての」
「へいへい」
ルビアンたちがカウンター席へと座る。左からグロッシュ、ペリード、ガーネ、ルビアン、カーネリアの順番で座っている。
以前までは常連である各討伐隊の面々を除いては客がほとんど来なかったが、ルビアンが周囲を見渡してみれば、そこには多くの兵士たちが飲み干した木製のジョッキをテーブルに叩きつけながらのんびりとくつろいでいる。
キッチンの黒板にはメニューと値段が乱暴に書かれており、ルビアンたちはそのメニューを見ながら1人ずつ注文していく。
「そうだなー。俺はドライ・ジンだなー」
「じゃあオイラはビール」
「私はダイキリ頼もうかな」
「俺はカシスオレンジ」
「あたしはスピリタス」
「はいよー。ちょっと待っててくれ」
アメジがいつになく慌ただしい様子だ。彼はバイトを雇い、アルコールから料理までをきびきびとした表情で作っている。
しばらくは裏から全く出てこなかったが、その間ルビアンたちは1人のバイトと話す。
ソコラ・マカライト。この店の唯一のバイトである。青緑色のショートボブである。性格は活発そのもので元気が良く、細身ながらもジョッキを何杯も軽々と運べる力持ちだ。
戦力不足のためにパーティが解散したと同時に引退し、今はコーラルバーの店員として働いている。
「でもルビアンが就職してくれて本当に良かったよー。アメジも気にしないふりしてるけど、本当はルビアンの事が心配だったみたいなのよー」
「まっ、結果オーライってとこだ。ここって指定軍需工場なのか?」
「うん、そうよ。メニューも値段もがらりと変わったでしょ。でもこれで当分は安定した生活ができるから本当にラッキーよ」
「ラッキーか――うちは戦争のせいでジルコニア料理をほとんど売れなくなっちまったのによ」
「あっ、ごめんね。戦争はなくなってほしいけど、需要がなくなったらまた生活苦になっちゃうから、私としては複雑だわ」
ソコラがルビアンを気遣うように話をカバーする。
戦争によって救われるものと殺されるものに分かれているこの現状をルビアンは由々しく思っていた。彼は特別討伐隊として王都部隊への合流及びダイヤモンド島上陸作戦への参加を打診されていた。
だが彼には1つ気がかりな事がある。ジャスパーの事だ。彼はアモルファス島を守る総督でありながら王都部隊には一向に関わろうとしなかった。それだけが彼の関心を捉えていた。
ルビアンがそんな事を考えていると、またしてもアルカディアの面々が入ってくる。ルビアンが聞き覚えのある声を聞くとあからさまに嫌な顔をする。
モルガンがルビアンの後姿に気づく。彼女は他のメンバーたちが酔っている間にさり気なくルビアンに足音も立てないように少しずつ近づいた。
ようやく彼に貢献できる事を信じて。
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ソコラ・マカライト(CV:小倉唯)




