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第5話「レストランカラット」

 ルビアンは王都の街中へと戻る。しかし給料には不満な様子。


 宮殿の掃除こそ終わったものの、その対価が少なすぎると感じていた。しかも瞬間回復を無駄に消費した事を考えればなおさら。


 パーティ追放から1週間後――。


「駄目だ。全然仕事が見つからねえ。サーファはどうだ?」

「こっちは何とか資金不足でエンポーが買えないパーティの回復担当(ヒーラー)としてどうにか雇ってもらってるけど、討伐をこなせば資金が手に入る。後は分かるな?」

「さしずめ、臨時の助っ人ってとこか」

「ああ、今はどこのパーティへ行っても雑用かエンポーを買うまでの助っ人だ。贅沢なんて言ってられなくなっちまったなー」


 ルビアンとサーファは職探しで手一杯であった。


 どこへ行っても主な長所が回復である人々の待遇などたかが知れているし、同情を集めるほどに誰もが知るところとなっている。ルビアンはモンドホテルの中でも最も安い一室に住んでいたものの、段々と資金が少なくなっていく。どうにかして稼がなければ食費どころか宿泊費さえ足りなくなり、野宿をする事になってしまう。


 持ち家の1つでも買っておけばよかったと彼は後悔する。


「なあモルダ、モンドホテルで俺を雇ってくれねえかな?」

「俺に言われても困る。俺はモンドホテルの雇われ店長だ。ギルドの取り扱い以外は俺の守備範囲外だから人事権もない。そういう事は総支配人にでも言うんだな」

「はぁ~、このままじゃ飢え死にだ。もう113ラピスと55ラズリしかねえ」

「やれやれ、また明日来てくれ。もしかしたらルビアンに合う仕事がくるかもしれねえからな」

「ルビアンは俺より大変みたいだな。あっ、そうだ。これからレストランカラットまで行くか?」

「ああ、良いぜ」


 ルビアンはサーファの案をすぐに快諾する。レストランカラットは王都の大衆食堂であり、モンドホテルから近い場所にある。木造でできた比較的大きな建物であり、50人程度が座れる所である。


 ルビアンが座るのはいつもそこのカウンター席である。


 王都のレストランの中では最も客単価が安く、レストランカラットにとってはそれが1番の売りなのだが、特別繁盛しているわけでもなく、売り上げはそこそこであり、不況になればなるほど売り上げが上がるモンドホテルとは対照的であった。


「あっ、いらっしゃい。久しぶりじゃん」


 ルビアンと顔を合わせるや否や、真っ先に声をかけてきたのはガーネ・メラナイトという女性である。彼女はこの食堂の看板娘であり、ルビアンやモルガンとはかなりの仲良しである。


 その後ろで調理を淡々とこなしている短髪の男はグロッシュ・メラナイト。彼はガーネの父親であり、男手1つでガーネを育ててきた健気な男である。レストランカラットの店長であり、一人娘のガーネには甘いところがある。


 のんびり屋な性格でサービス精神旺盛であり、そのせいか料理のボリュームがいつも比較的多いのが特徴だ。その事でいつもガーネから怒られるのが日常である。


「いつもの」

「うん、分かった。モルガンはどうしたの?」

「あー、あいつは忙しいみたいだ。あいつ結構人気あるからな」

「なるほどねー、幼馴染にすっかり人気を独り占めされちゃったわけだ」

「仕方ねーだろ、俺たち回復担当(ヒーラー)の価値が下がっちまったし、どのパーティも安心してインファイトができるようになったから、必然的に最も攻撃力の高い剣士や棍棒使いが人気になるのはしょうがねえよ」

「ガーネ、注文が増えてきたから手伝ってくれー」

「はーい。ちょっと行ってくるね」


 書き入れ時か、でも彼女の顔を見れただけでも十分だな。


 ルビアンは店の看板娘である彼女に惚れ惚れしている。いつも忙しそうに働く彼女に心配はかけられないため、パーティから追放された事は言えなかった。


「俺、王都に来てからあんまり時間が経ってないんだけどさ、あの子結構可愛いよな」

「あー、ガーネか。この店の常連の中にはあいつのために来てる人もいるからな」

「まさかルビアンがここの常連とはな。いつも何注文してるんだ?」

「ここのチャーハンは4ラピス50ラズリで腹いっぱい食えるんだ。肉と卵も美味い。いつもはラーメンとセットで8ラピス60ラズリ払って注文してたけど、今じゃそれもできねえ」

「じゃあ俺もチャーハンを注文しようかな」


 しばらくすると、ガーネがチャーハン2人前を持ってくる。


 相変わらずのボリュームにサーファは驚いているが、ルビアンはむしろ喜んでいる。いつだって食べ残す事はなかった。食える事のありがたみが彼には痛いほど分かるのだ。


「す、すげえな――ってもう食ってるし!」


「うん、やっぱここの味はこうでないと。何度食べても飽きない常食の味だぜ」

「ここのメニューって、ジルコニアのメニューが多いな」

「ああ、店長のグロッシュがジルコニアと貿易をしててな。その中でも特に米が安かったから、それでこの食堂を始めたんだ」

「王都から仕入れている小麦粉は値段が変わりやすいんだ。でもジルコニアから仕入れている米はいつも安定して安いから、こっちの方が良いと思ったんだよ。それに拘りもあるしな」


 ルビアンたちはいつものように雑談を楽しむ。それが彼にとって至福の一時だった。


 段々と尽きていく資金の事を、この時だけは忘れる事ができた。


 彼は貧しくなるほどに料理を美味しく感じるのだった。

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ガーネ・メラナイト(CV:内田真礼)

グロッシュ・メラナイト(CV:小山力也)

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