第51話「冷徹なる王都部隊」
お待たせしました。
第4章の始まりです。
日常回とボリュームが多めになるかもしれません。
アモルファス島の東海岸では王都部隊が出撃の準備中である。
彼らは木造の戦艦をその場で造船し、既に修復された東海岸の海岸沿いにある砦に駐屯している。
戦艦部隊が揃えば彼らはすぐにでも出発する予定である。だが準備が整いそうになる度にジルコニア軍が攻めてくるのが悩みの種であった。
ジルコニア軍もまた木造の戦艦を使い牽制をする。ダイヤモンド島へ近づくなと言わんばかりに。
ルビアンは特別討伐隊として王都部隊に召集され、食堂は軍需工場に指定される事となったが、彼はそれに全力で抵抗するべくディアマンテの元へ赴くところであった。
――モルガンは王都部隊の隊員として他のアルカディアのメンバーたちと東海岸の守備に当たっている。
「いいかてめえらぁ! 我らは準備が整い次第ダイヤモンド島を取り返し、この戦争における主導権を取り返す事が期待されているぅ! 足を引っ張りやがった奴らは容赦しねえから覚悟しやがれぇ!」
大きく低めの声で叫ぶ1人の大男の姿がある。
アベン・ゲーサイト。左目に黒い眼帯をつけており、顔にはいくつかの傷がついている。落ち武者のような髪型に加え、濃い緑色の鎧をジャラジャラ鳴らしながら王都部隊を鼓舞するように演説しており、自らの意気込みを語ってはいるが、これは戦力にならない者を蹴落とすための警告でもあった。
彼は数ある討伐隊の中でもトップクラスの実績を誇るコリンティアの隊長であり、その冷徹な見た目と立ち振る舞いから鬼棍棒と呼ばれ恐れられている。
「戦艦の準備が整い次第出発するが、しばらくはジルコニア軍の抵抗に遭う事だろう。だがそんな事で負けるアモルファス軍ではないっ!」
「「「「「おお~っ!」」」」」
アルカディアのメンバーたちもその演説をジト目になりながら聞いている。アベンの斜め後ろで腕を組みながら佇んでいる女性が薄い緑色の姫カットを風になびかせ、演説中の彼を微笑ましそうに見つめている。
クリソ・プレーズ。コリンティアの参謀的存在であり、アベンの側近でもある。細身で長身な考古学者であり、遠征の仕事がない時には家に引きこもり、古代アモルファス王国の研究をしている。
「相変わらず気合が入ってるわね」
「ダイヤモンド島の奪回はそう容易くはない。こいつらの多くはロクに戦争の経験も積んでいないおこちゃまばかりよ……ん? もう謹慎が解けたようだなぁ、モルガン」
アベンがアルカディアの面々に気づき彼らに向かって堂々と闊歩していくと、その鎧の音と共に聞こえる掛け声にモルガンたちが気づく。
「ああ、おかげ様でな。こうして会うのも久しぶりだな」
「悪いが今は俺が王都部隊の隊長だぁ。今は俺の方針に従ってもらうぞ」
「無論、そのつもりだ。だが味方を殺すようではまだまだだな」
「何の事だぁ? まさかオブシディ、貴様が何かデマを吹っかけたのか? この出来損ないの裏切り者の分際で我らに逆らうとは良い度胸だぁ」
「貴様らの所業は俺が1番よく知っている。ずっとメンバーだった者のレビューが間違っているとでも言いたいのか?」
「口だけは達者になったようだぁ。いいだろう。その減らず口を黙らせてやるぅ。武器を構えろぉ! どこからでもかかってきやがれぇ!」
「ふん、上等だ。くらえっ!」
オブシディが挑発に乗り長剣を構えると、そこに自らの魔力を込め、青白く光る極太の光線をアベンに向かって打ち出した。これがオブシディの得意とする攻撃魔法、光線の魔法である。
「オブシディ、よせっ!」
アベンがいた場所に極太の光線が当たると大爆発を起こし、辺りには炎と共にモクモクと黒い煙が上がっている。
「確か訓練中の死亡は事故死として扱われるんだったよな?」
「その通りだぁ!」
オブシディの真後ろからアベンの声が聞こえる。
「何っ――」
オブシディが気づいた時には既にアベンの棍棒が彼の背中に直撃していた。
「ぐわあああああっ!」
オブシディがバットに当たったボールのように遠くまで飛ばされ平地を勢いよく転げ回る。彼はもはや立ち上がるのが精一杯であった。
「死ねえええええっ!」
「!」
アベンが棍棒を持って立ち上がろうとしていたオブシディに襲いかかる。
「やめろっ!」
「「「「「!」」」」」
モルガンがその俊敏な脚でアベンに追いつくと、オブシディの前に立ち、盾となるように両手を広げてアベンの前に覚悟を決めた表情になりながら立ちはだかる。
「その辺にしておけ。これは訓練の域を超えている」
「一度始まった訓練に水を差す気かぁ?」
「殺るなら私を殺れ。仲間には手を出すな」
「――ふっ、ぬるま湯に浸かっている間に随分と弱くなったなぁ、オブシディ。まあいい、今回だけはモルガンに免じてこの辺で勘弁しておいてやる。命拾いしたなぁ」
アベンはそう告げると、その細長く所々に尖りがある黒い棍棒を背中の鞘にしまい、ツカツカと海岸まで歩いていく。アベンの足元には彼の足跡がついている。
クリソが冷めた顔で本を持ったままモルガンとオブシディに近づく。オブシディの背中からは血が流れており、それが洗練された棍棒の凶悪さを表わしていた。
「エンポーよ。すぐ元気になるわ」
「ありがとう。助かるよ」
「これで分かったでしょ。何故彼があなたに代わって隊長に選ばれたのかが」
モルガンはそう告げられると自らの甘さを痛感する。彼女はアモルファス軍で実績があるアベンとの明らかな経験の差を認識する。
「――その本は?」
「これ? ただの古文書よ。この前の遠征先の遺跡で発見したの。もっとも、無学歴なあなたたちでは読めないでしょうけど」
クリソは嫌味っぽくモルガンに言葉を放ち得意げな顔で彼女たちを見下すが、彼女にとってはどうでもいい事であった。
「まさか、古代文字を読めるのか?」
「私は考古学者よ。あなたたちと違って高等な教育を受けているわ」
「お前さっきから聞いてりゃ高学歴自慢ばっかりだな。転がされてえのか?」
トパーが彼女の言葉に過剰反応を起こしながら彼女に詰め寄る。
「よせ、コリンティアはフェニックスを始めて倒したパーティだぞ」
「俺たちも上級ドラゴンを始めて倒した王都のパーティだぜ」
「今は争っている場合じゃない。私たちの敵はコリンティアじゃなくジルコニア軍だ。気持ちは分からなくもないが、今は耐えてくれ」
モルガンは耐えた。他の誰でもないルビアンに貢献するために。
そして自らと結婚してもらうために。
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読んでいただきありがとうございます。
アベン・ゲーサイト(CV:若本規夫)
クリソ・プレーズ(CV:田中理恵)




